第79話 花火大会


「ふぅむ」


 貸衣装屋でのこと……私は神威かむいと一緒に居た。


 花火大会と、先んじるお祭りというソレを楽しむためで、普通に着飾るのは女の子としてテンションが上がる。


 貸衣装屋では、浴衣を選んでいた。


 私は曼珠沙華の意匠で、神威は無柄の紺色。


 二人揃って、貸衣装屋を出た。


 お祭りまで時間がある。


「何する? 時間はまだあるみたいだけど。暇潰しはこの際の事項だよ?」


「しばらく茶でもするか」


 大通りを一本封鎖してのお祭りだ。


 その一角の喫茶店に、私たちは入った。


 いつもの様に……いつもの如く……散々飲んでいるけどブラックで。


 コーヒー中毒かなぁ?


「神威といると目立つね。ぶっちゃけ顔形が整いすぎ。もうちょっと残念だったら言うことなかったのに」


「人の事が言えるか。お前だって大概だぜ……正味な話」


「ありがと」


「皮肉だぞ?」


「可愛いって事でしょ?」


「まぁ……そりゃ……そうだが」


 その件に関しては確かに光栄だ。


「神威と一緒に居ると、嫉妬の視線がウザいのよ。で……調子乗ってるのどうのこうのと謂われない誹謗中傷」


「そんなもんかね? 先にも述べたが陽子も目立つしな」


 ――不名誉な。


「一応こっちを意識してるで良いのか? それなら在る意味で光栄で、在る意味で恐縮なんだが……」


「私は結構水準の高い男の人を見てるから、埒外だね」


「それな」


 カクンと彼の首が折れ申した。


 お兄ちゃんや凜ちゃんを見てるので、どうしても御尊顔の水準が高くなる。


「中学の連中に会わなきゃ良いけど」


「無理だろうな」


 こういうイベントごとは、中高生の憧れだ。


 私は暑いのがまっこと嫌いなので、空調の効いた部屋で安らかに読書したいタイプではあれども。


 コーヒーを一口。


 しばらくダラダラと話していると、雷が鳴った。


 祭りの始まりだ。


 浴衣同士、肩を並べる。


「タコ焼き食べたい」


「はいはい」


 今日は財布になって貰おう。


「はぐ」


「美味いか?」


「海水浴場の海の家の食べ物気分」


 お祭りの出店も、空気が美味しいと感じるものだ。


 おそらく一種の暗示なのだろうけど、こう云ったものは楽しんだ者勝ちなので、特に不平不満も無くタコ焼きを味わう。


「はい。あーん」


 タコ焼きを神威の口元へ持っていく。


「え?」


「要らないの?」


「いや、そういうんじゃ……ないんだが」


「元々買って貰ったモノだし、遠慮の必要も無いでしょ?」


 私が買ったのなら独占していたけども。


「あ、あーん」


 ハグリ。


「良かれ良かれ」


 うんうん、と頷く。


「美味しい?」


「陽子のおかげで五割増し」


「あはは」


「笑い事じゃないんだが……」


 ――まぁまぁそう言わず。


「それにしても注視されますな」


「陽子のせい」


「神威のせいだよ」


「ほほう」


「何か?」


 バチッと視線がぶつかった。


「あ、碓氷くんに有栖川さん」


 あー……ヤな予感。


 女子グループがこっちに気付いた。


 中学の頃のクラスメイトだ。


 夏休みだからだろう……熱気がテンションを浮かせたのか……髪を染めていた。


「超偶然。なに? デート?」


「さいです」


 言い繕うのも馬鹿らしい。


「えー、マジでー? やっぱお似合いって言うか~」


 ちなみに、彼女の目は全然笑っていなかった。


「あー……」


 神威も気付いたらしい。


「じゃあな」


 これ以上ルサンチマンに浸る事もないだろう……との判断か。


 サラリと、脱出しようとする。


「えー? うちらも碓氷くんと回りた~い」


「だよね~」


「いいじゃん。イケてんよ」


 何処どこが?


 なにが?


 とりあえずタコ焼きを食べる。


 街並みに太陽が沈んでいく。


 逢魔時だ。


「碓氷くんマジ浴衣似合ってるよ~」


「写メ撮っていい?」


「自撮りしよ。自撮り」


 …………帰っていいかな?


 本気で疲れる……この場合の乙女の牽制の視線は。


「なに神威くんに手ぇ出してんの? しばきまわしますよ?」的な視線がぐっさぐっさと刺さり申す。


 邪眼の一種だ。


 女性器を見せれば防げるんだっけ……邪眼の類は。


 流石にそんなことはしないけど、浴衣っていうのも結構攻めてるよね。


 ソワカ。

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