第18話 今日も咲け咲け明日も咲け


「春か~」


 春人=アンデルス氏と一緒に下校しまして、互いに近いマンション前で一時の別れと相成ります。


 呟きはロビーで。


「たで~ま~」


 帰ると、


「おう。お帰りだな~」


 酔っ払ったお兄ちゃんが出迎えた。


 理性を手放していないのは酒飲みとしてまず順当ではあれども、少し懸念もしまして……南無三。


「飲んで大丈夫なの?」


「締め切りギリギリに納品できたから、祝い酒だ」


 御本人、それでいいなら止めませんが。


「凜にも仕事が終わったら来るようにいってあるから」


「ご飯は?」


「冷蔵庫に寿司」


「局所感謝」


 お酒飲むのって楽しいのかな?


 そりゃ大人ぶって試したことはあるけど、ビールは苦く、日本酒は独特。


 焼酎もキツかったなぁ。


 ちょっと舐めただけではあっても。


 コーヒーは無糖で飲めるけど……お酒も、大きくなったら楽しく飲めるのかもしれない……量子力学的な可能性の話なら。


 ちなみにコーヒーについては、お兄ちゃんがブラックをよく飲むので、付き合ってたらいつの間にか……との御様子。


 世の中は上手く回っている。


「お風呂はどうする?」


「後で入る」


 さいでっか。


「にしても目出度い。今度こそダメかと思った」


 だいたい毎回言っている。


 それでも切られないんだから、お兄ちゃんも相当だ。


「陽子も飲むか?」


「未成年」


「酒なんて子どもの内から飲むもんだろ」


「品行方正が売りなので」


 舐めた経験はあれども。


「陽子~。結婚して~」


「無理」


「お兄ちゃんを愛して~」


親心おやごころ的な意味で?」


「ジュブナイル的意味で」


「最近本番をする小説も増えたよね」


「だろう?」


「私とお兄ちゃんは有り得ないけど」


「凜ならどうだ?」


「教師と生徒っはマズいっしょ」


 どっちかって~と凜ちゃんが破滅する。


「まぁ凜が弟になるのもな」


「年齢上だしね」


 凜ちゃんも、私は無理じゃないかな?


 いや、でも代償行為ではあるのか。


 慰み程度なら付き合ってくれるかもしれない。


「そういえばクラスメイトがシスコン面白いって」


「ほう。読者が」


「ラノベだから読むんじゃない?」


「市民権には少し遠いがな」


「アニメ化して欲しいって」


「それはスポンサーに言ってくれ。俺は知らん」


「いっそお兄ちゃんが依頼すれば?」


「億単位の銭を放り投げろと?」


「ジャイアントスイングだね」


 本当にやったら勇者だ。


 冷蔵庫から寿司を取り出して食べる。


 もぐもぐ。


「失礼しまーす」


 凜ちゃんが現われた。


 春の陽気も相まって、副担任教師の周りは散る桜の花弁が幻視できる程度に、キラキラと光っていた。


 さすが。


「お疲れ様です」


「陽子さんもね」


 軽やかなスマイル。


 この人、前世は菩薩か如来かな?


 拈華微笑なところがある。


「よう。心の友よ」


「入稿したって?」


「おう。目出度い」


「偉いです先生」


「褒めて褒めて」


 ――調子に乗るな。


 言わないけども。


 まぁお兄ちゃんは何時もの如く何時もの如しなので、掣肘しようにも反作用は起きないだろう。


「つまみは足りる?」


「大丈夫ですよ。追加で買って来ましたので」


 プシュッと、ビールのプルタブを開ける凜ちゃん。


 一息に飲んで息を吐く。


「苦くないの?」


「ほろ苦いからいいんですよ」


 喉越しが、とのこと。


「教師……先生は出来てる?」


「やりがいはありますね。なんとかやっていけそうです」


「ブラックって聞くけど」


「生徒の笑顔はプライスレスですから」


「凜ちゃんモテるもんねぇ」


「いやはは。お恥ずかしい」


 その言葉から察するに、既に告られたな。


「お兄ちゃんは陽子一筋だから!」


「聞いてない」


 シスコンも大概にせ~よ。


「愛してるよ~」


「伝わってくるよ」


 主に文章を通して。


「妹の出し汁で身体を清める!」


 シャワーだけにしとこうかな?

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