第111話 暴露

 

「えぇ~…お集りの皆さん…こんにちは…」


 部屋にはジャスミンやリリアーネ、仕事がひと段落している使い魔たちが集合している。

 ジャスミンが目覚め、その後いろいろあって、やることを済ませて、現在に至る。

 リリアーネが悲鳴に似た声を上げる。


「シラン様!? どうなされたのですか!?」


 心配そうにペチペチと身体を触ってくる。使い魔たちはいろいろとわかっているみたいだ。

 リリアーネが心配するのも無理はない。今の俺はげっそりとやせ細っているから。

 顔色は悪く、頬がげっそりとこけている。声はかすれて今にも途切れそう。不死者アンデッドのミイラのように見えるだろう。

 倒れそう。今にも意識が途切れそう…。うぅ…。


「シラン様!」

「放っておきなさい、リリアーネ」

「ですが! …………ジャスミンさんは何故そんなに元気そうなのですか?」


 リリアーネは、お肌が艶々と潤っているジャスミンを見て、可愛らしく首をかしげる。ジャスミンはニコニコ笑顔。とっても幸せそう。ちょっと妖艶な雰囲気を感じる。

 うぅ…ガクガクブルブル!


「お肌がトゥルットゥルですけど…」

「ふふっ。シランから搾り取ってやったわ! もう最っ高だった! シランって意外と攻めに弱いのね。可愛かったわ」

「う、うるさい…」


 俺は大声を上げる元気もなく、かすれた声で言った。

 目覚めたジャスミンに襲われた俺は、反撃も虚しく、徹底的に貪り喰われた。死ぬかと思った。

 俺は攻めに弱いんじゃない。ジャスミンの攻めが強かっただけだ。

 くっ! 流石幼馴染。俺の弱点をすべて把握してる。的確なタイミングで丁度いい力加減とスピードで……素敵でした。


「まさか…シラン様とお一人で?」

「うふふっ。恋する乙女は無敵なの。それに、女って生き物は愛する男からいろんなものを吸い取って美しくなるの。シラン、ごちそうさま」

「へいへい。お粗末様です」


 うっとりと美しく微笑まないでください。超可愛いから!

 元気や生命力まで吸い取られた気がする。ジャスミンは淫魔か!? …………確かにさっきは淫魔だったな。


「ジャスミン様。後で私たちにも詳しくお聞かせください」

「あら、ソラ達も興味あるの? なら、あとで温泉に入りながら女子会しましょっか」

「ありがとうございます」


 使い魔の皆も興味津々。いつも女子会で情報共有してるらしい。俺は一切立ち入ることはできない。また夜の生活が激しくなりそうだ。俺、死ぬかも。腹上死するかも。

 ビュティに言って、新たな精力剤でも開発しようかなぁ。


「はいはーい! そろそろ本題に移っていいか?」


 俺は頑張って手を叩いて、全員の注目を集める。皆が黙って頷いた。

 では、本題に移りましょう!


「みんなに新たな仲間を紹介しまーす! 召喚!」


 控えてもらっていた新たな使い魔が顕現する。

 美しい黒髪の少女だ。見た目は14か15くらい。肌は、日光に一切当たったことが無いくらい病的なまでに青白い。そして、瞳は黒曜石オブシディアンのように漆黒だ。美しい夜の闇だ。

 彼女は大勢に囲まれて、アワアワと慌てている。


黒曜石オブシディアンの女性…ですね」

「はぁ…シラン…また口説いたの?」


 ジャスミンとリリアーネが呆れている。良かった。ジャスミンに怒られるかと思ってた。

 でも、『また』とはなんだ、『また』とは。確かに口説いたけど、俺はそんなにしょっちゅう口説いてないぞ!


