3-4 「ポルノの性犯罪抑制効果」に関する誤り:具体編

 前項で、ポルノ研究一般に関わる問題点を指摘した。ここでは、具体的な論文を挙げて、問題点を一気に羅列したい。読むのが煩わしいのであれば、ポルノが性犯罪と無関係、あるいはポルノが性犯罪を抑制するという結論が疑わしいということだけ理解してくれればよい。


Scott, J. E., & Schwalm, L. A. (1988). Rape rates and the circulation rates of adult magazines. Journal of Sex Research, 24, 241-250.

 相関研究であるため、前項の指摘が当てはまる。また、単年でアメリカの各州の値を比べただけなので、ポルノ流通量の変化に伴って性犯罪がどう変化したのかを検討することすらできない。


Milton Diamond, & Ayako Uchiyama (1999). Pornography, Rape and Sex Crimes in Japan. International Journal of Law and Psychiatry 22(1): 1-22.

 「ハワイ大学と日本の警察の共同研究」と言われたらおおよそこれのことであろう。相関研究と言うべきだろうが、ポルノ流通量が数値化されていないため、相関すら見れていない。


Kutchinsky, B. (1973a). The effect of easy availability of pornography on the incidence of sex crimes: The Danish experience. Journal of Social Issues, 29, 163-181.

 巷で、ポルノと性犯罪の関連を否定したエビデンスと言われがちなものに「カチンスキー報告」なるものがある。この研究の著者はそのカチンスキーだと思われる(「思われる」というのは、カチンスキー報告を持ち出す者でその原典を直接示した者がいないため、本当にそうなのか確かめようがないという意味。別のカチンスキーさんである可能性を否定できない)。

 相関研究であり、認知件数の変化がポルノの影響ではなく通報する市民の意識の変化である可能性を著者自身が示唆している。


Kutchinsky, B. (1991). "Pornography and Rape: Theory and Practice? Evidence from Crime Data in Four Countries Where Pornography is Easily Available". International Journal of Law and Psychiatry, 14, 47-64.

 これもカチンスキーによるもの。相関研究であり、同時に、相関係数のような統計指標が算出されていない。

 統計指標が算出されていないというのは、2つの要素の関連、ここではポルノ流通量と性犯罪の関連の強弱を判断する手掛かりがないということである。相関係数が示されていれば、それを基にある程度考察することが可能だが、これでは相関係数が統計上有意かどうかも判別できない。


Pornography, (1970). Report of the U.S. Commission on Obscenity and Pornography (Technical Report ): U.S. Commission on Obscenity and Pornography. Washington, D. C.: U.S. Government Printing Office.

 種々の手掛かりから、カチンスキー報告はこれを指していると思われる。が、この報告で取り上げられている研究はポルノ流通量と性犯罪の関連を検討したものではなく、ポルノの影響を実験的に確かめたものである。謎は深い。

 なお、実験はポルノを見せその影響を検討するものだが、ポルノを見た者が性的に興奮しておらず、実験操作が失敗に終わった可能性が濃厚である。


Diamond, M., Jozifkova, E., & Weiss, P. (2011). Pornography and Sex Crimes in the Czech Republic. Archives of sexual behavior, 40, 1037–1043. Doi: 10.1007/s10508-011-9871-9

 チェコのポルノと性犯罪を検討した研究である。しかし、ポルノ流通が解禁する前後で、共産党による独裁政府が倒れるという一大イベントが起こっており、社会情勢など性犯罪に影響しうる、ポルノ流通以外の要素が激変している可能性が高い。前後比較の対象としてあまりにも不適切である。


 以上のように、ポルノ流通と性犯罪を検討した論文は方法に問題が多く、エビデンスになりえない。

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