第6話【黒髪の少年の過去】
”黒髪の少年”は淡い光の中で目を覚ます。
そこには、働き尽くめの母が生まれたばかりの妹をオンブして、セッセと旅の準備
をしていた。「マニス、向こうに行っても手紙書いてな、字は書けんでも、絵を
書いて送れな! 母さんも描くで、生水はくれぐれも飲みなさんな! あんたすぐ
腹壊すよって」
母は、なけなしの”銭カード”をマニスの上着の内ポケットに入れた。
「このお金は、どうしても、帰りたくなったら使いなせ、もう、どうしょうも
母ちゃんに会いたくなったら使いなっせ」
優しく笑う母は、自分と双子の弟を抱きしめた。
”ブール国連学校”の隔離病棟の隔壁ルームに”黒髪の少年”は収容されていた。
『夢だったのか!?』黒髪の少年は長い時間眠っていた。
目が上手く開かない、まぶたがノリで接着されたみたいな感じだ。
「目覚めた? おはよう」
少年は、声の持ち主の記憶を探したが思い当たらない。
『優しい声……』
こんな静かで優しい声をかけられたのは、母と離ればなれになっていらいだった。
どうにか目を開け焦点を合わせると、細身の女の人が立っていた。
「どう?気分は?.......」
少年は声を出したが、言葉にならなかった。
『……そうか、舌を切られたんだ』
何処かの病院の手術室で、切られたらしい、『らしい』というのは眠ってる間に終わっていたからだ。
母ちゃんに頼まれて、双子の弟 ”アニス”と二人、6歳の時にインダス人のお金持
ちの家に養子になった。悲しかったけど、新しいパパとママは、見たこともない沢山
のおもちゃとお菓子を持って来てくれたので、ウキウキして大きい家に行った。
母ちゃんも父ちゃんも何か貰って喜んでいたので、なんか、良い事をしたような気分
になった。
大きな玄関をくぐって、俺たちの部屋がある地下へ連れて行かれた。足音が家中に
響いてアニスとふざけ合って足踏みしてた。
一番下にあった鉄の扉を開けたら、両端に上下の檻が沢山あって、裸の子供達がそ
の中にいた。
なんかチクチクする匂いがした、そこの子供達は、俺たちを見ても何も言わない。
怖くなって、新しいパパとママを見たら、笑顔だけど笑ってない。
よく分からなかったけど、弟と二人で「家に帰りたい、お母ちゃんに会いたい!」
と叫んだが、首を掴まれ、隣同士の檻に入れられた。便所は無くって、檻の端っこに
したら直ぐに、大きい人がホースで洗い流した、ガクガク震えたけど、部屋は暖かか
ったので直ぐ乾いた。
ミクは、顔に”エアーマスク”をつけ、体はシールドスーツで身を包む。隔離室に運
ばれたトレイを少年のベットの据付テーブルに置いて。
「さあ、、お腹減ったよね、先生にお粥食べさせてって言われたからね、さあ、
ゆっくり食べようね、ゆっくり」
木のスプーンだった、熱くも緩くのない、口の粘膜に溶ける。 仄かに塩がきき
マニスの故郷で食べた事のない味のスパイスがとても美味しい。
パクパク食べるマニス、いつの間にかポロポロ涙が溢れる。すると目の前の女の人
もポロポロ泣いてる。二人で目を合わせずポロポロ泣いてる。
『美味しくて、嬉しくて、悲しくて……悲しい』
食べ終わり、お姉さんにお礼を言いたかったが言葉が出ない。だけど
「……生きてればね、悪いことも良いことに変換できるようになるの」
顔を両手でガシッと鷲掴みにされて、励まされた。頑張れることがあるなら
『頑張りたい』
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