第5話【ユーロ国 フィーツ・エルダスの野望】
『アフロ国エチオピア州 某所 Mi11 秘密基地』
近代的な建物にそぐわない、古風で重厚な扉がある。扉をくぐる者に
威圧感を与える程の趣きだ。
一人の初老の女が、茶を運ぶ、部屋の壁一面が格子戸柄の窓。
今一番硬い鉱石”アフロニューム”で造られた、堅牢で頑丈な作りだ。
分厚く大きな一枚板で造られたデスク前の来客用の椅子から
”フィーツ・エルダス”は軍人の如く、スッと立ち上がり直立した。
初老の女は、軍服の胸にいくつもの勲章をつけていた。
ロシア州モスクワ出身”ユナ・セルゲディフ” [ Mi 11 ] アフロ方面情報部司令官。
静かにティーカップをデスクに置き、フィーツ・エルダスの鼻先スレスレに立ち
小声で話し出す。
「エルダス……”黒髪の少年”は何処へ消えたの?」
独特のイントネーションで小さい声であるが、地の底から響いてくる感じが
気持ち悪い。”ユナ・セルゲディフ”は細く鋭い眼光をフィーツ・エルダスの両目に
ねじ込んだ。
「わかりません」
フィーツも、礼節通り、その”細く鋭い眼光”を睨み返す事なく、
視線をまっすぐ保つ。
「被害は甚大ですよ、尊い100人を超える”イレブン”が亡くなりました。」
年の割には、綺麗な右の指先でフィーツの”右の乳房”あたりに触るまでもなく
弄る、微かに熱を帯びる。
”尊い部下を亡くした事実” フィーツの進言した計画をことごとくスケールダウン
させた、この上司のしざまを脇腹で嘲笑いながら、無言を貫く。
「……謝罪はないのですね」
鼻先に息を吹きかけるが如く囁く、フィーツは、とっさにこの”有能な上司”を
押し倒し、下半身を弄り、乳を吸い上げ、快楽地獄に蹴り落とす衝動に駆られるも
息を小さく吸い込み、受け流した。
『イケナイ、体温ガ上ガル……マア良イカ』フィーツは諦める。
”ユナ・セルゲディフ”も不可思議に思う『私は、男が好きだ、なのにこの狐
はいつも私を濡らす』
この女は無臭である、女性ならば、普通は、香水や化粧の匂いが香る。
この女は無臭である、それを強く望むが如く、がしかし、元来、鼻の効く私は
この女の体臭を嗅ぐ事ができる。今、世界で売れている香水”シェヴン no7”に
似た、もっと濃ゆく粘り気のある匂い。
『私は、この女を抱きたいのであろうか …… 』
強烈な支配欲を煽る ”コノ女ヲ私ハ犯シタイ” 耳ではないところから聞こえてくる
この悪魔のささやきに、ついぞ……
「おこないで返せ、イケっ」とっ、すぐに手放してしまう無為な指示を出す。
フィーツの艶かしい後ろ姿を観て、いつもの如く私は、私をいぢりまわす。
『私は、あの女の前では、いつも無能になってしまう』
「お前は、ハァはぁハァはぁぅ、悪魔だ」いつものように押し寄せる波に
今日も身をまかせる初老の”ユナ・セルゲディフ”
ぬめりのある空気から逃れたフィーツは、自分が私費で増設したラボへ
急いだ。
通称”クィーンズ・ラボ” フィーツ専用の武具、己れの直轄隊に装備する携行品
を開発、試作をおこない、ユーロ国[ Mi 11 ] に製造させる。
個人の持ち出しに頼らざるを得ない程に[ Mi 11 ] の予算は削られていた。
フィーツも自国愛など持ち合わせておらず、自分の目的を果たす為に、軍規の
緩い、平和ボケした [ Mi 11 ] を我儘に使っている。
フィーツの野望——
『九年前ニ奪ワレタ、私達ノ子宮ヲ取リ戻ス』
寝ても覚めても、生きてる時間の業が積もってゆく。
”クィーンズ・ラボ”の名前の由来は、もちろん”フィーツ・エルダス”の女王様然
としたオーラからきたものと、もう一つは、ラボの責任者、
天才”アイボヌ・デヌッチ”の、アニメアイドル崇拝からもきているらしい。
ラボのドアを蹴破るかの如く、フィーツは荒々しく部屋に入った。
いつもの如く、大柄で、モアイ像のような顔をした小心者の男が、大げさに
驚く。
「わぁっっv もう、びっくりしたなぁ、もう、本当にびっくりしたなぁもう」
無駄に甲高いこの声が、酷く癇に障る。『ブール星が明日滅びるならば迷わず
この男を殺すわっv』といつも心に誓う”クィーン フィーツ・エルダス”
「エルダス様、いつも、お美しい、感動です」
『嘘つけ……お前の好みは二次元の永遠の女子高生だろうがっv』とっ心の中で
毒づきながら、部屋の中には、アニメのキャラクターの女のフィギュア達が
女王様のように立ち並ぶ。
この”岩男 アイボヌ・デヌッチ”ブール星の5つ星の大学で博士号を取得
