第9話 春人とのライン
家に帰って、小説を読んでいると、スマホが震えた。
ラインだ。
相手は春人。
春人=アンデルス。
『このたびは譲ってくださりありがとうございます』
そげな卑屈にならんでも。
他者に言えた義理でもないけども。
『面白かった?』
『とても』
それはようござんした。
『もみじの覚醒イベントは興奮しました』
『わかります』
さすがに読まされればね。
『烏丸茶人の本は読まれているので?』
『それはまぁ』
目に入るというか。
何というか。
『面白いですよね?』
『ええ。とても』
なんか背徳感が。
『それで……その……』
三点リーダを使うほどですか。
『よければ外法少女の劇場版を一緒に見てくださいませんか?』
『構いませんが』
たしかに烏丸茶人のファンなら見ておきたいところだろう。
私は既に見ているけど。
『じゃあ次の日曜日に』
『本当に宜しいので?』
『イヤならイヤって言うから』
『ではその通りに』
『さっさーい』
『よかったです』
『別に映画に付き合うくらい』
『迷惑だと思われたらって思うと……中々に』
『先に言ったけど、イヤなことはイヤって言うから』
『はい。信じます』
そんなわけで、こんなわけ。
『シスコンは読んでる?』
『もちろんです』
そうでっか。
『陽子は可愛いですよね』
『あー、まぁ』
『陰子も』
『だね』
ちょっと罪悪感。
『じゃあ約束ってコトで』
『さっさーい』
キリエ。
『キモいって思った?』
『何を根拠に?』
『いきなりコメント送って』
『殊更でも無いかな』
いきなりコメント送る奴までいる始末だったからね。
今までは。
高校では陰キャデビューしたので、その手の類は現われないだろうけど。
『女装は?』
『人それぞれじゃない』
少なくとも春人は可愛い。
ならそれでいい。
『ありがと』
『然程でも』
『良い友人関係が築ければ幸い』
『春人は臆病すぎ』
『そっかな?』
『友達くらい幾らでも為ってあげるから』
『引かない?』
『引いたら即時言うから心構えはしておいて』
『………………うん』
いかん。
脅しになった。
『今のところは大丈夫』
『そう願うよ』
女装趣味。
確かに特異だ。
私は言えないけど。
「茶髪ね」
お兄ちゃんも私も、それが地毛だ。
後ろ指さされるのには慣れている。
その辺を、春人は心構えていないらしい。
『春人萌え』
『あは』
嬉しそうなコメントが送られてきた。
『学校ではよろしくね』
『僕こそ』
『じゃ、そゆことで』
ピコンと音が鳴る。
最後のコメントは既読スルー。
『陽子さん萌え』
そんな感じ。
いいんだけどさ。
別に。
「高校ね」
未知の部分在り。
ってなわけで、手探りくらいしか……やることがないのでは……まぁ事実だけど。
「南無八幡大菩薩」
念じるより他に無し。
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