第四章 変彩の妖精の叫び声 編

第112話 帰宅

 

『変態の妖精の叫び声』、『変態の妖精の喘ぎ声』など言われておりますが、


 第四章 変彩の妖精の叫び声 編 スタートです!


と思ったら、本当に変態の妖精の喘ぎ声が!?

何故こうなった!?

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 ここはどこかの塔の最上階の部屋。

 窓には鉄格子が嵌められ、唯一の出入り口は鉄の扉だ。石造りの壁も相まって、牢獄を連想させる。

 部屋の中にあるのは必要最低限の家具。ベッドにタンス。小さな机と椅子のみ。

 そのベッドの上に、一人の少女が虚空を見つめて座っていた。

 十代半ば程の年齢。肌は透き通るほど白く、髪は黄色を帯びた白髪。アルビノだ。

 顔立ちも整っており、妖精のように可愛らしい。

 純白のネグリジェを着て、少女は視線をあちこちに向ける。そして、誰もいない空間とお喋りする。


「えぇっ!? 《死者の大行進デス・パレード》!? それって不死者アンデッドの魔物の《魔物の大行進モンスター・パレード》だよね!? 大丈夫だったの? 死傷者は? 魔物の数は? 街や国が滅んでない? お父様にお願いしようか?」


 一気に質問を捲し立てる。少女はお喋り好きなのだ。

 虚空にあちこち顔を向けて、少女は一人で、ふむふむ、と相槌を打つ。まるで誰かと会話をしているよう。

 心配そうだった少女は、ホッと安堵の息を吐く。


「良かったぁ。奇跡的にほぼ被害はないんだね。そっかそっか。安心したよ。って、なんであなたがドヤ顔してるの? えっ? 手伝った? 何を何を!? 教えて!」


 少女は瞳を様々な色に輝かせながら身を乗り出す。

 でも、すぐに不貞腐れたように唇を尖らせる。


「ぶぅー! 秘密って…意地悪しないで教えてよ~! 教えて教えて教えて~!」


 近くに置いてあった枕を抱きしめ、鬱憤を晴らす。ポコポコと可愛らしく叩いて駄々をこねる少女は、子供っぽい印象を受ける。

 虚空を見つめていた少女が、瞳を輝かせた。


「えっ? 別のことなら言ってもいい? 教えて! ふむふむ」


 相槌を打ちながら聞いていた少女の顔がポフンと真っ赤になる。耳も首も真っ赤だ。恥ずかしそうに両手で顔を隠す。でも、指の間から色鮮やかな瞳が覗いている。


「い、いつもの彼と一緒に露天風呂に入った? うぅ~! ちょっと! なんでいつもそんなに自慢げなの! そんなに彼氏の自慢をしたいの!? 即答しないでよ! 一緒に露天風呂になんて…えっちなことはダメだと思います! えっ? 別のも入った? 何がどこに?」


 単純な疑問だったが、少女は問いかけたことを後悔した。返答を聞いて、今度は頭から蒸気が爆発する。

 ベッドに倒れ込み、枕で顔を覆って、足をバタバタさせる。


「ちょっ! そんなことだとは思わなくてぇ~! あっ! ちょっと! イメージを送ってこないでよぉ~! …………おぉ! 激しい…」


 恥ずかしがっていた少女は暴れるのを止め、食い入るように虚空を見つめ、感嘆の声を漏らす。顔は真っ赤だ。


「ほうほう…こうなってるんだねぇ。いずれは私も嫁がないといけないけど、怖いなぁ。これ、お腹壊れない? 裂けない? 凄いんだけど…。ぶっといのが突き刺さってる。でも、気持ちよさそう。ゴクリ…。へぇー気持ちいいんだぁ。えっ? 体験してみるってどういうこと? 夢の中で追体験? えっ、ちょっと待って!」


 少女の身体からいきなり力が抜けた。瞼が勝手に閉じて、夢の世界へと羽ばたく。

 時々、身体をくねらせ、熱い吐息を荒げ、小さな喘ぎ声が漏れる。小刻みに痙攣する。

 ぐったりと倒れ込んだ少女の口から、切なそうな声である人物の名前を呼ぶ。


「あぁ……シランさまぁ…」


 そのまま寝返りを打って、むにゃむにゃと眠り続ける。

 部屋の中に人の気配が現れた。

 今まで気配を殺してドアの横で佇んでいた美しいメイドが、ベッドに音もなく近づく。

 無防備な姿で寝ているあるじを綺麗な赤紫色の瞳で愛おしそうに見つめると、メイドは彼女の頭の下に枕を置き、優しくシーツをかける。


「………」


 メイドは、幸せそうな寝顔の主に無言で一礼すると、そのまま気配を消して、少女が目覚めるのを待ち続けるのだった。



 ▼▼▼



 無事に王都に到着した。

 婚約記念旅行は《死者の大行進デス・パレード》とか、大変な事件もあったけど、ジャスミンやリリアーネとイチャイチャできたので大満足です。とても楽しかった。

 デートをしてイチャイチャしたり、温泉に入ってイチャイチャしたり、ベッドの上でイチャイチャしたり…。俺、イチャイチャしかしてないな! まあ、そのために旅行に行ったんだし。

 本当はもっと滞在したかった。でも、いつでも転移していけるから、行きたくなったら行けばいいか。

 近衛騎士たちに護衛されて、王都の屋敷に帰りついた。

 行きと同様に、荷物を運び出す作業に王子なのに駆り出され、こき使わされ、ぐったりと疲れ果てた。明日筋肉痛かも。

 ソファに座り込むと、お茶を用意してくれる。左右には、着替えてラフな格好になったジャスミンとリリアーネが座る。

 ジャスミンはTシャツにショートパンツという、綺麗な素足を全開にした格好。リリアーネは、ミニスカートのワンピースを着ている。

 公爵令嬢らしからぬ露出度が高い姿だ。グッジョブです!