「新しく契約した女帝エンペラスリッチのニュクスさんです! みんな拍手!」


 パチパチパチ、と大きな拍手が鳴る。

 使い魔のニュクス。記憶がなく名前もわからなかったので、俺が名付けた。

 ニュクスはガチガチに緊張している。


「は、初めまシテ! ニュクスと申しマス。上様うえさまの使い魔となりマシタ。よろしくお願いシマス!」


 声を上ずらせながら深くお辞儀をする。綺麗な黒髪がふわりと揺れた。

 再び大きな拍手が鳴る。

 お辞儀をしたまま固まったニュクスから涙声の念話が届く。


『上様ァ~! この方々は何者デスカァ~!? 濃密な死の気配を感じマスヨォ~』


 死を司る魔物だから、使い魔たちの強さが死の気配として感じられるのだろう。


『何者って俺の使い魔だけど。味方だから安心しろ。心強いだろ?』

『それはそうですケド…』


 ニュクスはおずおずと顔を上げた。使い魔たちにニッコリと微笑まれて、ススっと俺の背後に隠れる。

 使い魔たちからすると、末の妹って感じだ。愛でたくて仕方がないらしい。


女帝エンペラスリッチ? シラン…ひょっとして《死者の大行進デス・パレード》を引き起こしたのは…」

「違う違う。ニュクスじゃない。あれは皇帝エンペラーリッチが引き起こしたんだ。ニュクスは皇女プリンセスリッチだったんだけど、進化したんだ。ニュクスは凄いんだぞ。皇帝エンペラー皇子プリンスをずっと封印してて、ニュクスがいなかったらもっと酷いことになってたはずだ」

「あんたなんで知ってるのよ。ずっとリリアーネと引きこもってたんでしょ?」


 あっ。不味い。そう言えばジャスミンには全然説明してなかった。どうしよう。

 俺が冷や汗をダラダラと流していたら、ジャスミンはため息をついた。


「はぁ…まあいいわ。今日はご機嫌だから聞かないであげる。でも、いつか教えなさい」

「わかった…」

「よろしい!」


 ジャスミンも変わったなぁ。少し前まで激しく問い詰めてきたのに。

 もしかして、全てバレてる? いや、そんなことはないはず。

 でも、最近は女の余裕を感じる。娼館に通っても許してくれそう。…………流石にそれはないか!


「あのぉ~そちらのお二人は上様とどのようなご関係デ? 使い魔では…アレッ? でも…身体から上様の力を感じル?」


 何やらニュクスがジャスミンとリリアーネを見て首をかしげている。

 二人から俺の力を感じる? たぶんそれは注ぎ込んだり搾り取られたやつだと思うけど。精には魔力が豊富らしいから。


「彼女たちはジャスミン・グロリアとリリアーネ・ヴェリタス。俺の婚約者さ」

「上様の奥方様でシタカ!?」

「シラン様の奥方…」

「いい響きね…」


 ジャスミンとリリアーネが頬を赤くしている。

 二人はニュクスのことを気に入ったようだ。チョロいな。


「二人のことは覚えておいて。使い魔のほうは…多いから少しずつでいいか。取り敢えず、今日は顔合わせかな。王都の屋敷にはまだたくさんいるし」

「は、ハイッ!」

「んじゃ、最後に、これからしたいこととか、俺にお願いとかある?」

「上様にお願い…デスカ?」

「そうそう。俺にできることなら何でもいいぞ。お店を開きたいからお金貸してとか、どこかの変態にみたいにイジメて調教してとか…」


 その変態のことを知っているニュクス以外の視線が緑色の髪の美人に集まる。変態が、はぁはぁ、と熱い息を荒げ始めた。

 全員が視線を逸らす。変態はもっと、はぁはぁ、と熱い息を荒げ始めた。


「ワタシがしたいことと、上様にお願いは別々でもいいデスカ?」

「もちろんいいぞ」

「では、ワタシは、魔法の勉強をしたいデス。魔法系の魔物の本能でしょうカ?」


 どうだろうな。そうかもしれない。でも、生きていたころの欲求かもしれないぞ。


「そして、上様にお願いガ…」


 ニュクスがもじもじと太ももを擦り合わせながら恥ずかしそうに顔を伏せる。チラチラと黒曜石オブシディアンの瞳で上目遣いをする。

 人差し指同士をツンツンしながら、ニュクスは小さな声で囁いた。


「その……たまに痛みをクダサイ…」

「「「「はっ?」」」」


 一人を除く全員の目が丸くなって、そろって間抜けな声を上げた。ただ一人だけ、同志!、と緑の瞳を輝かせている。

 ニュクスは猛烈に恥ずかしがって、真っ赤な顔を両手で隠す。


「ずっと痛みを感じていたので、落ち着かないんデス。だから痛いのが欲しいなぁッテ…。だめデスカ?」


 くっ! 潤んだ瞳で上目遣いは反則だ!

