第355話 毒の浄化

 

御姫様おひいさまたちが失礼しました』

『『 ひぃっ! カトレア!? 』』


 きっちりと着物を着た侍女頭の女性が三つ指をつき、縛られた双子姫の長い耳を容赦なく抓り上げる。


『ござぁぁああああ! 痛い痛い痛い!』

『おじゃぁああああ! 痛い痛い痛い!』

『それはよろしゅうございました。お客人の皆様。このバカ姫様とアホ姫様は回収させていただきます。お騒がせ致しました』

『『 ぎにゃぁぁあああああああ! 』』


 悲鳴を上げた姉妹は、耳を引っ張られて部屋を出ていきましたとさ。


 これがあの変態パラダイスの後に起こったこと。


 侍女頭のカトレアという女性。なかなかやりおる。

 彼女が現れた瞬間、変人姉妹が真っ青になったので、小さい頃からのお目付け役とか躾け係なんだろうな。

 それにしても、どっちがバカ姫でどっちがアホ姫なんだろう。とても気になる。

 俺の予想は姉のアイル殿下がバカ姫で、妹のアイラ殿下がアホ姫だ。機会があれば訊いてみよう。


 というわけで次の日。アイル殿下は《神樹祭》の準備があるということで別行動。俺は昨日会ったばかりのアイラ殿下と行動を共にしていた。

 浄化に向かう彼女に同行し、俺の方でもいろいろ調べてみようかなと思っている。主にビュティ先生にお任せであるが。


「到着したでおじゃる」


 動きやすいようミニスカート風にアレンジされた着物を着た幼女が地面に降り立った。

 この辺りの木々も葉が黄色く枯れ始めている。生物の気配も少ない。ここが毒の脅威が迫る最前線か。

 あちらこちらから感じる魔力は、樹国の人たちが24時間森を浄化している魔力だろう。


「以前よりも毒の汚染が早いですね。刺激臭がします。くちゃいです」


 同じく同行した嗅覚が鋭敏な獣人のシャルが顔をしかめて鼻を覆っている。

 俺には全然わからない。

 ちなみに、シャルの頭の上には、白銀の仔狼ハティがぐてぇ~と寝ている。真横には黄金のスコル。今日もシャルは超絶な緊張状態らしい。

 ウチの狼ズがごめんな。


『む? 近くに魔物の気配がしますね』

「ほ、本当ですか!? あ! 感じました!」

『少し運動してきますね、ご主人様。行きますよ、シャル』

「私がついて行くことは確定なんですねぇ~! 行ってきますぅ~!」

『れっつごぉ~……ぐぅ』


 うわぁ~ん、と泣きながら走り去ったフェンリルの獣人。俺たちは、いってらっしゃい、と見送るのみ。

 ウチの狼ズがごめんな。本当にごめんな。魔物の討伐は任せた。


「では、早速始めるでおじゃる! おじゃおじゃおじゃ~!」


 アイラ殿下が呼吸を整え、懐からオレンジ色の綺麗な扇子を取り出すと、折りたたんだまま振るい、可愛らしい掛け声と共に地面に巨大な魔法陣が描かれた。

 浄化の魔法陣である。しかも、これは独自に改良されたもの。

 ざっと目を通してみると、効果が高められた魔法のようだ。その分、魔力消費は増大しているはず。


「おじゃほい! おじゃほい! おじゃほっほい!」


 普通ならこの規模を一人で発動するのも難しいのに、扇子を振って可愛らしい独特な掛け声で、大魔法をいくつも連発するロリエルフ。

 さらに、


「おじゃおじゃる。魔法陣連結!」


 れ、連結だと!? なんだその技術は!?

 発動待機状態だった魔法陣が繋がっていき、極大になった一つの魔法陣が完成した。


「これよこれ! おじゃおほぉー! 魔法陣に魔力が、麿マロの魔力が注がれていくぅ~! 体から抜けていくぅ~! おじゃおほぉぉおおおおおおおおお!」


 自らの身体を抱きしめ、仰け反り、エロく悶え始めるロリ爆乳。爆乳が跳ねる跳ねる。

 外でこれはいいのか? 18禁顔になりそうだけど、止めなくていいのか?


「発・動! おじゃおほぉぉおおおおおおおおお!」


 極大魔法が発動し、浄化の力が爆発した。澄み渡った清浄な空気が広がっていく。

 俺たちがいる場所にも浄化の魔力が吹きつけてきて、魔力に当てられたアイラ殿下はひっくり返り、地面でピクピク痙攣し始めた。

 ……よし、18禁顔のロリエルフは無視しよう!


「堪らないのぉぉぉおおおおお! 魔法魔法魔法魔法魔法! マホー! おじゃおっほぉぉおおおおおおおおお!」

「すごい威力ですね」

「リリアーネもスルースキルが鍛えられてきたようだな」

「ふふふ。何のことですか?」


 ついてきたリリアーネがニッコリ笑顔。地面のロリには一瞥すらしない。

 さてと、アイラ殿下が倒れているので、俺の方も出来ることをしてみよう。


「ビュティ召喚!」

「……おぉー? なに?」


 白衣を着たポワポワ幼女の登場である。

 事前に説明しておいたんだが、忘れてしまったのかい?

 ビュティは周囲を見渡し、半開きの瞼がクワッと見開かれた。


「調査と試料サンプルの採取に行ってくる!」


 珍しく積極的に動き、瞬時に消え去る研究者。

 彼女に任せていたら大丈夫……のはず。彼女には毒は効かない。頼んだぞー。


「おじゃおほっ! 快感でおじゃった……!」


 まだ僅かにビクッと震えたロリっ子が起き上がった。危険な色香がプンプンする。

 アイラ殿下はヒョイッと立ち上がり、スタスタと歩き始める。


「次の場所へ行くでおじゃるよ」

「え? 魔力は大丈夫なのか!? エルフは種族的に魔力が多いけれど、今の一発は相当な魔力量だったぞ!」

麿マロを見くびるのはやめてたもれ。麿マロは魔法大好き『魔法狂いまほうフリーク』! これくらい造作もないでおじゃる!」

「ご主人様。彼女は魔力過多症だと思われます。彼女の成長が遅いのも、強大過ぎる魔力ゆえかと」


 答えになっていない『魔法狂いまほうフリーク』の横から、ケレナが説明してくれた。

 なるほど。魔力過多症か。それならば極大魔法を連発できる。


 魔力過多症は体内で生成される魔力が人よりも多く早い。生まれつきの病気のようなものだ。対義語は魔力欠乏症。


 多すぎる魔力は宿主を害する。許容量を超える魔力は様々な影響を与え、溜まりに溜まった魔力は、時として爆発する。周囲を巻き込んで自爆してしまうのだ。


 解決法は二つ。魔力を発散すること。もしくは、身体の鍛えて魔力の許容量を生成量まで引き上げること。後者は未だ理論上の解決法だという。


 アイラ殿下は、魔力を発散させるために魔法を学び、そして魔法にのめり込んで『魔法狂いまほうフリーク』になったのかもしれないな。


「まだまだこれからでおじゃる!」


 ふんす、と意気込んだ『魔法狂いまほうフリーク』がご機嫌に歌を歌う。


「まっほう、まっほう、まっほまっほまっほう~!」


 今の彼女は見た目相応で可愛らしいのに、一度スイッチが入ると何故変態化するんだ……。

 この場にいた全員(変態世界樹を除く)が俺と同じ事を思ったに違いない。




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