第38話 席替え


 ゴールデンウィーク明けの平日。


 今日も今日とて、陰キャ生活。


 いや……まぁね……分かってはいますとも……これが計算と打算……ついでに体裁を求めた結果であることは。


「では席替えを行ないたいと思います」


 そんな季節ですね。


 殊更望んだ事でないとしても。


 なにかと席決めに生徒は傷心する。


 私としては……何処か空虚というか……別に後ろの列に並ばなくとも変異性を感じるほどでもないのだけども……。


 傲慢でしょうか?


「くじ引きにしますけど、前の席は優先的に配慮します」


 とはクラス委員長。


「はい」


 と挙手。


「教卓前を希望します」


 既述の如く、今更、


「後ろの席が良い」


 も面倒だ。


「では……僕も……」


 春人も挙手した。


 少し話し合って、私が教卓前で、春人がその右隣と相成った。


 セーラー服が眩しいなぁ。


 金髪の眼鏡モブっ子によく似合う。


 実はイケメンなんだけども。


 ……まぁそれは私だけが知っていればいい話で……ここに副担任の凜ちゃんも含めても良いかもしれないけど、基本的に私だけのアドバンテージだ。


 閑話休題。


 それからくじ引きが行なわれ、生徒たちは一喜一憂。


「然程かね?」


 が私の率直な感想だった。


 思考まで退廃的なのは、我ながら問題かもしれないけど。


「無明とて、この世に在りて、想ふ物……か」


 私が気にしなさすぎなのだろう。


 だいたい、生徒という人間を安く見積もりがちだ。


「お隣同士だね」


「あう……その……」


「仲良くしようね」


「宜しければ……」


「宜しい」


 何様だ。


 そうは思えど、他の返し方を、私は知らない。


 授業の合間の休み時間。


 私はお花を摘みに。


 音を鳴らす機能は便利だけども。


 鏡を見ると、イモな女子生徒が見られた。


 私だ。


 極太フレームの眼鏡。


 三つ編みのおさげ。


 スカートは規定値で、化粧も薄く。


 中学とは大違いだ。


「ふぅ」


 吐息をついて、少し自嘲。


「調子に乗ってる……か」


 中学の最後を思い出す。


 そうかもしれない。


 少なくとも、


「自分が外見に優れている」


 は自認していた。


 告白されまくっていたしね。


 ただまぁ処女なわけで。


 ――外見に惚れられても。


 なんてのは確かに私の内にもある。


 別段、聖人君子を求めているわけでもないけど。


「あるいはそうかもね」


 少し否定もしづらいかもしれない。


「いっか」


 そこは考えないようにしよう。


 教室に戻る。


 教卓前の席。


 隣は春人。


「ども……」


「どうも」


 気弱そうな口調は、もう慣れた。


 私に懐いている事も。


 実際に、


『隠れ好男子』


 なので、ちょっと優越感。


 こゆところが調子に乗ってると言われるのだろうか?


 いや、まぁ、確かに春人は好男子だし、ソレについて私から肯定するのも今更な感じはあれども、春人のイケメン具合は論ずるまでもない。


「あう……」


 ……で。


 何をそんなに緊張する?


「えと……隣だから……」


 さいでっか。


 よくわからない価値観。


 人生色々。


 私も色々。


 春人だって色々だろう。


 人生万事塞翁が馬。


「春人って男に惚れたりする?」


「あう……少しは……」


「非処女だったり?」


「いえ……さすがに……」


 それはない…………か。


「?」


 少し疑問に思う。


 ――何ゆえ私はホッとしたのだろう?


 ちょっと考えたけど、霧散した。


 まるで朝見た夢を昼に想い起こすようで。


 朝霧のように、形を伴わない。


 夢の内容は、まるで靄とも表現されるように……どこか頼りない記憶の空白を縫う形で再現される、天衣無縫と対立するものだ……。


 少なくとも私はそう認識していた。


「まぁいっか」


「何がでしょう……?」


「お隣同士仲良くということで」


「よろしく……御願いします……」


 さっさーい。

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