第20話 大人の意見
「部活……ですか」
輪ゴムで前髪をとめたシェフこと凜ちゃんが、フライパンを温めながら、そんな呟き。
「ラインでも言ってましたよね」
「何か楽しい部活無いかなって」
「拙もあまり知りませんねぇ」
おい。
卒業生。
「基本勉強漬けだったので」
「あー……」
それは。
「ごめんなさい」
「気にしなくて構いませんよ。でも気遣いは嬉しいです」
なんて紳士。
たしかに凜ちゃんは紳士で……それにもまして真摯というか……あるいは誠実というか……その辺はよく分かったり分からなかったり。
「お兄ちゃんと結婚するんだろ?」
「シスコンも大概にせえや」
「約束したじゃん」
「公文書が残ってないのでノーカン」
「処女だよな!?」
「グサッとくること言わないでくれる?」
処女だけども。
畜生。
男が居ないんだよねぇ。
幻想持つ連中は相手にする気無いし。
あるなら、まず眼鏡を取る。
次に、三つ編みおさげをやめる。
「アンデルスさんとはどんな話を?」
「手芸部に興味があるんだって」
「女装好きそうですよね~」
実際遭遇したもんね。
やっぱパパ活やってるのかな?
そこは常識を疑う。
「はい。出来ましたよ」
ちなみにロコモコ丼でござい。
「うむ。美味し」
「凜ちゃんを娶る人は幸せだね」
「なんなら陽子さんを娶りましょうか?」
「いいけどオマケでお兄ちゃんまでついてくるよ?」
「構いませんけど」
烏丸フリークだったね。
そう言えば。
「お兄ちゃんも文芸部とかは入ってないよね?」
「ま~な~」
はぐはぐ。
がつがつ。
基本的に、ネットで記事を書いてて拾われた類だ。
その成果は類を見ないけど。
「ゲームする部活とかはないので?」
「TRPG系は一つあった」
「いえマシンゲーム」
ソシャゲの時代ですよね。
ぐだぐだはしております。
「生徒社会的に無理かな?」
そも教師が許すまいよ。
「ですね」
その教師が淡々と述べ申しまして。
「今は何をされているので」
「図書室で座敷童」
「らしいです」
「SFが最近の流行り」
Vサイン。
「お兄ちゃんの本は?」
「最新でチェックしてるし」
読む読まないって言うか、中身知られてる感が半端ない。
勝手にお兄ちゃんから、相談持ちかけられたりするしね。
覚るなって方が無理だ。
「部活ね」
「無理しても良い事はありませんよ」
「気が逸ってるな」
凜ちゃんとお兄ちゃんは、それぞれ悟ったように言って、ビールのプルタブを開けるのでした。
飲むんかい。
「そもそも陽子は働かなくて良いぞ? お兄ちゃんが養ってやる」
「絶対働く」
「何故!?」
むしろ何故そこで狼狽するの?
「シスコン」
「愛だよ君」
「凜ちゃんと結婚すれば?」
「男色のケは無い」
「陽子さんも腐女子じゃないでしょう?」
「いえ……まぁ……嫌いでもないんですけど」
しょうがないじゃん!
男性に夢見る乙女じゃいられますし!
「にしては彼氏も造らないで」
「凜ちゃんは?」
「陽子さんが好きですよ」
「いき遅れるよ?」
「なんとかなりますって」
ケラケラと笑ってビールを一飲み。
アルコールが脳に回っているようだ。
「そもそも陽子がいなければシスコンは生まれなかった」
「肖像権の侵害?」
「ある種、俺が陽子に養って貰っているようなモノだな」
「逆説的に……」
「面白い発想ですね先生」
「やっぱり恋人は妹に限る」
酔っ払うと途端に役に立たなくなる。
部活の話は何処に行った?
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