第354話 変態追加

 

※変態特別警報を発令します。


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 御開帳エルフが鼻からぶっ放した大量出血により、どこの殺人現場だ、という浴室になったので、早々に血を流し、みんな身体を洗って、現在は部屋に戻って涼んでいる。

 お風呂上がりの浴衣姿の女性は美しい。畳や敷布団など、樹国特有の趣のある文化にとても似合っている。


「で、なんでいるの?」


 さも当然のことのように部屋に入り浸っている白と黒のエルフが二人。

 白い肌の姉アイル殿下と褐色肌のロリ爆乳の妹アイラ殿下である。二人は双子の118歳らしいが、二卵性双生児という。


「拙者は世界樹様の巫女ゆえ、ありとあらゆるお世話をさせていただきたく……おほぉ……」

「そのまま横になってろ」

「いやしかし……おほぉ……」


 今日一日何度も鼻血を噴出させ、お風呂の出血でトドメとなったアイル殿下は、貧血で顔が真っ青。座っても頭がフラフラしていたので、半ば強制的に寝かせている。


「折角の世界樹様とのお風呂がぁ……拙者の血で汚してしまったぁ……」


 悔しさで血の涙を流す世界樹の巫女。ただでさえ少ない血液をまた流している。


「次は全身の血を抜いてご一緒するでござる……そうすれば、血で汚すこともないでござるよ……」

「死ぬから。絶対にやめてくれ。そんな発想が出てくるなんて怖すぎる。これだから狂信者は」

「おほっ。照れるでござるよ。狂信なんて褒めないでくだされ」

「いや、褒めてないし」

「おほっ! 脳裏に世界樹様の玉体が……おほっ! また鼻血が……」

「巫女よ。大丈夫ですか?」

「はっ! 大丈夫でござる! 元気いっぱいでござるよ、世界樹様!」


 鼻血をダラダラ流しながら飛び起き、フラ~っとぶっ倒れる。


「おほっ……湯船に浸かった世界樹様が見える……なんと! 拙者に手を振って!? ありがたやぁ~! おほぉ……あぁ、あのお湯を浴びたい。あのお湯に浸かりたい。あのお湯を飲みたいでござるぅ……飲ませて下されぇ……」


 とうとう幻覚まで見えてしまったようだ。血を流しすぎてあの世との境にまで行っているのかもしれない。それにしても幻覚と願望が変態的だ。

 まあ、『世界樹狂いせかいじゅフリーク』がこれくらいで死ぬわけがないから、変人のお世話は変態に任せておく。

 そんな姉を枕にしているのが妹のアイラ殿下。小柄な身体には不釣り合いな爆乳が重力に逆らって、浴衣の下から猛アピールをしている。なんという張りなのだろう。


「今日も疲れたでおじゃる……やはり姉上枕は丁度いいのぉ~」

「ぐえぇ……」


 仲が良いのか悪いのか。喧嘩するほど仲が良いとも言うか。


「アイラ殿下はなんでそんなに疲れているんだ?」


 もう敬語とか礼儀とかどうでもいいや。目の前に客人に断りもなく部屋に入り浸り、浴衣をはだけさせて寝ている姉妹もいるし。


麿マロかのぉ? 最近は朝から夜まで毎日一日中大地や森の浄化をしているのでおじゃる」


 なるほど。だから長老会議にも出席していなかったのか。


「膨大な魔力を籠めて発動させる極大魔法! 全身から魔力が抜ける気持ちよさ! ぶっ放すあの快感! 発動後の魔力の嵐! たまらないのぉ~! 思い出すだけで感じるでおじゃるぅ~! おじゃおほっ!」


 うっとりと頬を朱に染めて、ピクピク痙攣するロリ。

 あ、ダメな奴だ。この妹も変人だ。

 経験から培われた変人変態センサーがビンビンに反応している。計測限界を突破した。

 そう言えば、妹の方は『魔法狂いまほうフリーク』と聞いた覚えがある。


「シーランは魔法が得意でおじゃるか?」


 シ、シーラン?


「お風呂での魔法。発動速度が麿マロと同等以上。魔法の選択も正しい。麿マロが求めていた逸材! おじゃおほっ!」


 ゾクゾクッ! 全身に悪寒が駆け抜けた。

 ギラリとオリーブグリーンの橄欖石ペリドットの瞳が光った気がする。


「おじゃるダーイブッ!」


 スポーンと浴衣を脱ぎ捨てダイブしてくる変人。

 バインバインッと爆乳が揺れる揺れる。

 貞操の危機を感じた俺は、咄嗟に風の魔法を放った。


「く、来るなぁ~!」

「おじゃおほぉぉおおおおおおおおおっ!」


 突風によって吹き飛んだロリは、快感のような悲鳴を上げて壁に叩きつけられた。しかし、胸によって衝撃が吸収され、バインッと弾かれ床に落ちる。

 な、何という胸の弾力。俺は思わず戦慄した。


「おじゃおほっ! 魔法! 魔法魔法魔法! 堪らん! 堪らないでおじゃるぅぅううううう! 麿マロの全身にそちの魔法を浴びせてたもれぇ~!」

「この『魔法狂いまほうフリーク』め!」


 ハァハァしながら血走った瞳で迫ってくる変態。口から垂れた涎が胸に垂れている。

 もはやホラー映像! ゾンビに似ている!


