第286話 借り

 

 俺がいるにもかかわらず、恥じらいもなくあっさりと服を脱ぎ捨てるブーゲンビリア元帥。

 何故彼女は堂々としているのだろう? 何故彼女は男湯に入ってきているのだろう?

 謎だ。だから聞いてみるしかない。


「あの~?」

「なんだ? 王国のシラン王子だったか?」

「シランであってますよ。ブーゲンビリア元帥閣下は何故ここに? ここは男湯なんですけど」

「女湯の魔道具が壊れたらしくて男湯に入るよう言われたからだが? 訓練場を使用することも、そのあと男湯で汗を流すこともちゃんと許可は取ってあるぞ」


 な、なんだってぇー!? 女湯の魔道具が壊れてるだってぇー!?

 何故このタイミングで壊れているんだ。ブーゲンビリア元帥が入る予定だったからこの辺りには誰も近づかなかったのか。

 素直に自分の部屋の風呂に入ればよかったかも。


「別にワタシに敬語を使う必要はないぞ。名前もビリアと呼び捨てで呼んでくれ。皆はワタシをビリアと呼ぶ」

「わかりま……わかった。俺もシランでいい」

「助かる。すまんな、ワタシは敬語が苦手なのだ。こういう性格だしな」


 男勝りなサバサバした性格。気を遣わなくて良い雰囲気だから本音で付き合えそう。

 しかし、彼女と一緒にお風呂に入るわけにはいかない。ビリアは帝国の元帥であり皇女だ。国際問題に発展してしまう。


「……待て、シランよ。何故服を着る?」

「いやいや! 一緒に風呂は不味いでしょ!」

ワタシは気にしないが?」

「俺が気にするんだよ!」

「ふむ。見たければワタシの裸など好きに見ればいい。触れたらどうなるか分からんがな」


 ふふっと不敵に微笑むビリア。美しい笑いなのに恐ろしい。

 触ったら殴られるか蹴られる、もしくは、灼熱の体温で消し炭になるだろう。

 絶対に触れません! 俺はまだ死にたくない!


「少し話相手が欲しかったところだ。共に風呂に入ろうぞ!」


 あぁー絶対に逃さないつもりですね、この目は。そういう肉食獣の瞳をしている。

 仕方がない。一緒に入ればいいんだろ! 国際問題なんか知ったことか! バレたらビリアのせいにして父上に丸投げしてやる!

 諦めた俺を察して、ビリアは満足げに頷きながらズボンを脱ぎ捨てた。

 恥じらいも躊躇いも一切ない。スッと脱いだ。

 肉付きの良い綺麗な足だこと。筋肉質かと思いきや、普通の女性の足だ。

 この足で猛スピードで駆け回ったり踏ん張ったりしているとは思えないほど美しい。

 次に、彼女は上半身に巻かれた布に手をかけた。

 サラシだ。ギチギチに巻かれた晒が緩まる。


「ふぅ……!」

「なっ!?」


 俺は思わず変な声をあげて絶句した。

 晒が緩んだ瞬間、解放された力によって晒の布が弾け飛ぶように解けたのだ。


「おぉ……!」


 男の俺は、ダメだと思いつつも思わず彼女に見惚れてしまう。

 服を着ている時は普通くらいの胸だと思っていたのだが、実際露わになったのは巨大な質量を持つ美しい胸だ。胸の弾力が晒を弾き飛ばしたらしい。


 ―――バインッ! バインッ!


