第4話【ブール国連学校 総長 ロン・坂本登場】


 ミクは時間が止まったかのように、部屋に入って来た、

”もの静かな男”に目を奪われる。

 幼等部時代から見慣れたはずの[ブー学総長]の姿。


 この人に幾度となく、励まされ、その都度、高い壁を超えて自分は生きて来た。

挫けそうな時、私は、、私たちは、、その都度、この人の残した言葉と、行いの数々

に背中を押されて今日の日を迎えてる。


 「ロン、、当たり前だが変わらないな、、、会いたかったぜ」

ドクは、余りにも気安く話しかけ歩み寄りロン・坂本とハグをした。


 「ドク、、オジさんになったね、、この前会ったのは、10年前かな、、」

いつも聴いていた、録音された声と同じだ。


  [ロン・坂本]とは、、

 西暦2201年に『第三次世界大戦』をすんでのところで止めた

「偉大な男」である。

 

 大戦を引き起こしかけた主な要因は、相も変わらずの石油の利権争いであった。


 地球の人口は100億人を越え、生活水準も北半球の先進国レベルが当たり前と

なり、人類はエネルギーの奪い合いの日々をおくっていた。


 そんな時代に、突如出現したのが、現在の”ブール星”の主エネルギー

”聴加力エネルギー”と奇跡の蓄電池 ”ラディックサー”であった。


 開発者は、ジャポネ国”シオン電力”所属の科学者「偉大な男」”ロン・坂本”

である。

 ロン・坂本は、ある日、研究用のカエルが鳴く瞬間、喉に光る光点を

見つけた。

 カエルの喉に張り付いた新種の微生物 ”ノイジール”が、カエルの鳴き声に

反応して、発光していたのである。


 神からの授かりものとの語句も過言では無い、この新しいエネルギーの生産も

採算ベースにのせ、桁外れの安価な”聴加力エネルギー”として

『第三次世界大戦』開戦間際、鮮やかに世界中へ喧伝、衝撃を走らせ

一瞬にして世論を味方に付けたのだ。


 石油産出国、原子力擁護の人々、老化した各国発電システム、これらに関係した

利権がらみの組織と人を排除。

”聴加力エネルギー”と、長年研究開発していた蓄電池”ラディックサー”と合わせて

人類の生活を根本から変える程の”エネルギー革命”を起こしたのだった。


 エネルギーの利権を一手に握ったロン・坂本、そして時流に乗るが如くロン・坂本

を擁護し革新を陰で後押しした『ボバディ・メディスン』の商人たちは攻勢に出る。


 193の国の政権党以外の人々を掌握、金を握らせ、国民投票にて、

地球を一つの国 ”連邦国家”となそうとしたものの、これは時期尚早に終わる。、、

共産圏(中華国)、、宗教国(中東国、インダス、南米国)の利権に,

なびかない者達の賛同は得れず、言わば、スケールダウンした形での、九カ国統

合”ブール革命”と相成った。


 ここで止まらない”ロン・坂本”と『ボバディ・メディスン』は、弱体化した

”国連”の体制に喝を入れる。

 秘密結社『ボバディ・メディスン』の財力を持って、”ブール国家連合”に科学力、

宇宙開発力、武力そして、これからの人類の未来を担う、子孫の教育機関

”ブール国連学校”=[ブー学]の規模拡大、現在生徒数約20万人、50年余りで、

のべ9千万人の卒家者を誕生させた、この”ロン・坂本”の遺伝子達は、世界各国に

散らばり、『ボバディ・メディスン』の細胞として蠢く、、人の教育により、

100年計画で”ブール星連邦国家” 誕生を目標にした。


 「どうだい? 召喚された感じは」


 ロン・坂本は答える。


 「浅い眠りから目覚めた感じかな、、」


 後ろに小さい少女”POP”が車椅子を押して入ってきた。


 「おお、、POP 久しぶりだな~~♫ ありがとな」


 ロンはPOP の頭を撫でて、その車椅子に座る、POPは相変わらず無表情だが、

どこか嬉しそうだ。


 「でも、みんなといつも一緒に語り合ってる感じはあります」


 ロン・坂本、西暦2177年生まれ、2201年”ブール革命”以後、

ブール暦2216年、39歳の春 ”ドーフ”緊急心停止病”発症。 

心臓が突然止まる奇病である。


 ある意味、烏合の衆『ボバディ・メディスン』の推し進める『ブール国家連合』

その中心であり、良心であり、心臓である”ロン・坂本”が病に倒れた。


 「わたしの親父も同じ病気で亡くなりましたから、いつ時限爆弾が爆発するか!?

という覚悟の元、時を重ねたのが、惑いなく生きれる事のありがたみと思い、

今も変わらず、それを心に刻んでます」


 ロンは、仲の良い両親の間に生まれた。優しかった母は、若くで亡くなり、

母の面影を心に残し、父と二人で生きていた。


 家業は拡大する人類のタンパク質を補う、昆虫やカエルなのどの缶詰工場経営で

あった、当時、余り人聞の良い職種ではなかったが、一生懸命生きていた。


 一緒に働く人達は、無差別テロの被害で両親を亡くした施設の子供たちだった、

ロンの父はそんな子供たちを、ロンと分け隔て無く面倒を見た、私財をはたいて

進学もさせた。ロンはそんな父を尊敬した。


 ”時代の日陰で、健気に、みんなで、生きていた。”


