第74話 陰陽姉妹
「というわけで……はい……」
春人の部屋。
そのアトリエ。
衣装が完成した。
とはいっても二次元世界の制服だけど。
フリフリの制服……というパラドックスに満ちた表現だけど、「アニメやゲームの学校制服って、冷静に考えると有り得ないよね?」の体現。
私には、よく似合っていた。
ま、モデルが私だし。
シスコンの無念さは、身に染みて知っている。
たしかに面白いんだけど……シンタックスコンプリート。
「えと……あう……」
春人も同じ制服を着ている。
茶髪のウィッグ。
カラコンはしていないので、碧眼のまま。
金髪は綺麗に隠れていた。
「可愛い!」
ヒシッ、と抱きしめる。
愛らしさ満点で、可愛らしさは限界突破で、麗しさが花丸で、美しさが天元の華と呼べた。
「ふぇあ……!」
赤面する春人さん。
難儀な輩だ。
私としては、人には言えずとも。
ともあれ……こっちの準備は余裕を持って出来たわけだ……全部春人の功績だけど。
「後はお兄ちゃんの同人誌か……」
「本当に……いいの……?」
何がでしょう?
「烏丸先生のサークルの売り子って……」
「春人は愛らしいから大歓迎」
「あう……」
それも何故よ?
赤面する春人の愛らしさは先述したけど、なんだかモジモジして庇護欲をそそる。
「陽子さんの方が……可愛い……」
「そっかな?」
自覚は……無いと言うと謙遜を軽く飛びさって嫌味の類になるけども、自分を過大評価するにもカロリーがいる。
「たまに恐くなる」
「私に?」
「んと……その……惚れそうで……」
「惚れて良いよ?」
「いいの……?」
「恋を縛る法律はないし」
「でも……」
「イヤになったらイヤって言うから」
「それもなぁ……」
確かにね。
好きな人に「イヤ」って言われるのも辛いよね。
想像でしかないけど。
そもそも、まず自分が処女だ。
お兄ちゃんや凜ちゃんが居るので、イケメンには困っていない。
結果、男子に求める美貌水準の平均値が高くなる……という負のスパイラル。
自分が何様だって感じだけどさ。
自責。
自嘲。
でも事実だし。
「その場合は、春人にモブを止めて貰うよ?」
「美少女キャラ?」
「イケメンキャラで、私の傍にはべらす」
「イケメンじゃ……ないよ……?」
「知らぬは本人ばかりなり」
「陽子さんが……いいますか……」
それも言われ慣れてるけどね。
「それにしても出来の良い事」
「アキバに売ってるし……」
「生地?」
「生地……」
自作コスプレの神髄だ。
「じゃあ、当日宜しく」
「そだね……」
「会いたいときはライン頂戴」
「いいの……?」
「春人が思ってるより、私は春人に好意的ですよ?」
「あう……」
その愛らしさがね。
臆病で、引っ込み思案で、自信過小で、小動物。
ここまで悪意のない人間も珍しい。
好意的にも思ってしまう。
まして隠れイケメンとも相成れば。
「コレ着てデートする?」
「それは……ちょっと……」
照れ照れと悶える春人の愛らしさ。
うーん……デリシャス。
「じゃ、普通にデートしましょ」
「いいの……?」
「コスプレも完成したし」
お疲れ様会だ。
結局私は何もしてないしね。
労うくらいは許されるはずだ。
まず以て自分の衣装代くらいは自分で払うべきだろうけど、金を出せば冗談で済まなくなる。
なら金銭取引以外での奉仕が必要なわけで。
「今日は奢ってあげる」
「あは……」
華やかに笑う、春人でした。
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