 俺は双丘が自由になった瞬間、確かにこんな音を聞いた気がする。

 ビリアは圧倒的な巨乳、いや爆乳の持ち主だった。しかし、彼女の長身が胸を小さく見せている。

 高身長と爆乳のバランスが丁度いいのだ。

 大きい胸は決して重力に引かれて垂れ下がっているわけではない。逆に重力に逆らっている。

 形は美しく、晒の解放時に柔らかさと弾力は保証されている。ツンっとしていることから張りも十分のはず。

 大きな胸のわりに小さなピンク色のポッチが可愛い。

 あぁーそう言えばアルスが言っていたな。ビリア元帥は普段晒を巻いていて、実は爆乳だと。その後アルスの美乳に襲われたことまで思い出した。

 なるほど。これは確かに爆乳だ。


「いつまで惚けている? 早く風呂に入るぞ」

「は、はいっ!」


 いつの間にか全裸だったビリア。思わず敬語で返事をした俺も服を全て脱ぐ。

 まったく隠そうとしない彼女のお尻が視界に入りつつ、まずは身体の汗や土を流す。


「ふぅー気持ちいいな!」


 頭からシャワーを浴び続ける彼女はとても気持ちよさそう。


「これ使うか? 備え付けのアメニティよりも効果が高いぞ。俺が保証する」

「ほう? ありがたく使わせてもらおう。実は用意されていた王国のアメニティを密かに気に入っていたのだ」


 強さを求める戦闘狂でもやはり女性らしい。俺が渡したシャンプーやリンスなどのアメニティを嬉しそうに使う。お土産に渡すのもいいかもしれない。

 身体を洗い終えて上機嫌になったビリア。俺もちょうど洗い終わり浴槽に向かう。

 しかし、美しい体だよなぁ。傷痕一つない。《龍殺しゲオルギウス》の強靭な肌が傷つかないのだろう。傷ついたとしても少しの傷なら再生してしまうはず。

 筋肉質ではなく雌豹のようにしなやかな身体付き。抜群のプロポーション。肌に浮かび、伝い落ちる透明な雫が何と艶めかしいことか。

 俺は彼女の背後にいるのだが、前を歩く少し大きめの形の良いお尻がプリプリ動くのがエロい。股から肉付きのよい太ももへ流れる赤い鮮血も…………って、赤い血?


「ビリア! 血が出てるぞ!」

「どこだ?」

「股!」


 ビリアは自分の股を触って手にべっとりついた血を冷静に眺める。前屈みになって直に確認。


「ふむ。本当だな」

「いや、少しは慌てろよ! 冷静すぎだ!」


 パニックに陥るよりは冷静でいてくれた方がありがたいけど。


「傷口はない。血が出ているのは……膣か? となると月経か? いやしかし、その日には早い」


 いろいろと口走っているが、女性なんだから恥じらいを持ってください。月経とかはとても大切なことですけれども!


「内臓でも傷つけたかもしれないな。身体の再生力に任せるか」

「いやいや! 危険でしょ! 治癒魔法なら俺が使える。身体を見せてくれ」

「良かろう。頼んだぞ、シラン」


 膝をつき、目線を彼女のお腹に合わせる。

 …………って、股を広げて見せなくていいから! 秘密の花園が全部見えちゃうから!

 煩悩退散、煩悩退散!


「お腹に触るぞ」

「いいぞ」


 許可を取らないと怖い。触れたらどうなるかわからない、と脅されたばかりだから。

 ちゃんと許可を取ったため、無駄な脂肪がないお腹に触れる。

 魔法を発動させ、ビリアの体内を探った。

 驚きの結果に呆れてしまう。


「……あのな、子宮が破裂してるぞ。他の臓器も傷ついてる。よくこれで動けたな」

「先ほど強き者と戦ったせいだろう。強烈な蹴りを腹にもらったのだ。道理で先ほどから腹が痛かったのか! アッハッハ!」


 まったく笑い事じゃない! 悪ければ死ぬぞ! 超重傷だぞ!

 そして、怪我の原因は俺。ビリアの予想通り、あまり手加減しなかったあの蹴りのせいだ。女性のお腹を蹴りつけたのは不味かったな。反省します。


「一つ聞く。妊娠していたか?」

「してるわけがなかろう? ワタシは生娘だ。しかし、ちと困ったな。子供を産めぬのは不味い」


 ビリアは皇女だもんな。子孫を残すことは皇族の義務でもある。

 この怪我は俺が原因なので、俺が責任をもって治そう。というか、今治療しなければビリアの命に関わる。

 《龍殺しゲオルギウス》の肉体は頑丈な代わりに痛みに鈍いのか?

 今はそんなことはどうでもいい。

 治癒魔法を発動させ、ビリアの損傷した子宮を治療する。その他傷ついていた腸などの内臓も全て治療。あっさりと完治した。


「治ったぞ」

「そのようだな。痛みが消えた」


 ビリアはお腹をナデナデ。そして、面白そうに笑う。


「シランは女好きの無能王子ではなかったか。破裂した内臓の治癒などどれほど高度な魔法だと思っている? ワタシは馬鹿ではないぞ」

「あっ……」

「ふふっ。なるほど。その様子だとわざと無能を演じているのか」


 バ、バレちゃったぁー。しかし、後悔はない。こうでもしないとビリアは死んでしまった可能性が高い。助かったとしても傷ついた子宮の再生は絶望的だった。


「このことは……」

「わかっている。誰にも話さないと誓おう。いや、全て忘れよう。シランはワタシの大切なところを至近距離でじっくりと眺めていただけ。そうだな?」

「それはそれでいろいろと不味いんだが」


 くくく、とひとしきり楽しそうに笑ったビリア。

 どうやら冗談を言って俺を揶揄っただけらしい。意外と茶目っ気がある。

 唐突に真剣になったビリアは直立不動となって帝国式の敬礼をする。爆乳がバインと弾む。


「シランよ。怪我を治していただき感謝する。貴殿には借りができた。シランが助けを必要とした時、ワタシ、ブーゲンビリア・ヴァルヴォッセは力になろう。この恩をワタシが返しきったと判断するその時まで―――」


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