第118話 ご機嫌取り
「納得いかないわよ!」
ジャスミンが大声を上げて腕を振るった。バッシャーンとお湯が飛沫を上げる。俺の顔に盛大にかかった。首を振って水滴を飛ばす。
今はジャスミンとリリアーネの二人と一緒に屋敷のお風呂に入っていた。
俺たちはもちろん裸。ここ最近、ジャスミンは吹っ切れたようで、恥ずかしがりつつも、一緒に裸でお風呂に入ってくれる。リリアーネは元から積極的。
数日後にフェアリア皇国に行くけど、ジャスミンたちは連れて行けないと言ったところ、案の定ジャスミンが駄々をこねた。俺と離れるのが嫌らしい。
「私も行く! 行くったら行く!」
「今回はジャスミンは連れて行けないんだって…」
「行くの!」
我儘ジャスミンが暴れて、お湯をバシャバシャとしている。
顔にかかるから止めてくれませんかね?
リリアーネさん? 俺を盾にしないでください。
少し幼児化したジャスミン。昔から本当に変わらない。
「なんで私がダメなの!? なに? 別の女がいるから?」
「流石に他国にはいねぇーよ!」
と思ったが、あちこち国を回って活動している使い魔がいることを思い出す。
元気にしてるかな? 前に帰ってきたのはいつだったっけ? 今度呼んでみようかな。
「「じーっ!」」
ジャスミンだけでなくリリアーネまでじっと見つめてきた。心の奥底まで見通してきそうなほど美しい
「「やっぱり!」」
「ち、違う! 誤解! 誤解だから!」
「では、何故シラン様は顔を逸らせて…」
「肌を火照らせた裸の美女がいたら目を逸らすだろうが!」
俺の両サイドにはピンク色に肌を火照らせた美女が二人もいるのだ。一糸まとわぬ美しい裸体。肌に浮かぶ水滴がスゥーと落ちる。とても艶めかしい。目のやり場に困る。
ジャスミンとリリアーネが顔を見合わせて、不思議そうに首をかしげる。
「何を今さら。毎日私たちを襲ってるのはどこのどいつよ」
「いつもみたいにじっくりご覧にならないのですか?」
「ご覧になりません! 俺を性欲の塊みたいに言うな!」
「「えっ!?」」
何言ってんだこいつ、みたいな眼差しで見つめないでくれません? 地味に傷つくんですけど。
はいはい。そうですか。俺は性欲の塊ですか。
でも、最近襲ってくるのはジャスミンたちのほうだからな!
どうして俺の周りの女性たちは肉食系が多いんだろう。可愛いですけど!
ジャスミンが裸のまま俺にもたれかかってくる。素肌が触れ合う感触が気持ちいい。
「あぁ~あ! なんで付いて行けないのよ!」
まだ根に持っているのか。貴族は他国に簡単に行けないんだって。知ってるだろうが。
今回の俺は招待されたから行くことができるけど、普通は無理なんだぞ。
「私、シランの婚約者なんだけど」
「婚約者じゃなくて、妻だったら大丈夫だったらしいけどな」
「よしっ! シラン、今すぐ結婚するわよ!」
「ジャスミン!? 俺はまだ未成年だから! 結婚できる年齢じゃないって!」
「ちっ! そうだったわね」
ジャスミンが苦々しく舌打ちをした。
俺は未成年だけど、リリアーネも俺と同い年だから未成年だぞ。ジャスミンは一つ上だから成人してるけど。
「はっ!? そうだわ!」
突然、ザッパーンと勢いよくジャスミンが湯船から立ち上がった。水が跳ね、全身が露わになる。
俺しか知らないジャスミンの秘密の花園が目の前に…!?
「私、近衛騎士じゃない! そうよ! 騎士として付いて行けばいいんだわ!」
グッと拳を握りしめて、よっしゃ、と喜んでいる。
だが、残念ながら、それを思いつくのも想定済みだ。
「ジャスミンは近衛騎士だけど、それ以前に公爵令嬢なんだ。今回は待機命令が出る」
「なんでよ!」
俺のほうを向かないでくれませんかね? 胸とか全部見えてるんだけど。少しは隠してください。恥ずかしがっていたころのジャスミンはどこへ行ったんだろう。
「くっ! こうなったらまた国王陛下を脅して…」
「おいおい。父上を脅すなよ。普通だったら殺されてるぞ」
「だって、こうでもしないとシランと一緒にいられないじゃない! そんなの寂しいわ!」
ジャスミンが
えっ? なにこれ? 滅茶苦茶可愛いんですけど!?
俺はどうすればいい? 我が幼馴染 兼 婚約者が可愛すぎる。襲っていい? 襲っていいよね? 襲うよ?
「ですが、シラン様は毎日帰ってこられますよね? 使い魔さんのお力で」
「あっ、それもそうね」
リリアーネによる助言を聞いて、ジャスミンがポンっと手を打った。ついでに胸もポヨンと跳ねる。
……おぉ。実に良い眺めだ。
ジャスミンは片手を腰に当て、前屈みになり、反対の手で俺の顔に指を突き付ける。
またもや良い光景。ありがとうございます。眼福です。
「シラン。幼馴染 兼 婚約者である私からの命令よ。毎日帰ってきて可愛がりなさい!」
「あっ、私もお願いします!」
ふむふむ。可愛い婚約者二人からのご命令ですか。それならば仕方がない。毎日帰ってきて、たっぷりと可愛がってあげようではないか。可愛がるのは今日から毎日な。
俺は裸の二人を抱き寄せた。
「了解しました。じゃあ、今日可愛がる分はいつがいい? 今すぐ?」
「ええ、いいわよ。受けて立つわ! リリアーネ。一緒にシランを倒すわよ!」
「はい! 覚悟してください、シラン様!」
俺は二人のご機嫌取りとして、たっぷりとイチャイチャして、仲良くお風呂で汗を流すのだった。
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