45歳にして4つのノーベル賞を取ってる、人類で5本の指に入る天才である。
量子学のなんちゃらかんちゃらという発明で4つ目のノーベル賞を取って以来
自分の心の叫びを聴きとり、”二次元アイドルによる心の解放感の心理学”という
どこからも資金の調達できないような研究を始めた。
フィーツが前々から目をつけていた科学者の一人だったので、資金援助を
申し出、三顧の礼により来てもらったのだが、まずはこのジャンルの人種の
”体臭”に辟易となり、ラボの中に豪華なシャワールームを増設するも、使われる
事なく、当時まだ学者然と偉そうにしていた天才”アイボヌ・デヌッチ”を
軽く締め上げ、今現在ブール星で爆発的に売れている消臭剤その名も”デヌッチ”
を開発させた。
「本日は、どのような、お言いつけで、しょうか?」
締め上げられたトラウマからか、フィーツに話しかける時に変な抑揚になる。
「昨日送った、アジス・アベバの映像は解読できたのか」
”黒髪の少年”奪還作戦の多方面からの映像をデヌッチに送っていた。
「やはり、ノイズが、解除できま、せんで」
この世界で、一番虫酸が走る男ではあるが、能力に疑う余地のないこの男
ができぬのだからシカタガナイ。
「我の新作の”レーザー・ウイップ”を、ベルトみたいなやつで止められたぞ」
「ベルトで!?」
天才は考え込む……こうなると長いので、フィーツは細巻きのガラムに火をつけ
一人ごとのように、昨日の戦場の情景を言葉にした。
「そのベルトは、我の投げた手榴弾を、形を変え、ワニの口のようにパックリ
と開け、飲み込んだ、そしてベルトの中で爆発したはずだが、なんの影響も
なかった」
思い返すと、なんとも気持ちの良いほどの凸凹部隊であった。ふっと笑いが
込み上がる。
デヌッチは、アジス・アベバの映像を見返している。ノイズが肝心な部分を
写してくれてない、[ Mi 11 ] のような特務機関には必須のアイテムであるので
凸凹部隊も何処かの国の、同業者であることは確かである。
フィーツはやっと見つけた、己の野望につながる”黒髪の少年”を奪われた
天から舞い落ちたこの蜘蛛の糸を、逃す訳にはいかない、底冷えする下腹を
手でさすりながら、タバコの煙をぼうっと眺める。
デヌッチは、幽体離脱から解放された如く、勝手にフラフラになりながら
話し出す。
「遠いところまで考え及びに行ってま入りました、、ハァハァ、
エルダス様の説明された流動性を持つ素材は、現代では”ナノマシン”を置いて
他に、思い浮かびません」
21世紀に開発された”ナノマシン”あまりの小ささに実用化には多大な困難が
あると聞いていた、開発者自信が”ナノマシン”をいつの間にか吸い込み死に至る
事故が多発して、研究は立ち止まっている。
「昔、同学にいた男が、ナノマシンにどこぞの博物館から盗んで
来た月のレゴリスを付着させ、実用の道筋をつけました」
『ナノマシンと月のレゴリス?』
「なんだその、おとぎ話のような響きの代物は」少々イラッとしながら
2本目のガラムに火を点ける。
「顕微鏡でも視認できない代物ですので、目印になるものを付けなければ
実用できなかったのです、いろんなモノを試したらしいのですが、軽くて光る
物質でとなると、なかなかブール星のものでは見つからず、その男はたまたま
訪れた、博物館の月の石を使ったところ、なんと暗部でもわずかな光でも反射する
月のレゴリスの特性が吉と出たらしいのです」
すごい剣幕で説明したデヌッチを見下しながら、アジス・アベバで見上げた、
”下弦の月”を思い浮かべた。
「そいつは今どこに所属してるのか?」
言われるまでも無く検索してるデヌッチ。
「……”ブーレ”のエチオピア分校にいますね」
「何!? 名前はなんという」
「イアン・マッスルです、私と同じ歳かな」
モニターに映った”イアン・マッスル”の写真に見入る。若かりしイアンの顔は
今の髭ズラとはかけ離れた、そこそこのイケメンだった。
「現在の年齢が32歳年齢詐称か?」
この男だ、、間違いない、口の臭そうな髭ズラのあの男だ。
”ブール国家連合”フィーツは僅かに合点がいく気がした。
この所の”ブーレ”の底知れぬ圧力は、静かに世界中に広まりつつあったものだから。
フィーツは、謎の高い壁で守られた”ブーレ”のプレッシャーを感じながら
どういう切り崩しをするか、3本目のガラムに火を付けた。
『今夜何処ぞで男を調達するか』と考えながら、甘い香りを舌先で転がした。
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