第21話 変態


 怠い。


「五月病……かな……? なにかしらのフラフラを感じるような……そうでないような……。それにしても五月病と言うには――」


 ――まだ四月だけどね。


「それよりも」


「それよりも……?」


「可愛すぎ」


 南無三宝。


 今日は休日。


 日曜日。


 私は春人とデートしていた。


 私は春のコーデ……ファッション雑誌の模倣であって、それ以上でもそれ以下でもないのだけど、基本的にファッションは真似に端を発する。


 春人は、シスコンの陽子のコスプレをしていた。


 単純に架空学院のアニメ制服。


 ぱっと見は、学生っぽく映る。


 ただし容姿が有り得ない。


 学校では顔を隠す前髪が、ヘアピンで纏められ、愛らしく流れている。


 御尊顔目見麗しい。


 伊達眼鏡同盟。


 私も春人も、眼鏡を取っていた。


 本当に春人の外見は美少女だった。


 男の娘……と言う概念ですら表現できているか妖しい……まるで女子が男として具現したような、そんなお伽話を連想させる美しさだ。


「よくやるよね」


 場所は秋葉原。


 オタクの聖地。


 私たちはメイド喫茶にいた。


「えへへ……。可愛い……?」


「ぐうかわ」


 既述の如く。


「あはぁ」


 蕩けられる春人さんでした。


「女装好きなの?」


「今更……」


 ではありましょうぞ。


「男の人にね……」


「はいはい?」


「エッチな目で見られると……興奮するの……」


「……………………」


 何をかいわんや。


 変態だ。


 変態がおる。


「情欲でギラギラした視線って……ゾクゾクしない……?」


「鬱陶しいだけなんだけど」


 顔で恋するなら、ミロのヴィーナスでも眺めてろい。


 紅茶を飲む。


「あわよくばセックスしよう……っていう情念が……好き……」


「変態」


「よく言われる……」


「だれに?」


「パパに……」


「いい加減にしないと犯されるわよ?」


「でも止められないから……」


「何故よ?」


「個人情報……」


「…………」


 個々の責任ではあろうけど。


「私としては男の格好して欲しいんだけど」


「それだと……ナンパされないです……」


「そのための処置だったんでしょ?」


「だから例外……」


 でっか。


「お金に困ってるなら融通するよ?」


「別に困ってない……かなぁ……」


「じゃあなんで援交を?」


「パパ活……」


 似たようなもんです。


 私にとっては。


 何がそこまで春人を追い詰めるのか……それが少し分からないけども……それにしても春人の性癖はない。


「性欲の宿った目が……とても好き……」


 すごい素養の持ち主だ。


 変態にも色々いる。


 なんか自分が真っ当な人間に思えてきた。


「僕たち二人なら……ナンパされるよ……」


「春人が可愛いから?」


「陽子さんも……可愛いから……」


 陽子さん「も」……ね。


 いや、春人も、客観的に美少女風ではあれども。


 一目で男とは思えないだろう。


 金髪碧眼のハーフ美少女。


 冷静に指摘して、そのレベル。


「……………………」


「……………………」


 店内で私たちは注目を集めていた。


 たしかにレベルは高いでしょうよ。


 私も些かの自負は在る。


 自負……というか……告白された回数が二桁にのぼるから、


「まぁ一目惚れされる程度には」


 くらいの感覚。


 ちょっと信じられない気持ちも、確かにあるんだけど。


「陽子さんは可愛いですよ」


 とは此処にいないイケメン教師の談。


 照れる。


「てなわけで……男を魅了しましょう……」


「秋葉原で?」


「あ……」


 今更気付くんかい。


「この変態」


「僕にとり……褒め言葉……」


 うっとりと蕩ける御尊顔。


 不治の病ってこゆ事を言うのね。

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