第155話 手料理

 

 ピクニックデートに来ていた俺とリリアーネ。

 お腹が減った。そろそろお昼ご飯の時間だ。

 起き上がろうかと思った時、どこからかグルグルと可愛らしいお腹の音が聞こえてきた。

 俺ではない。ということは、お隣のリリアーネのものだろう。

 リリアーネはパッとお腹を押さえ、顔を爆発的に赤らめる。可愛らしい表情だ。


「可愛い音だったな」

「っ!? もう! そこは黙っておくものです!」

「恥ずかしがるリリアーネも可愛い」

「うぅ~!」


 なんだこの可愛い生き物は! 唸り声を上げてポコポコ叩いてくるんですけどっ!?

 ゆっくりと起き上がったリリアーネは拗ねた様子でぷいっと顔を逸らした。少し頬が膨れている。

 頬をツンツンしたら、もっとぷくーっと膨れた。

 恥ずかしがって拗ねるリリアーネだが、お腹は正直だ。再びグルグルと可愛らしい音が鳴る。


「うっ!」

「ご飯、食べるか」

「そうします…うぅ…」


 恨みがましく両手で押さえた自分のお腹を睨んだリリアーネは、赤い顔のままいそいそとご飯の準備を始めた。

 持って来たバスケットを開けると、中には美味しそうなサンドウィッチが詰められていた。俺もお腹が鳴りそう。

 水筒からお茶も注いてくれ、昼食の準備が整った。


「「 いただきます 」」


 サンドウィッチを手に取り、パクリと頬張る。

 おぉ! とても美味しい。ハムにチーズにレタス。絶妙にマッチしている。

 でも、いつも食べてる味とは違う。もしかして…。

 不安と期待を入り混じらせ、サンドウィッチを食べることなく、じーっと俺を観察していたリリアーネに問いかけてみる。


「もしかして、リリアーネの手作りか?」

「はい。お味のほうはどうでしたか?」

「とても美味しいよ」

「ふぅ。良かったです…」


 安心したリリアーネは、手に持っていたサンドウィッチをハムっと齧る。美味しそうにハムハムモグモグする。小動物みたいで可愛い。

 厨房はマギーやカラムに任せきりだったけど、偶にはこういうのもいいな。


「花嫁修業をしていた甲斐がありました」


 普通なら、公爵令嬢が料理する機会なんてほとんどないんだけどな。

 親バカのヴェリタス公爵がリリアーネを家に引き留めるために教えていた気がする。


「シラン様がフェアリア皇国に行っている間に、ちょっと料理をしてみたんです」

「えっ? なんで俺がいない時に料理をしたんだ…。食べたかった…」


 くっ! リリアーネの料理。教えてくれたらすぐに帰ったのに…。


「ジャスミンさんと一緒に作ったのです」


 なん…だと!? ジャスミンと一緒だと!?

 ジャスミンも何気に料理が上手い。時々作ってくれた。俺のことは頑なに実験台と言っていたけど。

 ここ一、二年は忙しくて作ってくれていない。食べたいなぁ。

 食べられなかった俺の目から血の涙が流れ出す。


「くぅ…! 食べたかった…」

「そ、そんなに悔しがらなくても! 言ってくれれば作りますよ!」

「あっ! そっか。一緒に住んでるから、いつでも言えばいいのか。何故思いつかなかったんだろう。リリアーネ。明日にでも作ってくれ」

「はい!」

「ジャスミンにもお願いしようかな。よし。そうしよう!」


 あぁ~! 楽しみだなぁ。エプロン姿で作っている姿も存分に堪能させていただきましょう。

 ジャスミンには、恥ずかしいから見るな、って言われそうだけど。

 リリアーネの手作りのサンドウィッチを一口ずつ味わって食べる。

 タマゴサンドとか、カツサンドもあった。デザートとして、フルーツサンドもありました。全て美味しかったです。

 食べ終わって満腹になった俺は、お茶を飲んで息を吐く。


「ふぅ。美味しかったぁ…。ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした。ふふっ。美味しそうに食べるシラン様は可愛かったですよ」

「男に可愛いはちょっと…」

「可愛いものは可愛いのです」


 リリアーネがクスクスと笑い声を漏らす。

 俺も女性のことを格好いいと思う時もあるから、男に可愛いもありなのか? どうなんだろう? 少なくとも、俺は言われたら嫌ではないが、猛烈な恥ずかしさを感じる。

 食後ののんびりとした時間をお喋りしながら寄り添って過ごす。


「この後は、王都に戻ってデートだよな?」

「そうですね」

「初代国王陛下たちが神龍と出会った洞窟には…」

「行きません!」


 そうなのかぁ。まあ、巨大な洞窟なだけだしな。そこから見る夕日は絶景だけど。

 俺はリリアーネの服に目を落とす。青色のワンピース。短めのスカートから、リリアーネの美脚が惜しげもなく露わになっている。俺しかいないから無防備だ。


「王都デートするなら、着替えたほうがいいか」

「そうですね。この格好はシラン様にだけ見せたいので」


 なんだこの可愛い生き物は! ドラゴニア王国屈指の美女が可愛すぎる!


