第80話 オナチュー
「ってかさー」
「二人付き合ってんの?」
「一緒にお祭りとか」
そんな話題にもなる。
オナチューなら、気にもするだろう。
「偶然」
「だったな」
「スケジュールが空いてただけ」
「やーん。あたしが送ったコメント断ったのに?」
「そなの?」
と私。
神威を見やる。
「まぁ、陽子にはお世話になってるしな。ちょっと負債を返済しておきたかったんだよ。わざとじゃないぜ?」
綺麗な回答だった。
「有栖川さん頭良いもんね~。やっぱ高校でもモテてる系?」
「陰キャやってます」
嘘じゃない。
むしろ積極的に本当だ。
「嘘だー」
「謙遜って奴~?」
「ムズい言葉使うなって~」
キャハハ、と笑う一同。
――何が面白い?
「誰かと付き合ってたりして? 彼氏とかいるんじゃない? 有栖川さんモテるし~」
「じゃあ碓氷くん要らないじゃん」
「あっしらで受け持ってあげるよ~?」
どうぞ、と差し出したいところだけど、流石にソレは無情に過ぎる。
「とりあえず」
嘆息。
「デート中なので、また今度ね?」
「あっしら邪魔系?」
「空気読めてない系?」
――そう相成りますな…………本気で空気読め。
「そんなわけだから。また今度な」
神威は私の手を取ると、女子どもから距離を取った。
「すまん」
離れて第一声は謝罪だった。
気持ちは分かるし、罪悪感も手に取れるけど、今回に限っては神威のせいじゃない。
「気にしてませんよ」
角の立たない私の言。無難も良いところ。
「マジですまん。こうなるよな」
「自覚的なら、どうしようもない事も分かるでしょ? 神威の市場価値はそんな具合なんだから」
「そうだが……お前はどうなんだ?」
「蝉みたいなモノかな? 季節がら。うるさいけど『うるさい』って言って解決する事柄でもないしね~」
文句を言っても始まらない……そんな感じ。
別段、神威をどうのこうのでもない。だって憎まれているのは私の方だったりするのだから。
「だから罪悪感を覚えられると、折角のデートが台無しになるよ」
「お前はほんなこついい女ばいな」
方言になるほどですか。
「というわけでリンゴ飴食べたい」
「はいはい」
うーん。
悪女。
リンゴ飴はむはむ。
「あー」
神威がスマホを見た。
「なんて?」
「さっきの連中。同じ高校の奴もいるし。何かと絡んでくるんだよな」
「モテる男は大変だ」
「今度の花火大会のお誘い。どう思う?」
「頑張れ」
「おまえ……」
「何か?」
「いや。何でも無い。愚痴になりそうだ。別に陽子は悪くないのにな」
「さいでっか」
別段愚痴られても構わないけどね。
大方の心理状況は察しているし、神威が魅力的なのは否定も難しい。だからって絆されるのもまた違うけども。
「既読スルーするの?」
「そうなるな。そもそも俺に幻想持たれてもな」
「虐められない? 案外やっかみが多そうだけど」
「俺をか?」
あー……まぁ無理よね。
弾くには顔が整いすぎている。
「それはお前にも言えるだろ?」
当方モブなもので、普通に目立たない生活を送っておりますれば。
そうは言っても神威には説得力が水に濡れた紙の様で……どうにも納得は得られない様子でありまして。
「変装しても玉だよな」
「褒められりゃ嬉しいけどさ……」
リンゴ飴ガジガジ。
「結局のところ、それなりに良い感じなんだよなぁ」
誤解されるところがですか?
お似合いに見えますかね?
その辺があまり自覚無し。
いいけどさ。
「はぁ」
溜め息。
「そろそろ花火だな……」
火薬の正しい使い方。
銃やミサイルは邪道だ。
日の沈んだ夜空を見る……時間的には昏く、星々が見えた。
ベガとアルタイル。
恋人同士の星。
天動説って在る意味不条理よね。
アステリズムと言いますか。
本来の星の距離は不条理なまでのディスタンスで、単に過去に光を無謬に変えるのが星座信仰なのだろうけども。
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