 裸を見られて悲鳴を上げていたから初心だと思っていたのに、なかなかハードなご趣味をお持ちのようで。でも、ギャップがあっていいじゃないか!


「で、でも、えっちなのはまだ早いデス! そういうのは、もっとお互いのことを知ってからデス!」


 あっ、初心だ。可愛い。恥ずかしがるお顔が真っ赤っかだ。

 ニュクスはジャスミンにチラチラと視線を向けている。

 さては、俺の中からジャスミンとの愛の営みを覗いてたな!? ムッツリさんなのか!?


「素晴らしい! 実に素晴らしいです!」


 プルプルと震えていた変態がいつの間にかニュクスの目の前に出現し、彼女の両手を固く握りしめる。緑の瞳がマジだ。


「ご主人様は素晴らしいお方です。この卑しい雌豚を痛めつけてくださるのです! はぁ…思い出すだけでうっとりとする心地良い甘美な痛み…♡」


 ドМの世界樹の足元に水滴が滴り落ち、水溜りが出来る。周囲にいた人が一斉に距離を取った。手を掴まれたニュクスは逃げられない。


「ご主人様は決して乱暴にされません。一つ一つの痛みに愛を感じるのです。あの絶妙な力加減。人を痛みという快楽に堕とすために生まれてきた偉大な御方なのです!」

「おいコラ、ケレナ!」

「ゴクリ…」

「ニュクスさん!? 何故今喉を鳴らした!?」


 ケレナの暴走は止まらない。瞳に変態魂が激しく燃えている。


「我が同志よ! 共に痛みという快楽を極めようではありませんか!」

「で、デモ…」

「ご主人様! 一度ニュクスさんのお尻を叩いてあげてください! そしたら、すぐにわかるはずです! さぁさぁ!」

「ケレナ止まれ! 俺はしないぞ! 誰か一緒にケレナの暴走を止めてくれ……って、誰もいない!?」


 あれだけ大勢の使い魔たちがいたのに、今はガラ~ンとしている。いつの間にか、巻き込まれるのを恐れて逃げ出していたのだ。

 慌ててドアに視線を向けると、ちょうどジャスミンとリリアーネが最後に出るところだった。


「ジャスミン! リリアーネ! 助けてくれ!」

「私、温泉に入ってくるわね。シラン頑張って」

「申し訳ございません、シラン様。私も少し興味はあるのですが、二人っきりの時にお願いします。では、失礼いたします」


 俺はあっさりと裏切られ、二人はそそくさと部屋から出て行った。

 あの…リリアーネさん? 爆弾発言をして出て行かないでくれません? 確かにМっ気はあるみたいですけど。

 ケレナは鼻息荒く迫り、ニュクスは頬を赤くしながら背を向けている。僅かにお尻を突き出している気が…。えっちなことはまだ早いんじゃなかったのかよ!?


「ご主人様!」

「上様?」

「止めろ! 変態ども!」


 俺は思わず二人の頭にチョップを落としてしまった。

 痛みで蹲る二人。身体がピクピクと小刻みに震えているのは痛いからに違いない。決して快感ではないのだ。

 なんかジャスミンに襲われた時よりも疲れを感じている。一気に疲れた…。

 その後どうなったのかは俺たち三人だけの秘密。



<第三章 むくろの黒姫の行進パレード 編 完結>



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こんにちは! 作者のクローン人間です。

骨の少女を気に入っていた読者の皆様。申し訳ございません。

彼女はこうするってずっと決めていたんです。


さて、今回のお話で第三章『むくろの黒姫の行進パレード』編が終了です。

ランタナを気に入ってエピソードを増やしたり、ジャスミンが頑張ったりして、予定より長くなりました。

まだイチャイチャを書きたいところですが、読者様のご想像にお任せします。

シランとヒロインたちを頭の中で好きにイチャイチャさせてください。

最後に皆でお風呂に入らせればよかったですかね?


次回から第四章『変彩の妖精の叫び声』編です。

新たなヒロインが出てきますよ! お楽しみに!


読者の皆様。いつもお読みいただきありがとうございます。

感想や誤字脱字報告、レビューなど感謝しております。

昨日、読者様の『紅榴石』様からレビューを頂き、『紅榴石ってガーネット!? まさかのアルストリア!?』と、はしゃいでおりました。

作者は馬鹿で単純ですね(笑)


長くなりましたが、これからもよろしくお願いします。 (2020/3/11)



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