第154話 お詫びデート ※リリアーネ編
「お待たせしました」
そう言って、リリアーネが部屋に入ってきた。
ピクニックに出かける私服姿のお嬢様って感じだ。
今日はリリアーネとデートの日だ。リリアーネが望んだデートはピクニックだ。どこかの美しい景色の場所で二人きりでピクニックをしたかったらしい。場所は俺に任せるそうだ。
ランタナ達近衛騎士団にバレるといけないから、部屋の中に集合して、そこから俺の転移で移動することになっている。
ジャスミンにも口裏合わせをお願いしたから、騎士団対策はばっちりだ。
とても似合っているワンピース姿に、俺は思わず見惚れてしまう。
「そのワンピースって…」
「今日のためにネア様に作っていただいたのです。どうですか?」
クルッと回転して、ニコッと微笑んだ。スカートがふわっと舞う。
「リリアーネはどれだけ俺を惚れさせれば気が済むんだ?」
「ふふっ。どこまでも、です」
リリアーネの笑顔は、とてもとても美しいものだった。
くぅ! 俺の婚約者が可愛すぎるんですけど!
抱きしめたりイチャイチャしたくなったけれど、今からデートに行かなかれなならない。時間も有限なので、バスケットを受け取って、転移することにする。
「では行きますか」
「はい!」
腕を組んだ俺たちは、屋敷から転移して消え去った。
転移した先は、とある山の麓の広大な野原だった。緑色の草と、白や黄や赤などの花々で染まっている。野原や草原というよりは、花畑のほうが近いかもしれない。
風が吹いて植物が揺れ、青空には白い雲がゆっくりと流れている。のどかな光景だ。
「綺麗な場所ですね」
「俺のとっておきの場所の一つだ。ここは人もモンスターも近寄らない。安心していいぞ」
俺たちは腕を組んで、野原を歩く。
リリアーネは
どうやら気に入ってくれたようだ。
そのまま少し歩き、立ち止まって花を観察したり、花の蜜を吸う蝶を眺めたり、笑い合ったりする。のんびりとした時間が過ぎていく。
休憩のためにレジャーシートを敷いた。靴を脱いでシートに上がる。
座ろうとしたその時、少し強い爽やかな風が通り過ぎ、俺たちの髪を巻き上げた。同時に、リリアーネのワンピースのスカートまでも。
「きゃぁっ!」
咄嗟にリリアーネはスカートを押さえたけれど、それは前だけだった。丁度リリアーネの背後にいた俺からは、舞い上がったスカートとその奥の下着が丸見えだった。
ハッと気づいたリリアーネは、背後のスカートを押さえたが、時すでに遅し。俺の脳内にバッチリと保存されました。
黒のレースか。それに透け透けとは。実に過激でした。グッジョブです!
カァっと真っ赤になるリリアーネの可愛らしいお顔。潤んだ
「もしかして…見ました?」
「な、何のことかなぁー?」
「見ましたよね? 棒読み口調ですよ! うぅ~!」
可愛い唸り声を上げたリリアーネが、ぷく~っと頬を膨らませて、ポカポカと叩いてきた。
全然痛くない。ただただ可愛いだけである。こんな可愛い姿を見られるとは……風よ! ありがとう!
「拗ねます。ぷいっ!」
宣言して拗ねるなんてリリアーネらしい。ぷいっと顔を逸らしつつも、チラッチラッと視線を向けてくる。どうやら構って欲しいらしい。
可愛いかまってちゃんに構ってあげますか。
「とりゃっ!」
「きゃぁっ!」
リリアーネを優しくシートの上に押し倒した。小さく悲鳴を上げ、いやいや、と弱々しく抵抗するそぶりを見せるが、すぐに楽しそうに笑い声を漏らし始める。
「ふふふ! もうシラン様ったら! ここはお外ですよ」
「誰もいないから気にしなくていいだろ」
俺はリリアーネに腕枕して、彼女は気持ちよさそうにピトッと寄り添ってきた。二人でレジャーシートに寝そべり、美しい蒼穹を眺める。
ちらほらと浮かんでいる白い雲が流れていく。
「本当に誰もいないのですか? こんなに綺麗な場所なのに。ここはドラゴニア王国ですよね?」
「ドラゴニア王国の領地だけど、本当に誰もいないぞ」
「モンスターも?」
「いないな。ここには絶対に近寄らない」
「何故ですか?」
「何故って聖域だから」
「せ、聖域!?」
突然、リリアーネは悲鳴に似た声を上げて、勢いよくガバっと起き上がった。
恐怖と畏怖と感動を混ぜた複雑な顔で、周囲を見渡す。そして、そびえたつ巨大な山を見上げた固まった。
「嘘…まさかここは…この山は…」
「神龍が住んでるといわれる神龍山だな」
ドラゴニア王国にある聖域。そこは王国が神龍と崇め奉る白銀の龍が住んでいるという禁足地だ。無許可で入れば自国の貴族だろうが、他国の貴族だろうが問答無用で処刑される禁断の地。
モンスターも龍の縄張りには近づかない。だから、ここには人もモンスターも存在しない。
「そんな…恐れ多い…今すぐここから離れなければ! シラン様!」
「大丈夫大丈夫! バレなきゃ問題ないし、神龍はあの山に住んでないし」
「そういう問題ではありません! ……って、住んでいらっしゃらないのですか?」
「別のところに住んでるぞ。聖域に入るのは父上に言ってないけど、神龍がいいよって許可くれたから大丈夫」
「あの…えっと…」
リリアーネが盛大に混乱している。
ここはドラゴニア王国の国民にとっては伝説の地だ。王族でさえも一生に数えるほどしか入れない場所。そこにリリアーネは足を踏み入れている。そして、神龍はあの山に住んでないという衝撃の事実。混乱するのは当たり前だ。
俺はその可愛い顔を眺めることにする。
「その…このような場所でピクニックしてもいいのですか?」
「いいのいいの。神龍が許可したから問題なし! 初代国王陛下と王妃殿下が誓いを交わし、神龍と出会った洞窟に行ってみる?」
ドラゴニア王国建国の始まりの地。初代国王と当時騎士だった王妃殿下が、その洞窟で神龍と出会い、戦乱の時代を治める決意をした、正真正銘の始まりの地だ。
「興味はありますが止めてください! そんな恐れ多い…!」
「行きたいときは言ってくれ。リリアーネなら神龍に殺されることはないはずだから。たぶん」
「………絶対に行きません」
顔を青ざめたリリアーネも可愛いです。揶揄うのも楽しいな。
殺される云々は冗談だ。アイツがお気に入りのリリアーネを殺すわけがない。
神龍の正体を言ったらどんな反応をするだろうか?
その時のことを想像してクスリと笑い、今の暴露でぐったりと脱力して疲れ果てたリリアーネを優しく抱きしめるのだった。
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