「では、お片づけをしましょうか」


 リリアーネは片付けを始める。動き回り、そして爽やかな風の影響で、短めのスカートが揺れる。思わず視線が吸い寄せられる。

 時々、美しい黒髪を耳にかけて艶めかしい首筋が露わになる。そして、しゃがむことで柔らかそうな太ももがムニッと…。


「シラン様。レジャーシートから退いてください」

「あ、あぁ。ごめん。すぐ退くよ」


 いつの間にか俺は固まってリリアーネを眺めていたようだ。リリアーネに言われて慌ててシートから退いた。彼女は鼻歌を歌いながら、テキパキとシートを畳む。

 あっという間に片付けが終わった。

 リリアーネは最後に辺りを見渡す。


「綺麗な場所でした」

「また連れてくるよ、聖域のここに」

「聖域って思い出させないでください…」


 ぐったりと肩を落とすリリアーネ。珍しい姿だ。

 そりゃ、立ち入ったらすぐ処刑と言われる禁足地だからな。バレたらどうしよう、とか思っているんだろう。

 爽やかな風が俺たちの間を通り抜ける。


「きゃぁっ!」


 意地悪な風がリリアーネのスカートを捲る。今度は正面から黒いレースの下着を拝むことになった。

 けしからん。全くもってけしからん。いけない風だな! 俺がお説教してやろう! サンキュー! ありがとう!

 爆発的に顔を赤らめたリリアーネが、プルプルと震え、潤んだ蒼玉サファイアの瞳でキッと睨みつけてきた。


「シラン様のえっち!」


 うぅ~、と唸り声を上げ、ポコポコと叩いてくるリリアーネは可愛いだけだ。そんなリリアーネをなだめ、彼女が落ち着いたところで王都の屋敷に転移した。

 転移した先はリリアーネの部屋。整理整頓されているが、使った後のお化粧品やベッドの乱れたシーツなど、生活感が漂う。

 まだ耳まで真っ赤にしているリリアーネが拗ねた表情でドアを指さした。


「着替えるので、出て行ってください」

「えぇー! 着替えるところも見ちゃダメなのか?」

「今日はダメです! ほらほら! 出て行ってください!」


 普段は俺の前でも平然と下着姿になるリリアーネだが、今日は何故か恥ずかしいらしい。よくわからないが、可愛いのでグッジョブです!

 リリアーネに背中を押されて部屋から出された俺は、部屋の前で着替えが終わるのを待つことにする。

 数分したら、軽くドアが開いた。


「入ってもいいですよ」

「失礼しまーす」


 部屋の中に入ると、着替えたリリアーネが立っていた。

 クルリと一回転して全身見せてくれる。

 ふむふむ。初めて見る服だな。とても似合っている。髪型も変えて一つ結びにしているのがナイスだ。

 リリアーネは得意げに変装用のメガネをクイっとあげる。それが何とも可愛らしい。


「どうでしょう? 新たなお忍び衣装です」

「ぐへへ。良いのぉ良いのぉ。どうシラン君? ボクの力作さ! テーマは『オフの冒険者』。似合ってるよぉ~。おっと涎が。じゅるり」

「そうだな。良い仕事だぞ、ネア」


 横に立っていた目が血走っているネアとサムズアップをし合う。息も荒いしちょっと危ない表情だ。

 サムズアップしたところで、俺は気付いた。


「おい、ネア。お前いつから居た?」

「もちろん、リリアーネが着替え始めるところから! フハハハハハ! ボクが可愛い子のお着替えシーンを見逃すわけがないじゃないかー! カワイ子ちゃんが力作を着てくれるんだよ! 例え火の中水の中でも、ボクは駆けつけるのだぁー! 満足したからボクは戻るね! アディオス!」


 シュパッと赤黒メッシュ髪の少女が消え去った。まるで嵐だな。

 残された俺たちはポカーンと固まったままだ。


「私、全然気づきませんでした」

「諦めろ。覗きが生きがいのネアに気づける奴はいない」


 部屋の隅を見ると、床に涎の跡が残っていた。どうやらあそこでリリアーネの着替えシーンを覗いていたらしい。

 ため息をついて、ネアの涎を魔法で消す。

 はぁ…仕方がない奴だ。覗くなら俺も誘ってくれよ! おっと。つい本音が。


「ネアのことは忘れて、デートの続きをするか?」

「はい!」


 リリアーネがニッコリと微笑んだ。



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昨日(2020/4/22)に『第148話 第三章&第四章の人物紹介 (※第四章までのネタバレ&裏設定があります)』の最後のほうに、ヒロインとヒロイン候補たちをまとめてみました。

エロ方面のまとめですが。

覗いてみてください。


↓URLです

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891921059/episodes/1177354054895608263

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