第8話 妹愛


「ただいま」


 凜ちゃんに車で送って貰って、マンションをエレベータ――複数存在する――で上った。


 玄関を開けて、帰宅すると、


「陽子ー!」


「却下」


 抱きつこうとした、お兄ちゃんを、手で制す……というか正確にはお兄ちゃんのおでこに手を差し出して差し止めた。


「陽子たん可愛いよ陽子たん」


「知ってるからいい」


「南無三」


「仕事は順調?」


「それなりに」


「大学は?」


「それなりに」


 もうちょっと時間はあるらしい。


「というわけでお兄ちゃんとデートしようぜ!」


「良いけど」


「え?」


「断られると思った?」


「正直に言えば」


「たまには良いでしょ。お兄ちゃんキモいけど嫌いじゃないし」


「愛の告白?」


「耳鼻科に行け」


 何故そうなる?


「じゃあ何処行く?」


「適当で良いんじゃない?」


「じゃ、都会に出よっか」


 足もあるしね。


「お下げと眼鏡はやめてくれ!」


「はいはい」


 三つ編みを解いて、眼鏡を外す。


 ついでに化粧して、体裁を取り繕う。


「きゃわいい!」


「バルス」


 抱きつこうとしたお兄ちゃんの双眸を、ピースサインで潰す。


「目がぁ! 目がぁ!」


 自業自得だ。


 得してないけども。


「バイク? 車?」


「車でお願いします」


「さっさーい」


 お兄ちゃんも外行きに着替えた。


「じゃ、何する?」


「適当に店回る……で良いんでないの?」


「新しい服は要る?」


「どうだろ」


 陰キャ目指している当方でありますれば…………派手目の格好は中々に勇気と根性が要りますな。


 そんなわけで車上の人。


 都会に向けて発進。


 大型のアウトレットを、見物して回る。


「お兄ちゃんが何でも買ってあげよう」


 たしかに金銭には困ってないけどね。


「じゃあ靴」


「任せろよ!」


 何でお兄ちゃんは常時テンションが高いかね?


「楽しい気持ちは大切さ」


 とは御本人談。


 職業柄、否定も難しいけども。


 ブーツを見ながら、ファッション雑誌のコーデを想起する。


 これなら茶の革ブーツか。


 それにしても色々あるけど。


「なんなら買い占める?」


「場所取るよ」


「それだよね」


 うんうん、とお兄ちゃんの頷く。


「どんだけ妹が好きなの?」


「世界で一番!」


「恐悦至極」


 頭の悪い会話だなぁ。


 しばらくアウトレットショップで時間を潰し、夕餉は外食になった。


 なんでも、


「入学祝い」


 らしい。


 回らないお寿司屋さん。


「金銭と愛情は比例しないよ?」


「単に食べたかっただけ」


 うむ。


 中々に強敵だ。


 お兄ちゃんのクオリアは、私ですら解きがたい。


 基本的に、


「したいことを遠慮無くする」


 が根底にあるので、


「思案」


 や


「憂慮」


 とは縁遠い。


 私が気疲れするわけだ。


「妹を愛する」


 それだけで道を究めたお兄ちゃんであるからに。


「援交に見えるかな?」


「ホテル行く?」


「絶対ヤダ」


 そこは譲れなかった。


 南無。

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