第119話 赤の乙女との再会 (改稿済み)
ドタバタと屋敷を駆けまわる音と、大声で誰かを呼ぶ声がする。
バタンと勢いよくドアを開けて屋敷の食堂に入ってきたのは二人の美女。短い金髪を輝かせた
食堂で談笑していた
「あら? ジャスミンさんとランタナさん。どうされました?」
「リリアーネ! シランはどこ!?」
「シラン殿下をお見掛けしませんでしたか? 皇国訪問の打合せの予定だったのですが、いらっしゃらないのです!」
「シラン様なら……」
リリアーネがとある方向を見る。ジャスミンとランタナがその方向に視線を向けるが、その先はただの壁だった。隠れられる場所はない。
ジャスミンがハッとする。
「この感じ……もしかして、街!?」
「さっきシー君は街に行ってくるって言ってたわよ」
リリアーネと談笑していた料理人の一人、マグマのようなオレンジ色の髪の巨乳美女マグリコットがのんびりと言った。
「あいつ……今すぐ追いかけて捕まえないと!」
「いいえ、ジャスミンさん。追いかけても無駄でしょう。だから、殿下が帰ってきたらたっぷりとお説教しましょうか」
ニッコリと微笑むランタナ。普段は温かくて優しい瞳が冷たい輝きを放っている。怒気と魔力が渦巻き始めた。ふふふ、と言う暗い笑い声が漏れ出す。
気圧されたジャスミンは思わず敬礼をした。
▼▼▼
「うおっ!?」
突如悪寒に襲われた。身体がブルッと震える。一体何が起こったんだろう?
周りを見渡すが、どこもおかしいところはない。賑やかな王都の街並みだ。
急に立ち止まってキョロキョロし出した俺に、歩く人たちから迷惑そうな視線が向けられた。
もしかすると、俺が屋敷を抜け出したことがバレてしまったのかもしれない。
ジャスミンが激怒してるのかなぁ…。帰ったらお説教かなぁ…。
でも、こんなに天気が良いのに屋敷に閉じこもるのはもったいない。
「んぅ~! 良い天気だ。うわっ!」
「きゃっ!?」
その時、前方から走ってきたフード付きの黒いローブを着た人物がぶつかってきた。俺は押し倒された。
フードの中から赤い髪が零れ落ちる。どうやら女性のようだ。燃える赤い瞳が俺を捉える。
「ご、ごめんなさい! すぐに退きますから……って、あれ?」
俺は押し倒されたまま、フードの女性にじーっと見つめられる。
美しい顔立ちの女性だ。年齢は俺よりも少し年上くらい。どこかで会ったことがある気がする。
俺と彼女は同時に思い出し、相手を指さした。
「あの湖の
「私の裸を見た覗き魔!」
覗き魔って酷くない? 確かに覗いちゃったけど、あれは事故というか偶然だったし…。
彼女は俺から退き、立ち上がる。どうやら彼女には怪我はなさそうだ。
パシパシと土を払う女性に問いかけた。
「どうして君が……」
「そ、それは……あっヤバいっ!」
何かに気づいた彼女は俺の手を引っ張り、人混みを避け、建物と建物の間の細い路地へと入った。そして、俺の抱きついてくる。
「はぁっ!?」
「シッ! 静かに! 大人しくしてて!」
鬼気迫る声で囁かれ、俺は黙って立ち尽くす。ふわっと甘い香りが漂ってくる。
すると、さっきまで俺たちが居た辺りを、殺伐とし空気を放つローブ姿の二人組が通り過ぎていった。チラッと俺たちに視線を向けたが、路地で抱き合うカップルにしか見えなかったのだろう。スルーして人混みの中に消えていった。
「ふぅ……行ったよね?」
周りを確認して、恐る恐る俺から離れた
「追われてるのか?」
「まあ、そんなとこ。なんかいろいろとごめんね」
両手を合わせて謝ってくる。上目遣いとか軽く首をかしげる仕草とか、とても可愛い。普通の男なら一発ノックアウトだっただろう。
それに、謝る必要はない。君みたいな美しい女性に抱きつかれて、感謝したいくらいだ。
彼女は追われているみたいだが、緊急性は感じられない。仲間に黙ってこっそりと抜け出した程度だろう。
「折角王都に着いたのに、あれはダメこれはダメってうるさいんだよ! 自由に観光したいじゃん!」
あっ、やっぱりそういう感じか。安心した。
燃える
「ねえ? 君ってこれから時間ある?」
「あるけど……」
「じゃあ、街を案内してくれない? 貰った魔道具のテントが想像以上に快適で、お礼をしたいって思ってたの」
「あれは君の裸を見てしまったお詫びなんだけど」
「こっちが貰いすぎ。あたしの穢れた身体はそこまでの価値はないから」
穢れた身体って、ただ呪われてるだけだろ? 忘れられないくらいとても美しかったんだけどなぁ。思い出すと…うん、とても綺麗だ。眼福です。
あの時の光景を思い浮かべてしまった俺に気づいたのだろう。
「あぁ! 想像してたでしょ! えっち!」
自虐的な笑みの中に、ほんのわずかに嬉しさが滲んでいる。頬が赤くなっている。
彼女にもいろいろとあるらしい。もしかしたら、呪われていることで、昔から虐められて育ったのかもしれない。穢れた身体って言った時は、物凄く辛そうで悲しそうだった。諦めの色さえあった。褒められたことが少ないのかもしれない。
でも、彼女はすぐに美しい笑顔を浮かべる。
「さあ、行こ行こっ♪ 再会を記念して、君のおごりね」
「なんでっ!? まあ、いいけど」
本当に自由な女性だ。俺の腕に抱きついてくる。甘い香りが漂い、柔らかな感触がする。
傍から見たらカップルだろう。
「冗談冗談! 君に奢ってもらうわけにはいかないわ。ちゃんと自分で出すから。むしろあたしが君に奢らないと」
そこでふと、女性が首をかしげた。
「あれっ? あたし、貴方の名前知らない」
そういえば、俺も君の名前を知らないな。自己紹介も全然してない。
「俺はシラン。17歳。職業は無職……所謂遊び人?」
他国の冒険者なら本名を言っても俺が王子だとはバレないはず。
ふむふむ、と
「あたしはアルストリア。アルスって呼んで! 冒険者してるの!」
アルスと言う女性はニコッと微笑んだ。
俺は
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