第32話 男の娘
インターホンが鳴った。
「どうぞ」
と招き入れる。
可憐な乙女が現われた。
まぁ語弊ではあるのですけど、彼を前にして、可憐純情月見で一杯花見で一杯を感じないのは風情が足りない証拠かと。
「し……失礼します……」
ガチガチだ。
怯えるような可憐純情な乙女は粋なんだけど、それにしても攻撃力というか浸食力というかがオーバーロードしてマックスファイヤー。
「おおう」
と、お兄ちゃん。
「愛らしいですね」
と凜ちゃん。
「日高先生……」
「ええ。アンデルスさん」
春人=アンデルスの言葉に、柔和に答える凜ちゃん。
「えと……」
私と凜ちゃんを交互に見やる。
「陽子さんとは仲良くさせて貰っていますよ」
今更だね。
ちなみに春人はフリフリのロリータファッションだった。
ピンクと白が……目に痛い。
まじでロリータ……ドロレスを体現しているような愛らしさで、世界を輝かしく浸食するような可愛さに溢れている。
ちなみに同じ柄の日傘まで持っている始末。
前髪はピンで留めて、愛らしい顔が美少女を演出。
元が純度の高いイケメンだけあって、女装しても違和感がない。
「もしかして私より可愛い?」
「陽子さんも可愛いですよ」
凜ちゃんのフォロー。
身内贔屓を、さっ引いて考えるべきだろう。
結構、凜ちゃんから褒められるとハートに来るのも事実でして。
「それにしても」
お兄ちゃんがしげしげと春人を捉えて、胡散臭げに半眼で睨みやるのは、たしかに春人の勲功の証左だ。
「何か?」
「本当に男か?」
「ですよ」
凜ちゃんが頷く。
担任の教師だからね。
正確には副担任。
「ふむ」
「何か琴線でも触れましたか?」
「リアル男の娘……」
「あう……」
照れる春人。
『女装して男にエッチな目で見られる』
ことを、
『至福』
と呼ぶ人よ。
「抱きたいですか……?」
「いや、俺には陽子がいるから」
……またそういう……。
いい加減にしろよコノヤロウ。
「でも本当に愛らしいですね」
凜ちゃんは平々と。
元よりがっつくことをしない。
ソレも好印象。
「ちなみに男の格好するとコレ」
スマホの裏に貼っているシールを見せる。
「イケメンですねぇ」
「陽子!」
「杞憂」
カウンター気味に掣肘する。
お兄ちゃんは先回りしすぎ。
「けれどまぁ」
とは凜ちゃん。
「とりあえずは出ましょう」
ソレには賛成。
「都会まで行くか?」
「お茶しましょうよ」
「えと……」
「アンデルスさんは行きたいところはありますか?」
「任せます……」
ま、春人らしいと言えばらしいのだけど。
「じゃあ都会へ」
足はある。
お兄ちゃんが運転手。
「飛び出せ青春」
まだ言うか。
「いつも……こんな感じ……?」
「概ね」
大学生はヒマらしい。
実際に講義の時間を計算すると、結果として、小学生より授業時間が短い事も珍しくなかったりして……怪しいと思う方は是非とも計算して欲しい。
「ふぅん……?」
可愛い顔で、首を捻られる。
抱きしめたい。
この金髪碧眼が、面に出ると、とても危険なフェロモンが発散される。
ぶっちゃけぐうかわだ。
いやマジで。
「男でもいい」
というおっさん連中が出てもおかしくない。
その場面に立ち合った事もあるしね。
「?」
「可愛い!」
ヒシッと抱きしめる。
「どうにかなっちゃいそう」
「そのケが?」
「ないはずなんだけど……」
それでも春人が可愛いのは、三千世界の常識だ。
カラスもソレは白くなる。
男の娘。
私だけが知っている……アドバンテージ。
これを離すのは、真理に悖る行為だ。
「陽子さん……」
「なぁに?」
「照れます……」
「可愛い!」
そんな具合。
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