 父は早くから自分が”ドーフ”患者だと知っていたものだから、

愛情が深かったのかもしれない。


 『今年も、桜が綺麗だ~~♫ ロン、、花見だ、、みんな呼んでこいっv。』


 お酒を飲んで、『後、何度桜を愛でるかなぁ』と、父はよく言っていた。

 何かにつけて『ありがとう』と、感謝の言葉を言っていた。

 冗談が好きだったが、センスはイマイチで、余りウケなかった。

 よく笑う男だった。

 母をずっと好きだった。

 たまに叱る時は、声が大きく、みんな本気で怖がった。

 父は本気で相手の事を思って叱るので、しつこかった。

 しかし、父の生き様は、常に公平で真っ当で、、清々しかった。ので、

 皆に愛された。

 から、父の周りの人は、皆、笑顔だった。

 から、、そんな父の息子で、、、よかった。

 

 

 父の死後、ロンはもう”シオン電力”の研究室にいたから、父の缶詰工場を、父が

面倒みた子供達へ無償で譲った。

 彼らは、父の遺志も継ぎ、恵まれない子供達に救いの手を差し伸べた、

工場も、時代の波に乗りドンドン大きくなっていった。

 そこから派生する会社をいくつも起業し”ブール革命” 時、

『ボバディ・メディスン』の核となり、ロン・坂本を支持し支援するまでに

成長していた。


 ロン・坂本は、39歳の春、一度目の”時限爆弾”が爆発した、当時ユーロ国に

”ブー学No 34 ロシア州分校”の設立式にて、心配停止後、ブー学医療センターにて、

蘇生処置し生き延びる。現在もまだ、改善薬は開発に至っておらず、その当時の

”ブーレ” 幹部および『ボバディ・メディスン』との協議の結果、未来へ医学の

進歩を願い、そして ” マザーAI ”の基礎頭脳となるが為、人口凍結装置にて、

ブール暦2217年ロン・坂本を仮死状態とし次代へ委ねる事とした。

 

 ドクは、ロンの車椅子を部屋の中へ押しながら言った。


 「ロンが、マザーコンピューターのAIとして、脳みそ貸してくれてる

おかげで、”ブーレ”のコンピューターの人間味は、世界一だ、お前の人格が反映

される、俺らの”AI”は人類屈指の代物だ、ありがとな」


 「照れるな、、あの若かりし頃の無茶苦茶なドクに、そんな胸熱な言葉をかけられ

るとは、長生きするもんだなはっはっは。」


 カラッとした良い笑い声だと、ミクは思った。


 「お前さんの、病気が命を縮めないよう、今回の件、早急に対処するからな、

よろしく頼むな」


 「ああ、人類の危機だ、死ぬ覚悟はもう、60年前からできている、

ドク、、今回も、、諦めない。」


 二人はもう一度握手する。ロンはミクに顔を向け話しかけた。


 「ミク・三ツ沢くん、、いつも頑張ってるね」


 ミクは、いや、ミク達 ”ブーレ” のAIコンピューターを使う者達は、自分のコンピューター端末でいつも、ロンの意思の反映された電脳と会話をしている。 

たわいも無い会話から、日々の愚痴、人生相談など。


 その都度、”ロンAI ”は、どんな事柄にも肯定の道筋のヒントをくれた。

家族のいないミク達のいつもそばで、寄り添って、背中を押してくれた。


 「ありがとうございます。ずっとお会いしたかっあああ です」

つっかえながらも言葉にできた。

 「ハハハ、いつも話してるじゃ無いか、、わたしはいつも君たちのそばにいる

、ハハハ」

 「これからも、よろしくお願いします」


 こみ上げる、こみ上げてくる、多分、全身に鳥肌がたっている、

なんでもやれる、どんな高い山でも登れる気がする。

ドブ臭い川を真水に変えて、砂漠の国を緑豊かな場所へと導ける、


 どんな事もやり遂げれる力が、沸々と、、

 『湧き上がる。』


 ロンは全世界の”ブー学”生徒20万人の始業式にて、この”エチオピア分校”から

挨拶をした。

 毎年行われるこの式典で、この大役を預かるのは、西暦2217年に録画され

た”ロン・坂本”の映像であった。

 ミクも、もう幼少期の記憶がない数も含め、16回目にして

初めて、生の演説を耳にする。


 毎年聴いてた同じ言葉、同じ内容、だけれど、毎回、自分の気持ちを明日へ

向けてくれる”ロン・坂本”の言葉。



 「ブー学の学び舎で、時を重ねるみなさん、おはよう、こんにちは、こんばんは。


 また、新たな年の始まりです。

この新しい年に、皆さんはどんな夢を刻みますか?


 なんでも良い、あなたを支える、あなたの心を燃やすモノとの出会いを

追い求め続けてください。


 どんなに困難な壁にぶち当たっても、あなたの心を燃やすモノは、

あなたをその都度、蘇らせ、見果てぬ未来へと導いてくれるはずです。


 今、あなたは、あなた自身を好きですか?


 残念ながら、あなたは、あなたでしかないので、どんな回り道をしても

あなた自身を認めざるをえないのです。


 では、あなた自身の好きな所を、一つずつノートに書いて見ましょう。

もし今、一つも書けない人は、誰かに優しく、「おはよう」を言ってみましょう。

 相手が笑顔で、「おはよう」を返してくれたなら、少し誇らしくなった

自分に気づきます。

 そして、その時の自分の顔を鏡で見ましょう、いい顔をしてるはずです。


 一つずつ、一歩ずつ、満更でない自分と出会う努力をして行ってください。

 

 あなた方の心が、”笑顔”に出会えるその時まで、私たちは頑張ります。


 おはよう、こんにちは、こんばんわ、


 また新しい年に立ち向かう皆さんに

  

 幸アレ。


 ブール国連学校 総長 ロン・坂本」


 ロン・坂本は、深く深くコウベを垂れた。



 会場に拍手が鳴り響く、『いのち短し偉大な男』


 世界を包み込む男を、皆が”愛してる”。


 

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