第91話 準備の程の
脚本が出来なければ、演技指導は不可能なわけで。
「こっち宜しく~」
私は雑用でこき使われていた。
「さっさーい」
簡潔に承る。
夏休みながら、文化祭の準備で東奔西走。
――休みって何だろう?
そうは思えど、私の発案だ。
疎かにするのも違うかも。
「にしてもシンデレラね」
我ながらやってしまった。
書類を運びながら嘆息。
「どうかしましたか?」
教室の凜ちゃんが聡く気付いた。
「いえ、その」
「先生が相談にのりますよ?」
「今から気が重い」
「ですけどマストだと思うのですけど」
「日高先生も?」
「ええ」
穏やかに頷かれました。
「脚本の方は?」
「もうすぐ出来上がりますよ」
お兄ちゃんはさすがだ。
「書類運び。手伝いましょう」
「多謝」
「いえいえ」
ノシって感じ。
二人して書類案件を、生徒会室へ。
「日高先生」
生徒会長が、身を固めて読んだ。
「こちら、うちのクラスの申請なので」
「承りそうらひます」
生徒会室を離れて、一言。
「モテるね凜ちゃん」
「光栄な事です」
そのスマイルの鉄壁さは、尊崇に値する。
「人当たりがいいのが特技なので」
「日高先生?」
今度は女教師。
頬が朱に染まっている。
思わず口笛を吹いた。
「何でしょうか?」
コツンと、肘で私を突いて、凜ちゃんは、女教師にスマイル。ここら辺が凜ちゃんの残念さ加減。
「お忙しそうですね。何か手伝える事はありますか?」
「今のところは」
両手を開いて、ヒラヒラ。
たしかに仕事が終わったところだ。
「何かあれば頼ってください」
「ええ。頼りにしています」
穏やかなりし。
「人当たりが良いって言うか、詐欺師じゃない? その気になればさっきの女教師なんて食えるんじゃないの?」
「人それぞれですから」
「惚れられてるよね?」
「同期ですし」
つまり新任教諭と。
「凜ちゃんは好きなの?」
「いえいえ。拙は趣味が悪いので。悪食とでも申しましょうか。一般的な恋愛観は持ち合わせておらず」
「私の事好き?」
「大好きです」
あは。笑えね~。
「何度か食事に誘われているんですけど」
「けんもほろろと?」
「先生のお手伝いも必要ですし。何より拙がソレを望んでいます」
「凜ちゃんホントソレ」
「先生のシナリオは、人生をかけるに足りますし」
「今日のご飯は?」
「手巻き寿司と行きましょう」
「うーん」
デリシャス。
「喜んで貰えたようで良かったですよ」
凜ちゃんの料理は美味しいし。それに手巻き寿司はなんというかちょっと豪勢に思える貧乏性なわたくしでした。ホホホ。
「日高先生の仕事は」
「既に終わらせています」
「器用だね」
「親御さんに感謝ですね」
イケメンで、仕事が出来て、小器用で、そつなくこなし、趣味も多芸。
出来すぎとの評価も、あながち間違いでは無い。
特に御尊顔は特筆出来る。
中性的で、神話を感じる静謐さ。
魅力的……神性を覚える蠱惑の貌だ。
――人生経験も加味されているのだろうか?
不可侵の中毒性を持つイケメン。
あらゆる意味で、言葉では表現が足りない。
そりゃモテるわ。
「音楽室が空いてますね」
特別教室棟を、中庭を挟んで、窓から眺める。
「ピアノ聞きたいな」
「では希望に添えましょう」
クスッと、凜ちゃんの笑う。
それがまた美しくて。
何となく、「ハーレム作れるんじゃ?」そんなことを思った。むしろ凜ちゃんなら簡単だろう。本人がその気になれば。
私も凜ちゃんが相手なら別に良いか程度は思う。ソレを察していない凜ちゃんでも無いだろうし、お兄ちゃんの存在が無ければ、その通りにはなったろう。
今更言ってもしゃーないけど。
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