第122話 あれが噂の


「――――――――」


「――――――――」


「――――――――」


 学内がざわめいていた。


 衆人環視の注目度合いは鯉の滝登り。二次曲線的に右肩上がりを地で行く沸騰具合でございました


 悪事善事は千里を走り、結果として、波濤と伝播する。


 本気を出した私。


 顔を出した春人。


 見た目、百合百合なバカップル状態だった。


「アンデルスってあんなに可愛かったのか……」


 とは男子の批評。


 ――ふふん。


 知っていたのは私だけ。そして私の手元にある。ソレの何と愛おしいことか。とても一言では語り尽くせない。


「あう……」


 気後れする春人も愛らしい。


 机も隣同士だし。


「付き合ってるの?」


 痛みを堪えるように五十鈴が問うてきた。その心情はあまりにあまりだから察することも出来ない。


「まね」


 私は肯定した。春人も肯定する。


「まぁ……」


「そっか。おめでと……」


「どもども」


 パシパシと五十鈴の肩を叩く。


 フったばかりだけど、ガーゼは当てない。


 病は気から。


 授業が始まり……そして終わる。


 昼休みだ。


「春人。五十鈴。今日は何食べる?」


「えと……」


「エビ天蕎麦!」


 ソレも良いね。蕎麦は日本の文化ですし。


「有栖川さん?」


 女子が声を掛けた。


 空気を読むに、クラスのリーダー格。


 派手目のメイク。カラーコンタクト。ただし髪の色は黒。


 私が茶色で、春人が金色……ついでに五十鈴は紅茶色。


 ある意味で浮いている。


 今頃自認することも無いけど。


「あっしらのグループ入らない? 勉強教えて欲しいんだけど」


「生憎と間に合ってますので」


 春人をナデナデ。彼が居るだけで万事が許せる。他に何が要るかは……まぁその時に考えましょ。


「ふじこ……」


 春人の方は困惑らしい。


 けれど愛おしい。


 一人が寂しいのは、私も一緒かもね。いや正味な話。孤独は死に到る病だ。


「アンデルスさんは?」


「恐い……」


「…………」


 無言で視線を五十鈴に向ける。


「ま、髪の色の都合で、この二人と居た方が気楽だから」


 それは確かに。


 そんなわけで、三人で学食。


 学食でも注目を集めた。


 私に関しては、「あれがシンデレラ」との御様子。


 春人は、「あんな可愛い子が女の子なわけがない」……なんて、感想としてはそんなところ。


 で、


「両手に花だな」


 と五十鈴が論評される。


「面白いね」


「緊張……」


「小生は今更ですけどね」


 過去に似た苦労もしたのだろう。


 私も。


 そして春人も。


 ――濁って。


 ――穢れて。


 ――汚れて。


「だから好意的だと思える」


 それもまた事実で。


 人より少しだけ……ほんの少しだけ……私たちの過去は近い。


「そだね」


 五十鈴も笑った。


「綺麗だよ陽子」


「あら。ありがとう」


「春人も可愛い」


「ふぇあ……」


 赤面。


 やっぱりエッチな目で見られると蕩けてしまうらしい。


「そっか。恋人か」


 同情かもだけど。


「周りが納得するかな?」


「知りません」


 人の都合に合わせるのは……実のところあまり好きではない。


「でも春人は渡しませんよ?」


「それは残念」


「え? えー……?」


 困惑の春人。


 マジ可愛い。


 鼻血出そう。


「にゃー」


 金髪の頭を撫で撫で。


「あう……その……何か……?」


「可愛いなって」


 そりゃもう本気で。

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