6-3 雑誌の「内」と「外」

 次に取り上げるのは、漫画雑誌における表紙とその内容についてである。雑誌の性質上、具体的にこの巻号であると指定しにくいが、おおむね週刊少年誌であると想像してもらえればよい。


 さて、コンビニ各社が成人向け雑誌を撤去したことで、ゾーニングは完了したかに見えるかもしれない。が、それはあくまで、第4章の分類に従えば「明らかな性暴力表現」が駆逐されたに過ぎない。ここでは、「実のところ性暴力表現」や「性的強調表現」が含まれる雑誌の表紙、そして内容について論じる。


 その前に確認することだが、本項では同じ雑誌に関することでも、表紙と内容で区別して論じる。なぜならば、表紙は外を向きだれからも見えるようにデザインされている一方、内容は雑誌を開かなければ見えず、公の定義から外れるためである。


 まず、表紙について。表紙についても、前々項で論じた内容が援用できるだろう。つまり、基本的には、公に向けて性的強調表現を使用すべきではない。

 だが、前々項の内容と異なる点がひとつある。それは、雑誌を発行しているのが公的な組織ではなく民間企業であるという点である。


 とはいえ、雑誌を発行するような企業は規模が大きく、公的な要素があるという指摘から逃れることはできない。前々項で論じた、公的な機関が性的強調表現を使用すべきではない理由は、こうした大規模な企業にも当てはまると考えるべきだろう。故に、性的強調表現を使用すべきではないという方針は、公的な機関ほどではなくとも、民間企業にも当てはまる。


 また、少々ややこしいことだが、第5章で述べたように、性的強調表現には露骨なものから微妙なものまで幅がある。

 つまり、「公的な機関ほどではないにせよ性的強調表現を使うべきではない」と言ったとき、どこにその線を引くのかはかなり難しい問題である。公的な組織のPRとは異なり、漫画雑誌はその性質によって、性的強調表現を使用しなければ成り立たないということもあろう。


 結局のところ、大筋の方針としては「あまりに露骨なものは避けるべき」という点は共有しつつ、どの程度なら穏当なのかについてはその都度企業と市民とが折衝を繰り返し妥協点を探るほかない。社会情勢によっても許容範囲が変化しうることからも、具体的な線は引きがたいと言わざるを得ない。


 内容に関しては、前述の通り、雑誌を開かなければ目にしない部分であるため、公としての要素はかなり薄いといえる。ただし、様々な種類の作品が雑多に掲載される雑誌の性質上、住み分けに無頓着でいいというわけでもない。極端な話、雑誌がいくら閉じられた空間であったとしても少年誌上でR-18とみなされそうな表現はできないことからも察せられるように、限度はある。


 まとめると、雑誌は民間企業の発行物である以上、表紙に関しては公的な組織のものほど性的強調表現の使用に制限があるわけではないが、露骨なものはやはり避けるべきである。もっともその基準は明確にできず、市民との議論のなかで妥協点が見いだされるべきである。


 また、内容はさらに公としての性質が薄いが、限度はある。その点、許容範囲の違いを除けば表紙と同じように考えることができるだろう。


 念のため付言しておけば、本論における議論はあくまでゾーニングに関するものである。ゾーニングが完璧になされていたとしても、内容に対する批判まで免れるわけではない。特に少年誌は想定される読者層が未成年であることから、厳しい批判に晒されることになるだろう。その批判へどのように答えるかはさておき、批判されること自体はプロの創作者である以上甘受せねばなるまい。

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