第33話 在る意味デート


 都会までは快速だった。


 電車ではなく車で。


 いやぁ、速いし楽だし……ついでにかゆいところに手が届くとでも申せましょうか?


 都会ではあまり必要ないとはいえども、小回りが利くのは国交省に感謝したい気分でございます。


 適当にパーキングエリアに止め、乗り出す。


「何か欲しい物はありますか?」


「パパ活っぽい」


「あはは」


 凜ちゃんは笑う。


「お兄ちゃんが何でも買ってやるからな」


「じゃあ時計」


「相わかった」


 わかられちゃったらしい。


 えー?


 ことさらスマホがあるので、時計はあまり必要も無いのだけど。


 そりゃファッションの一部……コーディネートの要ではあれども、私自身はあまり重要視もしていない。


 単なる嫌がらせがローリングストーンズ。


 それ専門の高級店をまたぐ。


「いや、本気にしすぎ」


 ギロッポンは、やり過ぎだ。


「この程度なら、端金」


 烏丸的にはそうだろうけども……!


「お兄さん……お金持ち……?」


「おう」


 春人の疑問に明快に。


 お兄ちゃん……空気読め……。


「ふわぁ」


 と春人。


 目をキラキラさせている。


「俗物的には見えないけど」


「どうでしょうね?」


 私と凜ちゃんが、そんな会話。


 時計を見て回って、時を過ごす。


 スイスまで発注することも出来るらしい。


 さすがに腰が引けたので、


「却下」


 とだめ押し。


 あからさまに落胆するお兄ちゃん。


「ダメか」


「ダメです」


 こっちの心臓が保たない。


 ――可愛い妹の我が儘を全て叶えて差し上げる。


 兄として正しい在り方なのか……あるいは単なるシスコンなのか……。


 相対評価として後者で。


 結局、購入しないまま、店を出る。


 それから喫茶店へ。


「ふわ……」


 美味しい、と春人が驚いていた。


 私も、コーヒーを飲んでいる。


 実際に美味しかった。


「ところでアンデルスは……陽子と仲良いのか?」


 お兄ちゃんの詮索。


「マブダチ」


「仲良くさせて……もらっています……」


 照れる春人の愛らしさよ。


「ちょっとした優越感」


「?」


 わからないのが春人の良いところ。


「なるほど」


 凜ちゃんの苦笑。


「あー……」


 お兄ちゃんも察したらしい。


「???」


 一人、春人だけがわかっていなかった。


 危機感を煽られたのか。


 お兄ちゃんの真摯な視線。


「陽子」


「はいはい?」


「愛してる」


「はいはい」


「本気だ」


 はいはい。


 アイスコーヒーをチューと飲む。


「でも本当に……」


 とは春人。


「陽子さんは……愛らしいですよ……。学校では……しないのですか……? 格好と言いますか……流行と言いますか……コーディネートでイケイケな感じに……」


「面倒だし」


 主にルサンチマン。


 まぁ卒アルでバレてる感増し増しだけど。


「そですか……」


 そなんです。


「陰キャもいいですけどね」


 凜ちゃんも苦笑。


「地が良いからわかる人にはわかりますよ」


 そ~ですか……。


「あまり幻想持たれても、返すモノがござんせんけど」


「陽子さんらしいです」


 嫋やかに紅茶を飲んで、凜ちゃん。


「可愛い……よ……?」


「春人もね」


「俺は!?」


「まぁそこそこイケメン」


「そこそこ!?」


「大学ではモテてるんでしょ?」


「そうなのか?」


 自覚が無いのも困りもの。


 合コンとかに誘われてるとは聞く。


 本人は行く気ないらしいけど……元よりそんな人間だと前置きすれば、たしかにお兄ちゃんは他に移り気する人間でもないのだろう。


 愚痴のように呟くので、


「看板なんだろうな」


 程度は読み取れる。


「いっそ彼女でも作れば?」


「付き合ってください!」


「私以外で」


 そもそも妹とは恋愛できないでしょ?


「出来る」


「生理的に無理」


「生理?」


 ――殴ろっかな?


 少し、そう思った。

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