第35話 ウェディングドレス


「尊い」


 お兄ちゃんの目が、ギラリと煌めいた。


 ちょっとキモい。


 私はウェディングドレスの姿だった。


 華やかな純白にして、輝かしい絹の衣装であって……ソレはあまりに神秘に偏りすぎてもいた。


 ちょっと感動。


 そして、お兄ちゃんとツーショット。


 ついでに凜ちゃんとツーショット。


 写真だけでなく、画像データも貰えた。


 喜ぶお兄ちゃんは放っておいて、


「じゃ次だね。ま、何事も経験とでも言いますか。春人となら確かに異論も無いけど……それでも私じゃ食われないか心配かな?」


 そんな感じで私は燕尾服に着替えた、


 髪を整え、男っぽく。


 代わりに春人が女っぽく。


 少し化粧をして、美少女と相成る。


 ウェディングドレスは、魔法の衣装だ。


 ただそれだけで神々しい。


 ……本当に……そう思う。


 コスプレ。


 そうとわかっていても、なお圧倒的な視覚情報は、奔流となって、意識の外郭を打ち崩すものでありまして……なんだかなぁ?


「鼻血出そう」


 春人のドレス姿は完璧だった。


 ぐうかわ。


 こんな嫁がいたら毎日の日常が楽しいだろうなぁ……程度は思い知って寸分の狂いもない。


 南無三。


「それでは撮りますよー」


 ブライダルショップの記念写真サービスで、パシャリ。


 私と春人の、結婚写真。


 都合三つの画像データを、私は受け取る事になった。


 お兄ちゃんと凜ちゃんと春人と。


「尊い」


 お兄ちゃんはスルーで。


「陽子さんは燕尾服も似合いますね」


「男に見えますか?」


「男装の麗人に見えます」


 ――もしくは宝塚。


 とは補足気味に。


 いいんだけどさ。


 それにしても……はぁ。


 春人の愛らしさよ。


 可愛いってレベルじゃねーぞ。


 女子として自信無くす。


「陽子さんも可愛らしいですけどねぇ。この花嫁衣装は……たしかに魂に訴える物があると言いますか……。ブライド陽子さんの新たな側面を見た様子」


 ありがと、凜ちゃん。


「うーむ」


 様々なウェディングドレスを観て、自身に充ててみる。


 あくまで想像で。


 隣にいるのは……さて誰でしょう?


「俺!」


 お兄ちゃんは黙ってて。


「愛してる」


 私はそうでもないかな。


 自分が無力なのは、今に始まった事じゃない。


「陽子さんも誰かとは結婚するでしょうし」


「そ~なるのかな~?」


 あまり想像できない高校一年生。


「えと……その……格好良いよ……?」


「畏れ入ります」


 そういう春人のウェディングドレスは、


「エロくて、愛らしい」


 の一言だ。


「あう……」


 赤面。


 女装した自分をエロい目で見られることに、興奮を覚えるタチ。


 性癖は人それぞれだけども。


 何となく長渕剛の『乾杯』が脳内に流れた。


「ま、いいか」


「それでは茶でも飲んでまったりしませんか?」


「おう!」


「いいね」


「あう……」


 そんな感じ。


「愛らしいなぁ」


 お兄ちゃんは写真に頬ずりしていた。


 画像データが何に使われるか。


「…………」


 そこは考えないことにした。


 だってさぁ。


 肥だめに足を突っ込むようなモノだ。


 どうしても二の足を踏む。


 コーヒー。


「けれどたしかに可愛かったですよ」


 凜ちゃんの穏やかスマイル。


「…………」


 こっちにはちょっと照れたりして。


「陽子に着せよう!」


「いいですね」


「陰子にも」


「ハーレム展開ですか?」


「元からだろ」


「でしたね」


 わかりやすい口調。


 凜ちゃんらしい……社交的な笑みだ。


 お兄ちゃんには、ないスキル。


「妹とデート。ついでに結婚」


 いや、結婚はしてござらんよ?


 なんて言っても無駄か。


「陽子」


「あいあい」


「愛してる」


「私はそうでもないかな?」


「あう……」


 何故そこで春人が気後れる?

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