第42話 仮入部
「んー……」
中間テストが終わった。
ウェストミンスターチャイムの音色と並行して、背伸びをし、大げさなほど酸素を取り込んで酸化反応を促す。
生物の基本。
とりあえずコレで一段落。
後は成績発表まで、ダラダラするのみ。
授業は普通にあるけどね。
今日の処は、半ドンだ。
帰る前に、手芸部に寄る。
もちろん私と……それから春人。
春人は正式に入部していた。
私は仮入部。
ホケッとコーヒーを飲んで、隣の春人を見やる。
――即戦力。
正にその通りの技術を持つ生徒であり、あらゆる意味で突き抜けている剛の者……そうも呼べるはずだ。
その御当人。
手縫いで、生地を補強していた。
そういえば家でも、裁縫はやってるらしいね。
しばらく見ていると、その化け物……って表現は失礼かもしれないけど、他に適当な言葉の見つからない……断じて行なえば鬼神も之を避くの体現者に声を掛けられた。
「やって……みますか……?」
「並縫いくらいしか出来ないけども」
「構いません……よ……?」
そう?
それなら。
生地を渡される。
ツイツイ。
縫うと、
「力加減が……絶妙ですね……」
褒められた。
「そう?」
あまり自覚もあらなしならば。
「ええ……。手縫い特有の……優しさがあって……」
家庭科の授業で、習っただけだけど。
「それで……コレだけ出来るなら……凄いです……」
「ありがと」
ツイツイ。
曰く、
「針が布を弾かない」
とのこと。
言っている意味は分からないけど……何かしら褒められる要素ではあるはずだ。
多分……なんて不確かな前提は付くけど、こと此処、裁縫に於いて春人がおべんちゃらを述べるとも思えないし。
「今縫っているのは?」
「絵馬高校の制服だよ~」
部長さんが言ってくれた。
「いっそ入部しちゃえば?」
「今のところは仮入部で」
裁縫は、得意ではない。
さっき春人に褒められたけど。
「絵馬高校……ね」
神威の高校だ。
「お手本があった方がやりやすいでしょ?」
とのこと。
実際に、絵馬高校の女子制服が、家庭科室に飾ってあった。
「アレ着るの?」
「ダメ……ですか……」
「超可愛くなると思う」
「あはぁ……」
エッチな目で見られると、春人氏は蕩けてしまう。
どうやら私でも良いらしい。
実際可愛いしね。
南無三。
しばらくツイツイと生地を縫う。
「本当に……初めて……?」
「初めてというか……」
学業以上のものではない。
「ふぅん……?」
少し怪訝な顔をする春人でした。
「じゃあさ……」
はいはい。
「今度……我が家に……来ない……?」
「いいの?」
「陽子さんなら……大歓迎……」
互いに友達いないしね。
虚しい。
伊達眼鏡同盟は、あらゆる意味で残念無念……というかむしろソレを歓迎している節すらあるのだから救い難い。
「ま、いいけど」
そゆことになった。
コーヒーを飲む。
「うーん……」
布を縫いながら、こちらをしげしげと。
「何か?」
「
陰陽陽子……ね。
「合わせ……する……?」
「春人が
「うん……」
「別に構わないけど」
「にゃ……」
パァッ、と春人の表情が花開いた。
「嬉しいの?」
「陽子さんは……可愛いから……」
一応陰キャ目指してるんですけど……。
言って詮方なき……か。
既述の如く。
「じゃあ次の日曜」
「近場だしね」
そう相成った。
「お兄ちゃんが暴走しそう」
「あはは……」
こっちは笑い事じゃないんです。
シスコンだからなぁ。
うちのお兄ちゃん。
ズキリと胸が痛む。
――死んだ方が楽――
その言葉が、胸を突いた。
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