第118話 気まずい関係


「おはよ」


「おはようございます……」


「…………おはよ」


 最近の私たちはギクシャク。どうにかならんかな、これは。いや確かに責任問題を敵えば私に帰結するけども。


 つまり私は言わずもがな。


 春人には愛を伝えた。


 五十鈴は…………告白されて、私は未だに……返事をしていない。


 昼休み。


「有栖川さん」


「有栖川氏」


「有栖川くん」


「有栖川」


 高校の男子生徒が寄ってくる。


「散れ」


 二文字で拒絶。


 三人で学食へ。


「……………………」


「……………………」


「……………………」


 しばらく黙々と。誰彼が互いに距離を取っている。私は二人に。二人は私に。悪いことをしたのは私なんだけど……。


「あーっと……」


 五十鈴が口を開く。


「陽子?」


 はいはい。


「もうちょっと掛かりそう?」


「いえ。では今日の放課後にでも」


「そっか」


 ピシリと空間にヒビが入った。コレに関しては私のせいじゃない。


 それから午後の授業。


 六時限目は体育。


 試験勉強したいんだけど……。


「ふっ……」


 プロレイアップ。これで二十三点目。


 体育はバスケットだった。


 ま、それなりに出来る。お兄ちゃんと同じ設計図だしね。


 パスを受ける。シュート……にはちょっと遠い。パスする相手もいない。フェイント……ディフェンスのバランスが崩れる。ドリブルからのドライブ。切り込んだところで、センター。半身避けて、フックシュート。


「凄い」


 とは五十鈴の言葉。


「勉強と運動は別次元」


 後に私はそう言った。っていうか他にどう言えと?


 無明。


 授業終わり。着替えて教室へ。終わりのホームルーム。中間試験の気配が忍び寄ってきていた。


 勉強は怠っていない。


 学費免除も、これ有ればこそ。


 それとは少し事情は違えど。


「それで……あの……」


 春人と五十鈴。


 気まずいなぁ。やっぱり私のせいなんだけど。


「今日は図書室で勉強しますので」


「部活は……?」


「元々幽霊部員でしょう」


「あう……」


 他に言えないのだろう。


 立場が逆なら私もそうだ。


 ……何だかね。


 そゆわけで図書室へ。


 勉強に勤しむ。それは五十鈴も同じだ。


 ――いいのかな。


 ――いいんだろう。


 その化学反応が……如何な炎色を示すかは……燃やすほか無いのも辛いところではあったりして。


「いつも飽きないね」


「基本ですので」


 別に私だって何もせず学年トップは無理だ。


 勉強出来て、「だから何」ではあれど、一応勉強の社会に対して及ぼす影響程度は察してもいる。それこそ小賢しいと呼ばれる範疇だけど。


「集中力が桁外れだよ」


 そーかなー?


「わん」


 ワンコな五十鈴でした。


「なんか春人ともギクシャクしてない?」


「色々ございまして」


 告白したとは言いづらいかな?


 別に言っても良いんだけど。


「それで返事なんだけど」


「あ、はい」


 ちょっと緊迫感。


 五十鈴は緊張していた。


 想い人からの返事だ。緊張して貰えるのはそれだけ大切に思われているからで……ソレは少し嬉しい。


 けれど返す答えはとっくに決まっている。


「ごめんなさい」


 また気まずい関係が続きそうな台詞を私は発した。


 けど私の本心は確かに別の人間に仮託していて、だから五十鈴の心までは受け止めきれないのも事実。


 南無阿弥陀仏。


 西方浄土。


 いっそ死にすら値する。


 それでも人権の尊重在ればこそ。私は私で有り得るのだ。


 想い人から拒絶されることが如何な不安を呼ぶのか。私には分からない領域ではあっても、失う悲しみは覚えて久しい。


 お兄ちゃん。


 春人。


 だから私は此処に居る。

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