第75話 ちょっとアレ見な


 そんなわけで、やって参りした。


 秋葉原。


 オタクの聖地だ。


 歌や劇とは違う形で発展した日本文化。


 曰く、


『サブカルチャー』


 その本拠地。


 ――なんで日本人は斜め上の文明を行くのか?


 その答えの眠る場所とも言える。


 いや本当に……今でこそワールドワイドな文化なんだけど、それでも市場の狭さは相も変わらじ。


 ともあれアキバだ。


「テンションを上げていきますか?」


「えと……その……それは……その……」


 こういう小動物を飼ってみたい。


 ……春人に首輪をつけて?


 ちょっとエロ方面に奔ってしまいそうな空想だった。


 閑話休題。


 別段、人目を避ける必要も無いため、お洒落とかしてみたり……たりたり。


 ついでに春人もコーデ。


 前髪をかき上げて、それなりの衣服を着せる。


 ブランドのシャツにダメージジーンズ、薄手のジャケットを羽織り、襟元にサングラスを引っかける。


「似合ってる……?」


「凄く」


 イケメンです。


 実際、女子が幾人も振り返る。


 歪んだ優越感。


 ふっふっふ……ふふふふふ……はっはっは!


 三段笑い。


「男の人は……陽子さんに釘付けですね……」


 畏れ入ります。


 エースが通る。


「じゃ、エロゲーでも買う?」


「十八禁」


 デスヨネー。


 や、お兄ちゃんは買ってるんだけど。


「先生の作業は……」


「一進一退」


「間に合うの……?」


「神のみぞ知るってところかな?」


 御本人曰く、


「出来るまで出来るかわからない」


 とのこと。


 スランプも重なると最悪になる。


 けれどライターという職種には、その手の人間も珍しくはないらしい。


 ちょっとわかんない世界。


 どっちにしろ落としても責任を追及されるわけでも無し。


 同人産業の良いところは……ある種、販売による売り方と買い方の双方の良心で成り立っていることだろう。


 しかし夏真っ盛りなので暑い。


「お茶にしよっか」


 ってなわけでメイド喫茶に。


「お帰りなさいませにゃん。ご主人様。お嬢様」


 猫耳メイドのご登場。


 あまりに狙いすぎだけど……あえて許す!


 何様だって感じだけども。


 席に案内されて、お品書き。


「何時でもお申し付けくださいにゃん」


 お冷やを置いて、去って行くメイドさんでした。


「何にする?」


「本当に……奢って貰って良いの……?」


「言ってしまえば衣装代だね。ソッチも生地代や人件費を奢ってるようなモノでしょ?」


「そんなご大層なモノじゃ……ないんだけど……」


「知ってる」


 存分に。


「その意味でなら私の奢りを気にする事もないでしょ?」


「良い人だね」


「愛されて生まれてきたから」


 そこは私の自慢。


 本当に、世界と言えば嘘になるけど……両親とお兄ちゃんには望まれて私は産声を上げたのだ。


「いいね」


「まっこと有り難いことでござんす」


 コーヒーと紅茶。


 それから二人揃ってオムライスを頼む。


 萌え萌えなアートケチャップと、媚び媚びな砂糖とミルクの投入。


 空気そのものが甘ったるい。


 メイド喫茶なんてそんなものだろうけども。


「そのままならイケメンなのに」


「感謝……」


「なんで女装してるの?」


「男の人に……エッチな目で見られるのが……好きだから……」


「危ない目にあっても?」


 実際、春に危ない目にあいかけた。


 私と春人のファーストコンタクト……凜ちゃんもいたけど。


 ちょっとヤバめの想像が脳内をよぎる。


 かなり聞きにくいんだけど……、


「もしかして処女じゃない?」


 甘ったるいコーヒーを飲みながら恐る恐る尋ねてみる。


「処女です……」


「ソレは良かった」


 色んな意味で。


「パパ活って奴?」


「えと……まぁ……」


「火遊びも結構だけど……」


 コーヒーを一口。


「火薬庫で遊んでる事を忘れないでね」


「あう……」


 そこまでですか。


「お金が欲しいの?」


「困って……ないかな……」


 でしょうね。


「じゃあ何?」


「単なる女装癖……」


「御本人がソレで良いなら良かれではあれど……」


 それもどうだかな。


 色々と案じる事もあったりして。


「女の人を籠絡するのはダメなの? 普通に春人はイケメンだし、釣れる女性は多いと思うよ? 性病の心配をしなければ」


「んーと、趣味じゃない」


 結局ソレよね。


 重度の女装癖。


 あるいは性同一性障害か。


 にしては、何か健常さを感じるんだけど。


 人身を売る人間は、も少し粘っこい。


 納豆だ。


 その感じが、春人からはしなかった。


「春人は格好良いから好きよ?」


「ふえ……」


 赤面する彼こそ、私の宝物だ。

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