第41話 はっ
「はっ」
時刻は昼。
季節は五月の中盤。
今日は日曜日。
私は我が家のリビングに居た。
ついでに春人とお兄ちゃんも。
凜ちゃんはいない。
今、感づいた事実に反射的な言葉が飛びだしたけど……そこはまぁ若気の至りとしてスルーしてくだされば幸い。
坊やだからさ……みたいな?
閑話休題。
「どした?」
珍しくお兄ちゃんが簡素な声で此方に尋ねる辺り、何かしらの悪意が透けて見える……といえばお兄ちゃんに失礼でしょうか?
「部活に所属していない……」
「別にいいんじゃないか?」
いや、たしかに部活しなくても生きてはいけるけども。
「ううむ」
「それより数式間違ってるぞ」
ヒョイと問題集を指差すお兄ちゃんでした。
勉強できるのは知ってるけどさ。
……数式を脳内で展開して一瞬で暗算……後に最後まで計算尽くしてこっちの計算ミスを憚らず指摘するのは人間の領域を超えていると言わざるを得ない。
「えと……先生……」
春人も、またお兄ちゃんに教えを請う。
「ああ、この場合の翻訳は例外で……」
サラリと教える。
私と春人とお兄ちゃんで、中間テストの勉強会。
「うーん」
サラサラと問題を解きながら考える。
「部活……部活……」
「なんなら……手芸部に……」
「裁縫できないもん」
ぶっちゃけ勉強以外に取り柄が無い私でした。
生きるのって辛いね。
ギュッと愛らしい碧眼に私の像が映った。
とても綺麗で、儚い様子は、在る意味で春人による魔法とも云え、その純真無垢さは希少価値が指数関数的に膨大だ。
そんな愛らしいワンコが言うのだ。
「僕が……縫ってあげる……」
「つまり……モデルやれって?」
「です……」
ふぅむ。
「それなら確かに何もしなくて良いか」
「陽子はソレで良いのか?」
「可愛い服には興味がある」
「お兄ちゃんが買ってあげよう」
「セクハラです」
「何故っ!?」
何故も何も……。
「お兄ちゃん、彼女とか作らないの?」
「作ろうと努力はしてるんだが」
うん。
知ってる。
「ツンデレで好意を向けてくれないんだよ」
うん。
知ってる。
ツンデレじゃない事も。
「私以外で」
「えー」
なにその不満?
「お兄ちゃんは陽子に惚れているのです」
うん。
知ってる。
「陽子と一緒に居られれば、他に何も要らないかな?」
「あう……」
春人が赤面していた。
おそらく禁断の愛について、よからぬ想像を脳内で展開しているのだろうけども……こっちとしては、はた迷惑極まりない。
金髪の頭ナデナデ。
「お兄ちゃん?」
その率直な好意自体はありがたいけど。
「どうせ血縁だから、死ぬまで一緒だよ」
「健やかなるときも病めるときも?」
「そこまで保証しないけど」
「して!」
「人生万事塞翁が馬」
「つまりお兄ちゃんと結婚する未来も有り得ないわけでは」
こいつは……。
「量子コンピュータを開発すれば可能かもね」
「よし!」
「冗談」
「えー」
こっちの台詞だ。
退廃的なのは認めるけども。
「このグラフの接点の求め方は……」
案外家庭教師としては普通にこなしてくれる。
「お兄ちゃん。コーヒー」
「お兄ちゃんミルクは?」
「要らない」
だから卑猥に聞こえるって。
「春人も何か飲むか?」
「えと……甘いのを……」
「ハニーカフェオレで良いか?」
「ありがとうございます……」
照れ照れ。
もじもじ。
もしかして春人……お兄ちゃんに……?
「…………」
少し考える。
問題を解きながら。
「あう……なんでしょう……?」
此方の視線に気付いたらしい。
「なんでもにゃー」
此処で聞く質問でもないはずだ。
仮に、
「イエス」
なら空気がぶっ壊れる。
現代文の問題に取りかかった。
前から思ってたけど、現代文もラノベを採用したら、もっと若者に受けると思うんだけど……。
古典文学ばかりでは、若者の心は掴めまい。
興味や関心が、人の知能をもっとも加速させる……との結論にして言えば、詰め込み講義はやる気を削ぐだけな気もします。
まぁその詰め込み方式で優秀な私が何なんだって話にもなるんだけど。
「ふむ」
でもま、読んで答えるだけだから、楽な部類とは言える。
けど「筆者の意図を正確に答えろ」は、問題作った奴の時間遡行による著者侮辱に相当すると思うのですが……
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