第353話 御開帳エルフ

 

 薄暗い部屋の中で、一人の人物がその場を行ったり来たりしていた。


「いい……実にいい。これ以上ない人物です。フフフ……」


 独り言を呟きながら、策謀を企てる実にあくどい笑みを浮かべている。

 部屋にはもう一人いた。床に座り、目の前の人物に怯え、恐怖で体を縮ませている。しかし、何とか意見を述べようと口を開きかけるも、キッと睨まれて口をつぐむ。


「何か言いたいのですか?」

「…………」


 フルフルと首を横に振るだけ。彼女は逆らえない。

 暗闇の中、歩いていた人物は立ち止まり、座る彼女を睥睨した。


「いいですか? 狙うのならお風呂や寝室です。多少親しい人がいたほうが相手の警戒が緩むでしょう。その時を狙いなさい。失敗は許しません」


 語られるのは綿密に練られた襲撃計画。

 実に恐ろしい計画が実行されようとしていた。


「これは命令です。必ず堕としなさい」

「…………」


 逆らえない彼女は静かに頷くことしかできない。エルフ特有の特徴的な長い耳が拒否したいと言いたげにピクリと動いた。


「フフ……フフフフ……アーッハッハッハ!」


 計画犯の不気味な笑い声が薄暗い部屋の中に響き渡る。



 ▼▼▼



 変人の多い長老会議から抜け出し、別室で待機していたリリアーネや近衛騎士団たちと合流。準備された客室でくつろぎ、精神的疲労を愛しい彼女たちに癒してもらった。

 あの変人変態空間は非常に疲れた……。変態の一人は身内ですけれども。

 ユグシール樹国は緊急事態中のため、俺たちの訪問を歓迎する晩餐会は行われない。そんな余裕はないのだ。樹王陛下たちは忙しすぎて決まった時間に食事をとることもできないのだろう。

 俺としても堅苦しい食事は好きではないからありがたい。

 あと、ストレスに弱い胃痛持ちの樹王陛下は晩餐会は嫌いに違いない。


「あ゛ぁ~……癒されるぅ~」


 身体の芯まで温まるお湯に浸かって、俺は間抜けな声を洩らす。

 現在、俺たちはお風呂に入っていた。

 切り株の中の城。王族も使用するプライベートな浴場を特別に自由に入る許可を貰ったのだ。

 全面木で覆われ、実に良い香りが充満している。森の中にいるようだ。

 腐らないのか、とケレナに問いかけてみると、笑顔で防腐処理をしていますからと返ってきた。


「明るくて素敵ですね。木々の優しい明るさです。風情があると言うのでしょうか?」


 そうだなぁ。風情がある。いつもよりも明るいからリリアーネさんの裸がよく見えるのだ。実に似合っている。眼福だ。

 濡れた黒髪を結い上げてうなじがエロいし、裸体の曲線は言葉では言い表せないくらい綺麗だし、きめ細やかな肌を透明な水滴がツゥーッと伝うのから目が離せない。

 透明なお湯を肩にかける仕草とか、男心に突き刺さる。

 あ、水滴が胸の谷間に落ちていった。水滴が羨ましいぞ!


「私、ここに居ていいのかしら?」

「なんだジャスミン。一緒にお風呂は嫌だったか?」

「嫌じゃないんだけど……ほら、今回私、仕事で来てるじゃない? なのにこうやってシランたちとのんびりしててもいいのかなぁって」

「順番で休憩なんだろ? 気にすんな。休むのも仕事の内だ」

「それはそうだけど……ブクブクブク」


 え、なにそれ可愛い。口元まで浸かって泡をブクブクさせるなんてギャップ萌えだ!