「なんだか落ち着きますね」

「そうね。自分の家に帰ってきたって感じがするわ」


 旅行で更に仲良くなった俺たち。二人が俺にもたれかかってくる。優しく髪を撫でたら、気持ちよさそうに顔が蕩けた。可愛い。


「それにしても二人とも、服が大胆すぎませんか?」

「家の中くらい好きな格好でいいじゃない」


 足をほとんど露出したジャスミンがゆっくりと足を組む。実にエロい。視線が吸い寄せられてしまう。

 リリアーネは心配そうに上目遣いで見上げてきた。


「似合わないのなら今すぐ着替えてきますけど」

「いやいや! 似合ってるから! そのままでいいよ」

「そうですか。良かったです」


 ニコニコ笑顔のリリアーネ。超ご機嫌になった。無意識に鼻歌を歌っている。


「シランはこういうの好きでしょ? ねえ、夜遊びをする性欲の塊さん?」

「せめて夜遊び王子にしてくれないか?」

「変わらないじゃない。まあ、お触り自由だから好きにしてちょうだい」


 えっ? いいの? じゃあ、遠慮なく。

 ジャスミンとリリアーネの太ももをスリスリと撫でる。とても気持ちいい。


「躊躇なく触るとは…シランのえっち!」


 悪戯っぽく微笑んだジャスミンは、恥ずかしそうだが拒絶はしない。


「触っていいって言ったのはジャスミンだろ? でも、ジャスミンも変わったな。前なら殴り飛ばしてたのに」

「もう諦めたのよ、あんたの女癖には。それに、こうでもしないとシランのハーレムはやっていけないの! ただでさえ出遅れてるのに」

「そうですよね。その気持ちよくわかります。ですが、シラン様のハーレムはドロドロとした蹴落とし合いではないので、そこは安心ですね」

「その分、情報共有をして仲良くしつつも、自分を高めて出し抜くって感じがするわ。それはそれで大変よ」


 女性陣は陰で戦いが繰り広げられているらしい。

 皆がどんどん綺麗に美しくなっていくのは俺も嬉しい。でも、全員の目標が『打倒俺』って感じがするのは気のせいだろうか?

 ビュティに精力剤の相談をしようっと。

 このまま二人とイチャイチャしていたいが、旅行から帰ってきた俺にはやることがある。


「さてさて。行きたくないけど行きますか」

「どこに?」

「もしかして、お城ですか? 国王陛下に帰還のご報告を?」

「いやいや。それは明日行く。今から孤児院に行ってくる」

「「孤児院?」」


 ジャスミンとリリアーネが可愛らしく首をかしげた。何故孤児院なのか理解不能のようだ。


「ちびっ子たちにお土産を渡しに行こうかと思って」

「普通、国王陛下への挨拶が先じゃない?」

「伝令をお願いしたら、今日は忙しいから来るなって言われた」


 一応父上は国王だ。妻の下着の匂いを嗅ぐのが趣味だけど、あれでも国王だ。仕事は忙しい。

 まあ、正確には、父上は俺と会うことで仕事をさぼろうとしたらしいが、宰相に止められたらしい。

 だから、先にちびっ子たちにお土産を渡そうと思う。


「二人も行くか?」

「行く!」

「はい!」

「んじゃ、着替えて来てくださーい。動きやすい服装な。そして、スカートは絶対禁止。捲られるぞ。胸元も注意な。ちびっ子たちは俺よりエロいぞ」

「「それはない」です」


 ジャスミンはともかく、リリアーネにまで即答されるとは…。地味に傷ついた。


「さてと。二人が着替えている間に、俺はお忍びの準備を…」

「させるとお思いですか?」

「うぉわぁっ!?」


 背後から冷たい声が聞こえ、俺は飛び上がって驚いた。

 そこには、近衛騎士団の服を身にまとった優しい琥珀アンバーの瞳の女性が立っていた。


「ランタナ!? いつからそこに?」

「ずっといましたけど? 殿下のお考えなどお見通しです。護衛の準備もできております」


 マジですか。流石ランタナさん。仕事ができる。

 帰ってきて早々だけど、いいのかな? 休んでもいいんだよ…あっ、睨まれた。


「じゃあ、今日は護衛をお願いしようかな」

「『今日は』じゃありません! ずっと護衛いたします! 本気で部隊をお屋敷に駐屯させますよ?」


 そ、それだけは勘弁してほしいかなぁ~。

 ランタナの脅しに、俺はスッと顔を逸らすのだった。

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