第14話 日が暮れて


「あー、楽しかったね」


「です……」


「そ? なら良かった」


「本当に……」


 はいはい。


「じゃ、そろそろ解散で」


「日も暮れてますし」


「マンション。近くでしょ? 送ってくれる?」


「構いませんよ」


 そんなわけで、二人で帰宅。


「学校では陰キャするの?」


「こっちの……セリフですけど……」


「だ~ね~」


 ケラケラと笑う。


「ま、目立っても苦労あるし?」


「それに二人の……秘密ですし……」


「次は女装に期待」


「はい……。機会があれば……」


「じゃあソレも約束ね?」


「承りました……」


 クスッと、遠慮がちに笑われた。


 ん。


 いい子いい子。


 笑って貰えたのは……それはまるで心を許して貰った様で……少し光栄だったりそうでなかったり


 しばらく歩いて、高級マンションに辿り着く。


「ここまでで良いよ」


「大丈夫……ですか……?」


「すぐ近くだから」


「はい……」


「じゃね」


「その……ですね……」


「ん?」


「これからも……よろしくお願いします……」


「わかってるって。陰キャ同士。仲良くしようね」


 キャピッと笑った。


「光栄に……存じます……」


 然程かな?


 少しの疑問。




 ――――で、


「たで~ま~」


 私はマンションの我が家に帰った。


「おかえりのチュー!」


「は、しない」


 突撃してきたお兄ちゃんの、額を押さえて、阻止する。


「シスコンも大概にして」


「病気なんだからしょうがない!」


「ウザ」


 素で言ってしまった。


「お帰りなさい。陽子さん」


 おや。


「凜ちゃん……」


 爽やかイケメンが、何故か我が家に。


「仕事は?」


「終わらせていますよ」


 凜ちゃん器用だからなぁ。


「食事は終えられましたか?」


「夕餉はまだ」


「カレーを作ったのですけど」


「食べる!」


 ビッと挙手。


「ていうかお兄ちゃん?」


「愛してる」


 それは無視するとして、


「締め切りは?」


「ヤバいから凜に頼んだ」


 ちなみに家事の方をね。


 さすがにライターの仕事は任せられないだろう。


 案外出来るかも知れないけども。


「先生の役に立てるなら」


 とは凜ちゃんの御言の葉。


「凜ちゃんの方が先輩でしょ?」


「この際、年齢は勘案に当たりませんよ」


 この物腰柔らかさが、らしいっちゃらしいんだけど。


「宿題でも見てあげましょうか?」


「終わらせてるからいい」


「さすが優等生」


 お兄ちゃんと凜ちゃんに言われると、皮肉にしか聞こえない。


 この二人からして、規格外だ。


「なんでもデートだったそうで」


「だね」


「楽しめましたか?」


「メチャクチャ」


「そこまで?」


「相手がすっごいイケメンだったから」


「先生よりもですか?」


「そこでお兄ちゃんを引き合いに出さないでよ」


「あはは」


 コロコロと笑われる。


 どうやらからかわれたらしい。


 この手の駆け引きは凜ちゃんが上手だ。


 別に鼻を明かしたら勝ちってわけでもないけども。


「それでは食事にしましょう。先生も栄養取らないと、良い文章は書けませんよ」


「うい~」


 そんな感じで、私の世界は回っている。

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