第121話 皇国に出発
とうとうフェアリア皇国に出発する日がやってきた。
今回はジャスミンとリリアーネはお留守番。ジャスミンはずっとぶつくさ文句を言ってたけど。
毎日転移で帰ってくる予定だし、その気になれば二人も連れて行ける。こそっとお忍びデートをするのもいいかもしれない。自然豊かな国らしいし、一緒に過ごしたいなぁ…。よしっ! そうしよう!
「殿下? 一体何をお考えなのですか?」
「ひぃっ!? ラ、ランタナ!?」
背後から気配を殺して現れたのは近衛騎士団第十部隊部隊長のランタナ。先日、屋敷を黙って抜け出して、王都の街を散策していたことがバレ、まだお怒りモードなのだ。
「お、俺は何も考えていないぞ!」
「女の勘が働きました」
「な、何故女性の勘はそんなに鋭いんだ!?」
女性だけずるい! 男の勘も鋭くなってくれよ!
ランタナは、やっぱり、と深くため息をついた。どうやら鎌をかけただけらしい。
「はぁ…殿下らしいと言えば殿下らしいですけど、ご自分の身分を考えてください」
「はい…ごめんなさい」
お説教がトラウマになっている俺は、即座に謝る。
ランタナの静かなお説教は心に響いて物凄い罪悪感を感じるんだ。黙って出かけた弟を心配して叱りつける姉みたい。
そんな風に姉上たちから叱られたことはないけど。姉上たちは我儘だし………うおっ!? 城のほうから何やら寒気が!?
これ以上変なことを考えたらダメだな。
「でも…うん…やっぱりランタナは理想のお姉ちゃんだ」
「何か言いましたか?」
「いいえ何も!」
俺はブンブンと首を振って即座に誤魔化す。訝しげにじーっと視線を向けてきたランタナは、そうですか、と深くは追及せず、近づいてきた近衛騎士の話を聞く。
そのランタナの耳は真っ赤になっていた。もしかして、聞こえていた?
「殿下、準備が整ったようです」
「はいよー。じゃあ、馬車に乗りますか」
俺はランタナに指摘することなく、馬車に向かう。俺の馬車には純白の
「よう! また頼むな」
『任せろー!』
『仕方なくアンタの馬車を引いてあげるわ!』
ピュアはスリスリと頬擦りしてくる。そして、インピュアは今日もツンデレ。
『誰がツンデレよ!』
『インピュアはツンデレッデレ~!』
『ピュアうるさい!』
インピュアが角をピュアの角にぶつけ、そこから叩き合いが勃発する。最初はカンッコンッと軽い音だったのが、次第にガコンッバコンッと音が重く、大きくなっていく。
よく見る姉妹喧嘩だけど、近衛騎士たちがビクビクし始めたからそろそろ止めましょう。
「二人とも~! 喧嘩を止めないと出発できないぞ~!」
『止めた!』
『だから、早く乗りなさい!』
即座に喧嘩を止め、ビシッと佇むピュアとインピュア。その姿はまさしく幻獣。凛々しくて威厳があって美しい。騎士たちから、はぁ、という感嘆の声が漏れた。
軽く撫でてから、俺は見送りに来てくれているリリアーネの下に向かう。
「リリアーネ」
「シラン様」
彼女の腰に回して抱き寄せる。そして、軽くキスをした。リリアーネはうっとりとした。もっとキスしたくなったけど、止まらなくなりそうだから我慢する。
「今回はお留守番を頼む」
「はい。お任せください」
「何かあったら使い魔たちに何でも言ってくれ。まあ、こそっと毎日帰ってくるけどな」
「ちゃんと可愛がってくださいね?」
「もちろんさ」
悪戯っぽく微笑んだリリアーネが可愛くて、またキスしてしまった。これは仕方がない。リリアーネが可愛すぎるのが悪い。
「それで、ジャスミンはどこだ?」
あちこち見渡すが、幼馴染の金髪美女がどこにもいない。騎士服を着て近衛騎士たちに混ざっている様子もない。一体どこにいるんだ?
「ジャスミンさんは先にお見送りに向かったはずなのですが…」
「はっ!? まさかっ!?」
俺は馬車に向かった。扉を開け、中を確認する。すると、入れた覚えのない、こんもりと盛り上がっている毛布が隅にあった。ツンツンと突くと、ビクッと震えた。
毛布を掴んで引き剥がす。中から現れたのはよく知る金髪美人。
「やあ、ジャスミン。ここで何をしているんだい?」
「あ、あはは…」
悪戯がバレた子供のような顔をしたジャスミンが、顔を逸らした。どうやらこそっとついて行くつもりだったようだ。でも、もう少し隠れる努力をした方が良いと思う。バレバレだった。
可愛いお姫様を抱っこすると、馬車から降りる。
「だって…シランと離れたくなかったんだもん」
恥ずかしそうにぷいっと顔を逸らしたジャスミン。
何だこの可愛い生き物は!
思わず頬にキスしてしまった。それはそれで嬉しそうだったけど、やっぱり唇にもして欲しかったみたい。黙って顔を正面に向けて目を瞑った。ご要望通りキスしてあげましょう。
「毎日帰ってくるって約束しただろ?」
「でもでもぉ~!」
ジャスミンは駄々をこねる。本当に昔から変わらないな。
抱っこしたのはいいけど、ジャスミンは俺を離してくれそうにない。どうしよう? 近衛騎士だから力が強いんだよなぁ。
そこに、リリアーネが、任せてください、と無言で合図をしてきた。
リリアーネさん、お願いします。
「ジャスミンさん。お留守番すれば、向こうでデートしてくれるそうですよ」
「向こうってフェアリア皇国で?」
「はい。そうですよね、シラン様?」
リリアーネが可愛らしくチョコンとウィンクした。
俺はそんな約束はしていない。話を合わせろということか。
ジャスミンを説得すると同時に、フェアリア皇国でのデートの約束を取り付ける。むしろ、それが目的か! リリアーネ、なんて恐ろしい子!
でも、デートをしたいと思っていたところだったし、ちょうどいいか。
「自然豊かな国だからなぁ。デートスポットは沢山ありそうだなぁ。自然豊かな場所で一泊というのも良いなぁ。リリアーネはお留守番するって約束したからデート決定! ジャスミンはどうする?」
「お留守番するわ! だから、デートして!」
即座の手のひら返し。ふっ、チョロい。
俺は頷いて了承すると、ジャスミンの唇にキス。そして、ゆっくりと離れた。
そろそろ馬車に乗らなければ。
「ジャスミン、リリアーネ。それじゃあ、行ってくる」
「はい、いってらっしゃいませ」
「うぅ…いってらっしゃい」
最後に二人を抱きしめてから馬車に乗り込む。二人は馬車の扉を閉めるまでずっと手を振ってくれていた。
近衛騎士たちも隊列を組んだようだ。ランタナが号令をかける。
「出発します!」
フェアリア皇国に向けて、馬車が進み始めた。
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