第54話 空気の針よ
そんなわけで通常営業。
イジメの件は、表向きには収まった。
ラインのセカンドレイプも、情報の出所を警察が調べ、然るべき処置を学校が執り行ったのも大きいだろう。
結果として結界を造った。
いや、駄洒落じゃなく。
不文律とでも言うのか。
「有栖川陽子には近付くな」
が、学校の空気となって、チクチク針のように刺す。
春人と五十鈴は、自然に接してくれるので、孤立する事はないけど、他の生徒は、私の後ろにモンペを見たらしい。
確かに異常な対処ではある。
とはいえ保護者役のお兄ちゃんにしてみれば……ある意味で一種のアナフィラキシーショックだろう。
蕎麦の一口。
蜂の一刺し。
抗体の暴走。
言ってしまえばアレルギー反応。
ちなみに両親は、イギリスで大学の講師をやっているので、中々家には帰ってこない。
別に責めてるわけでもないけどね。
春人と違って恵まれているのだ。
地球の裏側で心配されても、一銭にもならないので、
「黙秘」
とお兄ちゃんには告げている。
お兄ちゃんも愚兄ではないから、責任の範囲でしか対処をしない……これは実は凄いこととして捉えられるのだ。
結果として、複数の停学処分者が生徒から出たけど、
「さもありなん」
で済む話。
自業自得とは正にこの事だろう。
その意味で停学処分は真っ当だろうけども、それ以上に「私こと有栖川陽子」のアンタッチャブル性はどうにも浸透しているようで。
「で、避けられていると」
「小生は良いけどね!」
「僕も……かな……」
良きかな。
有り難い友情にございます。
蠱惑的なセーラー服。
春人可愛いよ春人。
そっちの趣味は無いはずなんだけど。
「わん」
五十鈴には覚られたらしい。
不満げだ。
私と春人の関係に嫉妬しているのか……あるいは不穏を覚えているのか……ソレさえも分からず、この場にて、あやす以外の手立ても思い立たず。
「お手」
「わん」
右手で、五十鈴の左手を握る。
ちょっと可愛い。
そんな感じの学校生活です。
「日高先生」
私は凜ちゃんを呼び止めた。
「またイジメですか?」
「いえ、なりを潜めましたよ。ご尽力には感謝を」
「教師の務めですので」
うーん。
ジェントルマン。
「仕事は忙しい?」
「有り難い事に」
「今度デートしない?」
「構いませんが……宜しいので?」
「宜しいです」
「ではその通りに」
「にゃは」
思わず綻んでしまう。
喜色百%。
勇気百倍。
「仕事?」
「ええ」
「手伝おうか?」
「ソレは助かります」
「日頃の恩顧に報いて」
「陽子さんはいるだけで勇気になりますよ」
「ひまわり娘?」
「たまに陽子さんの精神年齢がわからなくなります」
「実はおっさんの転生体でして」
「ギャルに生まれ変わったと?」
「陰キャだし!」
「ザ・モブキャラではありますれど」
「でしょ!?」
「でも可愛いですよ」
手が差し出された。
頬をさすられ、顎に添えられる。
「キスしますか?」
「解任されたいならどうぞ」
すでに生徒の耳目は集めている。
「日高先生は格好良いからね」
「陽子さんには敵いませんねぇ」
そかな?
――凜ちゃんもだいぶ良い性格してるけど。
「否定はしませんよ」
クスリと笑われる。
だいたいここら辺が、私と凜ちゃんの共通だ。
皮肉を言うときは紳士淑女になる。
だから好きだし気に入ってる。
一番の理由では……………………無いにしても。
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