3-4 悪影響の可能性と妥当な制約

 これまで、ポルノが与える悪影響について論じてきた。結論を繰り返せば、ポルノには限定的ながら悪影響があると考えられる。つまり、見る者が見れば性犯罪を誘引しかねない。一方、大半の者には悪影響がないかもしれない。


 このような場合、適切なのはやはり、公から性暴力表現を追放するという程度の処置である。


 悪影響はある。しかし限定的である。こういう状況であれば、その悪影響を織り込んで表現を受容できる、責任ある大人にのみ開陳されるべきである。この論理は、タバコ規制に近いものがある。


 喫煙者は、タバコの有害性を理解したうえで、自己の責任でタバコを吸っている。しかし、副流煙を浴びる他者は必ずしもそうではない。タバコの悪影響を望まずに受け止めることになってしまう。


 これを防ぐためには、喫煙場所を区切るのが最も適当である。タバコを吸えば肺がんになる可能性は高まるが、必ずしも肺がんになるわけではない。同様に、ポルノを受容すれば性犯罪を犯す可能性が上がるかもしれないが、必ずしもそうなるわけではない。故に、タバコやポルノを全面的に禁止することまではできないだろう。


 加えて、ゾーニングは副産物として、ポルノの悪影響を減じる効果を持つかもしれない。


 第2章で、公から性暴力表現を追放することは、少なくとも性暴力が、公にあってはならない程度に不適切なものであることを示すことになると論じた。また、本章の第2項で、ポルノのレイプ表現が不適切な行為であることに気づけない非行少年の事例を紹介した。この2つは関連させることができる。


 性暴力表現が公からなくなれば、それは性暴力表現が、少なくとも公にあるべきものではないことを人々に伝えることになる。そのメッセージは当然、非行少年も受け取るものである。


 そのメッセージを受け取った非行少年は、性暴力表現がまずいものではないかと考える機会を得ることになる。もちろん、予防効果としては心もとない。しかし、そのような機会すら全くないまま性暴力表現に触れるよりは随分ましである。


 その機会を契機に、適切な性教育へ繋げたりできるかもしれない。そうなれば、性犯罪を減らすことにもなる。


 このような理由で、やはりゾーニングは肯定されるのである。

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