第17話 駄弁る陰キャ
「……………………」
「……………………」
私と春人は読書の春を陽気に過ごしていた。
二人揃って、本を読む。
図書室だ。
利用者が少なく、ここなら二人きりになれる。
在る意味で都合良く、在る意味で理屈良く、そのため二人で読書という行動も、ここでは全く以て普遍的な意味を持つのも道理だろう。
「……………………」
少し手を止める。
対面に座っている春人を見た。
前髪で隠れた目元。
さらに伊達眼鏡でコーティング。
けれどその穏やかな碧眼は、宝石に例えて足りないほど。
エメラルド以上に透き通った碧色は、なるほど人外の可能性を……ここまで警鐘するに値するはずだ。
多分。
きっと髪と瞳の色のことは、散々言われてきたのだろう。
私にも似た経験はある。
地毛が茶髪。
染めたわけでもなく、親の遺伝子で。
お兄ちゃんも茶髪だ。
こういうと妹馬鹿みたいだけど、
「実は格好良い」
程度の評価はしている。
……あの残念なシスコンを除けば。
けれど比するに、春人はもっと酷いだろう。
春人。
春人=アンデルス。
私は彼を何処まで知っているのか?
ときおり、精神が危うくなる。
というか、本当に私は春人を同情できるのか――――が、此度の私に於けるテーゼでありましょうぞ。
何処かで、
「何も知らないくせに」
そう責める自分がいる。
お兄ちゃんも、凜ちゃんも、イケメンだった。
しかも日常的に付き合っていた。
だからガツガツはしないけど、
「…………何か……?」
「なんでもござんせん」
春人は、「ちょっといいな」って思ってしまう。
凜ちゃんも好きだけど、アレは例外中の例外。
背伸びせず、付き合うなら、
「………………春人か」
ボソリと呟く。
聞こえない声量で。
今ならお買い得。
だって誰も評価していない。
知っているのは私だけで、交流も私だけ。
世界の片隅で愛を叫びたい系。
――好きなのかな?
どこか他人事。
好意的ではある。
ライクの意味でなら好きだろう。
――じゃあラブでは?
そこまで考えて、思考がフリーズした。
そもそも処女じゃん。
告白されたことは多々あれど、頷いたことは一度もない。
ギャルやってながら恋愛経験値ゼロ?
ヤバいかな?
でも、知らない人に、
「好き」
って言われてもなぁ。
そう思うと……。
――春人が好きって言ったら私どうするんだろ?
ちょっとした命題。
好きなのか?
付き合うのか?
セックスするのか?
「……………………」
「どうか……なされましたか……?」
「え?」
「読書に……集中できていないようで……」
「ああ、その、少しね」
「悩みでも……?」
「そんなところ」
「不用意に触れていい話題ではないなら……相談に乗りますけど……」
「それ、髪をかき上げてから言って」
「無理です」
「イケメンなのになぁ」
スマホの裏側に張ったプリクラを見る。
イケメン化した春人。
目の前にいるのは、髪と眼鏡で顔を隠した男の娘。
これが同一人物ってんだから、この世は不条理だ。
「シスコンは楽しい?」
「とても……」
「ホントに?」
「面白いと……思います……」
お兄ちゃんも喜ぶかな?
少しそう思う。
まぁ確かに楽しいのだから……お兄ちゃん……烏丸……その存在意義というかレゾンデートルもあるのでしょうけどね。
南無三。
「陽子さんも……読んでいるのでしょう……」
「ま、ね」
「どうですか……?」
「複雑な心境」
凜ちゃんも言ったけど。
「双子の妹の一人と……名前が同一ですね……」
「だね~」
南無三。
「アニメ化……しないんでしょうか……」
「してほしい?」
「ええ……。是非……」
さいでっか。
陽光差し込む図書室。
金色の髪が輝いた。
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