第71話 モブの勉強会
「有栖川さん。勉強見てくれない?」
「あたしもあたしも」
「俺も俺も」
「僕も僕も」
「――謹んでごめんなさい」
サラッと。
下流に送る。
付き合いが面倒だ。
学年一位だからって、勉強を教えられると思うなよ……と、思えど春人と五十鈴には、私も教えてるんだけど。
あの辺はまぁ別格というか……例外ですな。
そりゃ私とて乙女。
イケメンと仲良くなるのは嬉しいことだ。
お兄ちゃんが暴走するので間違っても口にはしないけど、自由惑星同盟の自由は思想と発言のどっちの『自由』に由来するのやら。
日本でも……まぁ思想の自由は認められているけど、お兄ちゃんの暴走のトリガーをわざわざ引く必要も無いだろう。
その気になれば凜ちゃんまで敵に回る。
多分……というか絶対……こっちの方が面倒の度合いで比類なし。
嘆息。
周りを囲む愛すべき学友――愛すべき、というのはつまり義務であって私はその義務を放棄しているんだけど――は薄ら寒い笑顔でこちらに接触してくる。
「眼鏡止めてコンタクトにしない?」
「いまどき三つ編みおさげって……」
イモに見えるのなら重畳。
意図してやっている事だ。
「では失礼をば」
また敵を作ってしまった。
――中略。
「そこの訳し方は……」
市立図書館で、空きスペースを借りて勉強。
春人と五十鈴も同伴。
春人はいつもの如し。
五十鈴は今日も愛嬌のある格好良さ。
全員が黒髪ではないので、目立つっちゃ目立つ。
しかも、それで陰キャと来る。
ギョッとされて、それから、あまりのイモっぷりに残念そうに視線を逸らす。
いいんですけどね。
絡まれるよりは。
勉強のスペースは飲み物も持ってこれるので、自販機で買ったブラックを飲んでいる私でした。
「苦くないの?」
慣れですよ君。
「そこの数式間違ってる」
端的に指摘する。
「そなの?」
「最初から計算し直しね」
何処がわからないか……わからないなら、最初からの方が効率は良い。
「言ってくれれば良いのに」
「指導はするけど、答案はしない」
それが私のモットーです。
とか言いつつ、ちょくちょく答えを教えてからの逆算もするのだけど。
サラサラと筆記。
理解力と記憶力はお兄ちゃん譲り。
自慢できることでもないけど、それでも学校生活を楽にしてくれる。
ひがみがあると、心がすさむしね。
「よく理解できるね」
他に特技もないもので。
「あう……凄い……」
お褒め預かり恐悦です。
「先生も……頭良いの……?」
「アレは一種の化け物」
ヒュン、とペン回し。
「化け物……」
「勉強が得意とか、そんなレベルじゃないから」
「えと……」
「ま、妬みだけどね」
クスッ、と笑う。
別にお兄ちゃんが勉強出来なかろうと、私は私として生まれたのだ。
出所は一緒だけど人の成長は非線形……要するに今はまだ人類による人の再現は成り立ってない。
「あう……」
「気にする必要もないよ」
サラリ。
「言ってしまえば日高先生も似たような物だし。あっちは性格までイケメン過ぎるからちょっと脅威よね」
「よく絡むよね」
「色々ございまして」
凜ちゃんも中々。
コーヒーを一口。
カツン、とスチール缶を鳴らす。
「ところで夏休み会えない?」
「日による」
「わぅん」
「陽子さん……約束……」
「忘れてませんよ」
「え?」
五十鈴がパチクリ。
「デート」
私はウィンク。
「ズルい!」
ズルくはないだろう。
何もルールの規定は破っていない。
「あう……」
赤面する春人の可愛らしい事よ。
「ヘアピンで顔出さない?」
「いいです……けど……」
ピコン。
愛らしい顔が、ご登場。
いやぁ。
可愛いわ。
世界狙えるわ。
「ふえ……」
赤らむ男の娘の愛らしさ。
――抱かれたい!
は、嘘にしても。
「可愛い……ですか……?」
「とてもね」
「あはぁ……」
蕩ける
私は乙女なんだけど、心のおにんにんが勃ってしまいかねないほど、顔を晒した春人の愛らしさよ。
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