性暴力表現を公から追放する論理
新橋九段
はじめに
本論は、公における性暴力表現を追放すること、つまりゾーニングがどのような論理によって正当化されるかをまとめたものである。
なぜこのようなものが必要なのか。それは、筆者の個人的な経験に基づく。
特にTwitter上でよく見られることだが、ある表現が問題視されるごとに、問題視すること自体に反発する人々が瞬間的に加熱して反応する。むろん、表現に対する批判に反論することは極めて健全な議論にあり方だが、しかし、このようにして反応する人々の大多数が、実際のところ批判の前提となっている考え方や批判の要点を全く理解しておらず、挙句、批判者が一言も言っていないことがあたかも発言されたかのように独り歩きする始末であったりする。
このような反応を受けて、筆者は自身が運営するブログ『九段新報』などで、問題が持ち上がるたびに論点を整理し、議論を重ねてきたつもりである。が、正直なところ、焼け石に水、骨折り損という印象がぬぐえない。
その最大の理由が、全ての問題の根本にある基礎知識なり考え方なりが、体系的にまとめられていないことにある。
それぞれの問題は、注目されるべきポイントが微妙に異なる。しかし、基本それ自体は共通している。なので、問題が起こるごとに私は、同じような内容を言葉を変え表現を変え繰り返す羽目になる。これでは一向に前に進まないのも当然である。ずっと同じ単元を繰り返す授業のようなものだ。
そこで、本論をまとめることにした。本論は「性暴力表現」が公に開陳されることについて、全てにおおむね共通するであろう視点を体系的に網羅することを目指した。本論によって立てば、ネット上で取り沙汰される表現問題を理解するための基礎は得られるだろう。
ただし、本論で述べることは極めて基本的なことのみである。それは、本論を読む人の理解の段階が様々であろうと予想されるため、また話題によってやはり論点が微妙に変わるため、深く踏み込むとかえって問題の理解を阻害する結果となりかねないためである。
ゆえに、本論で述べることは、ある人にとってはひどくつまらなく映るかもしれない。もしそう感じたのであれば、それは自分が基礎をきちんと踏まえている証拠だと考えてほしい。
逆に、本論を読んでもなお内容がチンプンカンプンであるという人がいれば、コメントでどこがわからないのかを教えてほしい。筆者もこの話題は繰り返し嫌というほど論じてきたため、本来であれば押さえておくべき内容を、解説せずにすっ飛ばしている可能性がある。
また、本論はよってたつ理論的基盤もかなりシンプルにした。あまりにもシンプルすぎ、論理が大雑把であるとか、説得力がないと感じる人がいるかもしれない。こういう議論は、誰それがこう言ったとか、誰それがここにこう書いたといった引用を多用するものだというイメージが強いからである。
しかし、本論は本当に基本的なことしか述べないため、そのように込み入った、ごてごてとした論拠を用いて自説の説得力を強める作業は不要であると考える。そのことは本論を読み進めていけば理解されるだろう。
最後に、特に性暴力表現の反乱を憂う「良識派」のオタクの皆さんにお願いというか提案なのだが、ネット上の議論に本論を有効活用してほしい。
大抵の場合、ネット上の議論では、基礎すら踏まえない人々が濁流のように良識ある者になだれ込むこととなる。その際、基礎の基礎をいちいち言語化して説明することは負担が大きく、現実的ではない。
そのため、多くの良識派は濁流の前に沈黙し、諦めることとなる。だが、そのような者に本論のリンクを送り付ければ、一番面倒な部分の作業をスキップすることができる。
言い換えれば、本論は議論において一番面倒な部分を筆者が負担し、体系的な文章を作り上げることでコミュニティ全体のコストカットを図ったものだといえる。
もっとも、濁流のように押し寄せる人々の大半は、本論を読みすらしないかもしれない。それならそれで構わない。彼らの「説明しないからわからない」という言い訳を封じ、怠惰を明らかにすることができれば、少なくとも彼らが議論の相手に値しないことだけははっきりするのだから。
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