第11話 すぐに別のモノ


「~~~♪」


 姿見の前で、髪を整えている私だった。


 服は雑誌のコーデ。


 化粧はすっぴんメイク。


 春らしい、陽気の姿だ。


 陽子と春人だけに。


 そんなわけで、


「出かけるのか?」


 お兄ちゃんが聞いてくる。


「遊びにね」


「気合い入ってるな」


「そりゃもう」


 久しぶりの本気コーデだ。


 学校では陰キャコーデだからね。


 別に、どちらが主ってわけでもないけど……それはまぁ乙女として、たまには可愛く着飾りたいのも事実ではございまして。


「デートか?」


「そ」


「なにぃ!?」


 まぁそう言うよね。


 シスコンとしては。


「相手は誰だ!」


「クラスメイト」


「別れろ!」


「付き合ってないし」


「不誠実だ!」


「その相互理解のためにデートするんでしょ」


「お兄ちゃんは許しません」


「締め切り大丈夫?」


「ぬぐ……!」


「尾行したら兄妹の縁を切るから」


「せめて凜を保護者として……」


「空気ブレイカーだからダメ」


「あいつ空気読めるぞ?」


「わかってるけど、華やかすぎるの」


「あ~……」


「同い年の男の娘とデートするのに、イケメンが隣にいたら、居心地悪いでしょ?」


「むぅ」


「というわけで、諦めて」


「妹よぅ!」


「何?」


「愛してる!」


「私はちょっと引いてる」


 髪を整える。


 今日のコーデ目標は、ズバリと申せば『リア充』であり、控えめながら華やかさを象徴するのがコンセプト。


 ひなげしの花で。


「せめて何するのだけか教えてくれ」


「お兄ちゃんの映画見に行くの」


「あ?」


「オニ狩ルもみじ」


「あー……」


 納得されたらしい。


 脚本書いたのがお兄ちゃんだったりして。


 大学生ながらライターをしている。


「それじゃね」


「エッチなことはダメだぞ」


 その気もないのだけども……。


 足を伸ばせば都会はあれど。


 簡素にデートをするくらいなら、ショッピングモールでどうにでも。


 映画館もあるので、そこそこ楽しめる。


 待ち合わせ場所は、モールの案内板前。


 道行く人を見ながら、そちらに。


「……………………」


 視線を受けた。


 実のところ、慣れてはいる。


 まぁギャルというには、今は控えめなコーデだけど、中学時代のギャルだった頃も、いかがわしい視線の十や二十は刺されてきた。


 案内板前で、立つ。


 スマホで、時間確認。


 五分前だ。


 ラインはなし。


 別に遅刻された程度でどうとも思わないので、これはよし。


『此方は着きました』


 ――催促するようでウザいかな~?


 少し思ったけど送信。


 少なくとも、周りに春人はいない。


 ラインの返信。


『こちらも着いてます。どこら辺にいますか?』


「おや」


 周りを見る。


 それらしき影は無いし、視線も感じない。


『ガチ前』


『同じく』


「え」


「え」


 私と、私の近くに立っていた男性が、声を揃えた。


 聞き覚えのある、ボーイソプラノ。


 相手方もこちらの声質で気付いたらしい。


「春人……?」


「陽子さん……?」


 イケメンが、そこにいた。

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