 そのままスーッと近寄ってきたジャスミンは、俺にピトッとくっついてきた。

 素肌同士の触れ合いは気持ちいい。お湯で濡れてツルッヌルッとするのが素晴らしいでござる。

 おっと。つい語尾がアイル殿下になってしまった。


「まあ、ランタナもいるから」

「何故私はここにいるんでしょうか……」


 裸でお湯に浸かりながら、現実逃避気味にどこか遠くを見つめるランタナさん。

 火照った肌に潤んだ琥珀アンバーの瞳。女性って濡れるだけで数倍美しくなるよね。何故だろう?

 というかランタナ。浴室にまでついてきた君に半分冗談で『ランタナもどうだ?』と誘ったら、ため息をついて服を脱ぎだしたじゃないか。

 断ることもできたのに一緒にお風呂に入ったのは、自分の意志によるものだと俺は判断するぞ。

 腕と手で胸と股を隠している美女……ありがとうございます! 逆にエロい! 恥じらいが良い!

 俺、生きててよかった……男に生まれてよかった……。


「水分補給も忘れないでくださいね」

「ありがとうケレナ」


 作り出した果実にストローを突き刺した状態で手渡される。

 中身は冷えた果汁100%ジュース。とても美味しい。


「あぁー美味しい」

「いつもありがとうございます、ケレナさん」

「これはまさか世界樹の果実!? ……なんでしょう。慣れてきた自分がいます」


 ランタナ。そのまま慣れてしまえ。楽になるぞ。

 ケレナが作り出す果実は全て世界樹の果実だからな。


「ご主人様! この忠実なる家畜めにお背中を流させてくださいませ!」

「じゃあ、お願いしようかな」

「ありがたき幸せ!」

「あ、隊長! 私が背中を流しますね!」

「私にも流させてください。お世話になっておりますので」

「ジャスミン様!? リリアーネ様!?」


 ランタナは両腕を取られ、連行されていく。

 露わになったたわわな二つの果実に、未だ誰も到達したことが無い秘密の花園。そして、柔らかそうなプリッとした桃。

 うぐっ! 野生の獣が表に出てきてしまいそうだ。

 理性を総動員させたその時、ガラガラッと扉が開く音が聞こえ、誰かが浴室に入ってきた。


「おじゃー。今日も疲れたのぉー」


 ピチャピチャと足音を響かせながら入ってきたのは、タオルを肩にかけた小柄な少女だった。

 身長は140センチないくらい。肌は褐色肌。特徴的な長い耳。綺麗な緑色の髪に、瞳は透き通ったオリーブグリーンの橄欖石ペリドット


「おじゃ? そなたたちは誰かのぉ?」


 先に入っていた俺たちに気づいてコテンと首をかしげるその姿は、幼い少女そのもの。

 しかし、小柄な体躯には不釣り合いな二つの物をお持ちでいらっしゃる。

 少し身動きをするだけでバインバインと弾む胸。

 巨乳ではない。爆乳である。

 この大きさはヴァルヴォッセ帝国のビリアや、使い魔の中で一番の巨乳であるマグリコットやカラムに匹敵する大きさだ。

 ロリ巨乳。いや、ロリ爆乳。

 アンバランスさが危険な背徳感を感じさせる……。

 隠されていない褐色の胸の頂点に存在する薄ピンク色のポッチ。秘密の花園は小柄な見た目通りなだらかな丘だけで――


「《ミスト》ォォオオー!」


 犯罪者になる前に、俺は魔法を発動させた。浴室が視界ゼロメートルの濃密な霧に覆われる。

 もう既に手遅れ? はっはっは。何のことだい?


「なんと! これは魔法か! 麿マロに魔法を挑むとは良い度胸でおじゃる! 《ウィンド》!」


 ちょっ! 挑んだ覚えはないんだけど!

