第76話 禁じられた遊び
「進捗はどうですか?」
「まぁそこそこに」
私は凜ちゃんと音楽室にいた。
学校だ。
宿題も片付け、身の回りの面倒も、あらかた片付いた。
で、ヒマしているので、凜ちゃんのアルバイト。
報酬は缶コーヒー。
ついでに音楽。
いつもの通りの、いつもの如し。
行進曲を弾き能う凜ちゃん。
本当に器用な事で。
そりゃ女子生徒も惚れますわ。
「陽子さんは、本当に陽子でしたね」
コスプレの件だろう。
誰ってモデルが私だし。
ぶっちゃけた話をするなら、「他にどう言えと?」が私の率直なるところで、ついでに本音まっしぐらな意見だった。
「違いない……」
クスッと、凜ちゃんの笑う。
「お兄ちゃんは?」
「今頃暗闘ではないですか? 暗いという意味では違う気もしますけど、先生には毎度のことですし」
それもどうよ?
「落としても責任追及はないんだよね?」
「読み手にがっかりはされますけど……ね」
そこら辺の事情はよくわからないけど。
「ついでに稼ぐ好機でもありますし」
以下同文。
で、
「凜ちゃんはいいの?」
「楽観視はしてますよ」
サラリと言ってくれる。
そしてそれが嫌みになっていない。
そんなところも人徳だ。
ひとしきりマーチを弾き終えて、鍵盤を叩く音が静寂に取って代わる。
凜ちゃんのピアノを聞くためだけにも、夏休みの学校に顔を出す理由はある……そう云わざるをえない。
「曲にリクエストは?」
「禁じられた遊び」
サラッと述べる私。
「暗喩ですか?」
「凜ちゃんとなら……別に良いかな」
「恐縮です」
「凜ちゃんも私の事好きよね」
「ええ」
防衛機制だとしても……好きは好き。
「うちの学校に就職しなきゃ、話はもっと簡単だったのに」
「どちらにせよ女子高生は相手に出来ませんよ。条例に反してしまいます由」
「結婚を前提でも? それなら年齢は然程気にならないんじゃあ……」
「魅力的な未来図ですね。夢と希望に溢れています」
「恐縮です」
同じ言葉を口にする。
禁じられた遊び……か。
「凜ちゃんイケメン過ぎ」
「陽子さんも美少女過ぎますよ」
「キスしよっか」
「後日に……ですね……」
「誰も見てないよ?」
「監視カメラがありますので」
「お兄ちゃんが養ってくれるって」
「むしろ刺される気もしますが」
あー。
それね。
「シスコンだから」
「先生が羨ましいです」
「何故に?」
「こんな可愛い子を妹に持てて。とても羨ましいと申せましょうか」
「口説いてるの?」
「禁じられた遊びです」
それを引っ張るのね。
いいけどさ。
缶コーヒーを飲む。
「凜ちゃんが女の子だったら良かったのに」
「義姉になるから?」
「友達になれるから」
「ええ、それは難しいです」
わかってるけどさ。
カツン。
スチール缶が鳴った。
「私が誰かのモノに成ったら……どうする……?」
「愛しますよ」
「間男?」
「恋はしません」
それもどうだかな。
「お兄ちゃんの説得なら……私がしよっか? それなら万事無事に済むよ?」
「社会的に死にますので」
禁じられた遊び……と。
「もしかして」
「もしかして?」
「春人もこんな気持ちなのかな?」
もうちょっとアグレッシブだけど。
「アンデルスさん……ですか」
アレもまた、一つの崩壊式。
「凜ちゃんも見たよね?」
「今も見ていますよ」
「担任だしね」
「副担任です」
それは失礼をば。
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