第34話 スカウト
「えー! ちょ! 待って待って!」
はぐれホストのような人が、こちらに話しかけた。
パツキンの髪に、着崩したスーツ。
アクセサリーがジャラジャラと。
都会でのデートの折り。
っていうかわたし以外男だな。
逆ハーレムか?
少し考える。
「ちょ、マジ可愛いし。よく言われるでしょ? あー、分かる分かる。引く手数多だよね? 写真映えしそう! イケるよ! イケるって!」
気安く話しかけてくる。
「ちょっと写真撮られる事に興味ない? あ、怪しいモンじゃないよ? 君みたいな子を、スカウトするのも仕事の内でー……」
とは私と春人に。
「…………っ」
春人の方は恍惚だった。
『可愛い女の子扱い』されて喜ぶのは性癖だ。
不治の病……お医者様でも草津の湯でも……。
この場合は病と言うより罪業の類だろうけども……まぁわりかし誰にも迷惑は掛けていないし、人それぞれの個性と言えるかもしれない。
目に飛び込んでくる情報量は多いけど。
「あ、これ名刺ね。お兄さん方もイケてる。もしかしてデート?」
「ですね」
凜ちゃんの営業スマイル。
お兄ちゃんは興味なさげ。
「彼氏さんからも説得してよ。天下取れるよこの子たち。マジでガチ。こんなに可愛いならモデルにならない方が損してるって絶対!」
私と春人で?
それで取れる天下って何よ?
「いえ、まぁ、学生ですので、バイトとかはちょっと」
凜ちゃんの大人の意見。
「大丈夫大丈夫。中学生でモデルやってる子もいるから」
……いるね。
「ガチで可愛いって。茶髪は染めてるの? 似合う~」
スカウトマンさん……超必死。
「金髪も栄えるよ。染めてるなら、ソッチ方面も理解在るっしょ?」
無いです。
ていうか地毛です。
言って意味も無かろうけども。
「とりあえず写真とるところから始めよっか。いや~、こんな可愛い子が埋もれてるって知ってたら三顧の礼で迎えにいったんだけど」
勝手に話が進んでいく。
「じゃあ決まりっ。よろしくね。ええと……」
「警察に通報しますよ?」
凜ちゃんが、スマホに百十番を、記入していた。
「マジ勿体ないって! 彼女さんなの? 磨けば光る逸材!」
「知ってますよ」
知られちゃってたかぁ。
「だから秘密にしておきたいんです」
凜ちゃんは、私と春人の頭を、優しく撫でました。
「ちょーちょーちょー。わかってる? 彼氏さん?」
「何をでしょう?」
「この子らの可能性を摘み取ってるよ?」
「殴るか」
お兄ちゃんがボソリと呟いた。
いい加減フラストレーションが溜まっているようだ。
「暴力反対」
「しかしな陽子」
「断れば済む話でしょ」
「むぅ……」
「失礼ですが……お断りで……」
「それマジでガチ? 本気で?」
「元が陰キャですので」
嘘ではない。
こんな状況でもなければ、可愛い系のコーデはしない。
「そんなわけで失礼させてもらう」
お兄ちゃんがブツンと切った。
「ええ?」
スカウトマンさんに悪いけど、あまり信用も出来ない。
「あはぁ……」
春人は蕩けてるし。
美少女扱いがお気に召したのだろう。
この辺危ういよね、この子は。
しばし距離を置いて、凜ちゃんが蒸し返す。
「モデルデビューとかしてみたかったですか?」
「さっぱり」
「ちょっと……怖いです……」
私も春人も否定的。
「余計な事でなくて良かったです」
そこを心配してたのか。
本当に凜ちゃんは紳士だ。
「スカウトは……まぁしょうがないですけど」
クシャリ、と、春人の金髪を撫でる凜ちゃん。
「何かあったらまず俺に言え」
ぶっきらぼうにお兄ちゃん。
「でも……可愛いって……」
虚ろな春人の瞳。
業の深いこと。
深淵が見返すレベル。
「さて」
パンと一拍。
凜ちゃんが話題を変える。
「この後は何処に行きましょう?」
「ブライダルショップ!」
「お兄ちゃんとは結婚しないよ?」
「何ゆえ!?」
ツッコむのも疲れる。
「春人とならいいかな?」
「むぅ」
「へぇ」
「あう……」
三者三様だった。
「春人もウェディングドレス……着たいでしょ?」
「陽子さんは……?」
「燕尾服着るのもいいかなって」
サラリと述べる私でした。
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