 放たれた風の魔法が霧を吹き飛ばそうとする……が、残念ながら浴室はそう簡単に空気は入れ替わらない。


「おじゃ!? ならばこれでおじゃる! 《氷製造アイス・クリエイト》!」


 少女の手の辺りがキラリと輝き、急速に霧が収まっていく。

 不味い! 湿気を吸われている! 彼女は霧の水滴を利用して氷を作り出しているのだ。

 勝ち誇った全裸の幼女の姿が一瞬露わになる。


「《熱風ブラスト》!」

「ぬぅおっ!?」


 生成された氷に熱風を当て、一気に気化。蒸気が視界を覆い尽くす。

 浴室がサウナになった。暑苦しい。

 個体が気体になった衝撃で、ペチャリと幼女が尻もちをつく音がした。怪我はしていないといいけど。


「あ、暑いでおじゃるぅ……」

「ご、ごめん!」


 急いで室温を下げるとニヤリと笑った幼女がいた。彼女の周囲には水たまり。俺が室温を下げている間に、彼女は空気中の湿気を取り除いていたらしい。

 ちっ! しまった! 騙された!


「ダ、ダメェ!」

「いけません!」

「見てはダメです!」


 左右にジャスミンとリリアーネが勢いよく俺に飛びついてきて、背後にはランタナが抱きついてくる。胸を押し当てていることに全く気付いていない美女たちは、慌てて俺の視界を塞ごうと手で覆ってきた。

 しかし、微妙に位置がズレている。

 彼女たちが焦って隠そうとしたもの。それは、床で尻もちをついた幼女――М字開脚で大事な部分が丸見えになった姿だった。

 チャポンと天井から垂れた水滴が湯船の中に落ちる。


 ガラガラッ!


「どーもどーも! 母上にお風呂や寝室に突撃して裸のお付き合いをし、既成事実を作るよう脅迫……ではなく、命令……でもなく、拙者が自発的に仲を深めにやって来たでござるよー! シラン殿! 世界樹様! 是非ともお背中を……って何事でござる?」


 バスタオルを巻いてやって来た残念エルフ美女が翠玉エメラルドの瞳をパチクリと瞬かせた。


「んんっ? アイラ? なぜ駄肉をぶら下げた愚妹がここに……っておほぉぉおおおおおおおおおっ! おっほほぉぉぉおおおおおおっ! 一糸まとわぬ世界樹様の玉体! 尊い!」


 入り口に背中を向けていたケレナがゆっくりと振り返る。

世界樹狂いせかいじゅフリーク』の世界樹の巫女は、ブシャッと鼻血を噴き出して背後に倒れた。


「ほ、本当にうなじと左肩甲骨と腰に小さなホクロがあったでござるぅぅぅううううう! 腰のホクロは三つ並んでいたでござるぅぅううううううっ! あぁ、胸にもホクロが……尊死ッ!」


 昇天したエルフは倒れる途中でタオルがはだけ、大量出血で浴室を真っ赤に染め上げた。

 さらには、足を大きく開いて御開帳。

 浴室に、大事な部分をさらけ出す裸のエルフがもう一人追加された。

 あまりに予想外の展開に一同が固まる中、俺はそっと自ら目を閉じるのであった。













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作者「ロリ爆乳枠の妹褐色エルフ登場! 一人称と口調は『おじゃる〇』!?」

全員「また癖の強い……」

作者「それにしてもランタナさん。お風呂シーンが多いですね。実に良いですよ! もっと脱ぎましょう!」

琥珀「お断りします」

作者「お風呂=ランタナなので悪しからず。お風呂枠なので必ず脱がせます」

琥珀「お風呂枠!? そんなの聞いていません!? 騎士枠ではないのですか!」

作者「あ、補足です。今回の話の冒頭部分は、人形製造者の暗躍ではなく、永遠の二十歳の母親と狂った変人の娘です。誰かさんが突撃する前のシーンでした。騙されました? さてと、そろそろシランを通報しようかな……あ、あれぇ!? 何故作者を!? ロリの裸はアウト? いやいやいや! 彼女、118歳だから! た、助けてくれぇ~! 無実だ! 無罪だぁぁあああああ!」


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