「あぁ! ズルイです! ご主人様! この家畜にも魔法をぶつけてください! いつでも準備万端です!」

「おほっ? 拙者も世界樹様と同じ経験をしたいでござる! ぜひ拙者にも!」

「それは素晴らしい心意気です! さすが我が巫女! ご主人様の甘美なご褒美を賜り、同志に、いえ家畜姉妹になりましょう!」

「家畜……姉妹? 世界樹様と? お、おほぉぉおおおおおおおおお!」

「おいコラ変態! 変な勧誘をするな! そして喜ぶな!」


 ズビシッと圧縮空気弾を二人の額へと思わず放ってしまった。ご褒美になるだけなのに……。


「「 おほっ! ありがとうございましゅっ! 」」

「くっ! 変態が増えやがった……」

「おじゃおほぉぉおおおおおおおおお! 惚れ惚れする魔法発動速度! 狙いも正確で、威力も相手のことを考えられたお仕置き用の魔法でおじゃる! 素晴らしい! 麿マロにも経験させてたもぉ~!」

「ご主人様! この子もドМの素質がありそうです! ぜひこの子にも!」

「だから変態を増やそうとするな!」


 癖でケレナに魔法を放つ。今度は冷水の球だ、

 迫りくる水の球を顔面で受け止めようと恍惚とした表情で待機する変態ケレナ

 しかし、球の軌道上に割り込む影が――


「おじゃおほぉぉおおおおおおおおおっ! 冷たい! これよこれぇぇええええ! 魔法魔法魔法ぉぉおおおおおおお! 感じるでおじゃるぅぅうううううう!」

「あっ! あぁ~っ! わ、私のお仕置きがぁ~! お仕置きが寝取られましたぁぁああああ!」


 お仕置きが寝取られるってどういうことだよ。

 ケレナはショックを受けて泣きそうで、小刻みに身体を震わせ……ん?


「ご主人様からのお仕置きがぁ……。ご褒美を奪われる悔しさと虚しさ。そして羨ましさ! それらが複雑に絡み合い、これはこれで気持ちいいかもぉ~! おほっ! 新たな世界の扉が開k」

「閉じろ!」

「おほぉんっ!」


 危ない危ない。変態がまた覚醒してしまうところだった。これ以上属性を増やされたら大変困る。どう扱えばわからなくなる。


「ご主人様……甘美なお仕置きを……!」

「シーラン……魔法を、魔法を麿マロの全身に……!」

「家畜姉妹家畜姉妹家畜姉妹家畜姉妹! 世界樹様と家畜姉妹!」


 恍惚とした世界樹が、瞳を血走らせた魔法狂いが、貧血で真っ青の顔で狂った様子で呟く世界樹狂いが、畳の上を這ってゾンビのように迫ってくる。


「リリアーネ! 助け……って、いないっ!?」


 部屋の中にいたはずのリリアーネの姿はどこにもなかった。

 変態ワールドに巻き込まれる前に、気配を殺して一人だけ逃げ出したらしい。

 くっ! 羨ましい! 俺も一緒に逃げたかった!


「殿下!」

「叫び声がしたわよ!」


 その時、勢いよく襖を開け放ってランタナとジャスミンをはじめとする近衛騎士たちが乗り込んできた。救世主!


「良いところに! た、助けて……」


 バタンッ!


「あれ?」


 真顔で襖を閉められた。

 え? なんで? なんで助けてくれないの! 変態から助けてくれよぉ~!


「くっ! 襖が開かない!? 誰だ押さえている奴は! 開けろ! ここを開けろぉ~!」

「甘美な痛み甘美な痛み甘美な痛み甘美な痛み甘美な痛み甘美な痛み」

「魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法」

「家畜姉妹家畜姉妹家畜姉妹家畜姉妹家畜姉妹家畜姉妹家畜姉妹家畜姉妹」

「ひぃっ!?」


 変態が手を伸ばせば俺の服に……こうなったら!


「お仕置き用緊縛縄!」

「「「 おほっ!? 」」」


 最終手段を投入。変態三人の身体を縄で捕らえ、雁字搦めに縛り上げていく。

 絶対に動けないように。絶対に抜け出せないように。絶対に解けないように……。手足は特に念入りに。


「おほぉぉおおおお! 緊縛プレイ! ありがとうございますっ! もう少し強く締め上げてもいいですよ。肌に縄の跡が残るくらいにお願いします!」

「こんなもの魔法で……おじゃ? 魔法が発動できぬ! 魔法を封じる魔法が縄に施されているでおじゃるぅぅううう! ならば! 魔法を封じる魔法を封じる魔法で……おじゃおほっ!? 魔法を封じる魔法を封じる魔法を封じる魔法が仕掛けられているでおじゃるっ!?」

「こ、これで世界樹様と家畜姉妹になれるでござる……おほぉぉおおおお! 今までにない快感がぁ~! おっほほぉぉぉおおおおおお!」


 ……これ、どうすればいい? もう手に負えない。







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作者も手に負えない……。

反省はしていない。だが、後悔はしている!

作者の頭の中で変態が暴走するのが悪いと思う。

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