第86話 リリアーネとデート

 

 本日は、リリアーネと二人きりのデートとなっております!

 ………なんかテンションがおかしいな。ランタナとの朝風呂で徹夜明けのテンションが伝染うつったか? それはないか。

 ジャスミンとリリアーネがじゃんけんをして、リリアーネが先にデートをすることになったらしい。

 もちろん、近衛騎士には報告してあります。

 無言で外出したらお説教されてしまう。ランタナのお説教はもういいです。勘弁してください。

 近衛騎士たちは変装して、いざという時にはすぐに駆けつけられるように近くで見守っているだろう。

 俺からするとバレバレなのだが、彼らの仕事は隠密じゃないから仕方がない。

 尾行されながら街を歩き、現在はリリアーネが選んだ場所に来ている。


「リリアーネ? 折角のデートなのに本当にここで良かったのか?」

「はい。もちろんです」


 肌を汗でしっとりと濡らして火照らせ、身体にバスタオルを巻いたリリアーネが、花のような笑顔を浮かべた。

 リリアーネが選んだのは個室のある温泉だ。室内湯とか露天風呂とかサウナがある温泉施設。

 恋人同士や家族連れが、周りを気にせず静かに入りたいときに使用する施設だ。

 ローザの街は温泉が有名だから、こういった施設はとても多い。

 てっきり、リリアーネは街を散策するデートをするだろうと思っていたから、二人っきりでお風呂に入ったりして過ごしたいと言われ、ちょっとビックリした。

 今はお互い身体にタオルを巻いて、サウナを楽しんでいる。

 温度は、肌にほんのり汗が浮かぶくらいの温かさだ。リリアーネは熱すぎるのは苦手らしい。

 バスタオルを巻いて身体の曲線が表れているリリアーネにチラッと視線を向ける。

 露出した肌がピンク色に火照って艶めかしい。肌を伝う汗もエロい。長い黒髪も結んで纏めている。細くて綺麗な首筋や鎖骨に視線が吸い寄せられる。


「どうかしましたか?」

「い、いや! 何でもない!」

「そうですか」


 リリアーネは距離を詰めて、ピトッと肌が触れるくらい隣に来る。しっとりと濡れてスベスベだ。柔らかい。ふわっと甘い香りも漂ってくる。大きく露出した肩。バスタオルから覗く肉付きの良い綺麗な脚。

 相変わらず俺に対してはパーソナルスペースが狭い。

 何度も身体を重ね合わせているのに、何故か異様に緊張してしまう。口の中が乾く。


「俺、汗臭くないか?」

「ふぇっ? そんなことありませんよ。むしろ好きと言いますか…」


 リリアーネが恥ずかしそうにもじもじとしている。可愛くて扇情的な仕草だ。

 恥ずかしがっていたリリアーネが急にハッとした。


「もしかして私、汗臭いですかっ!? ど、どうしましょう!?」


 ガーンっと勝手にショックを受けて、リリアーネは顔を青ざめさせた。

 どうすればいいのかわからず、あたふたと慌てている。この慌てふためく姿がとても可愛い。


「大丈夫だから。リリアーネの甘い香りがするから」

「でも、それは汗の匂いですよね!?」


 立ち上がって俺から離れようとしたので、リリアーネを即座に捕獲。膝の上に座らせる。

 逃れようとバタバタと暴れるが、お腹に手を回して抱きしめているから逃げることはできない。

 ほらほら。大人しくしてくださいね。バスタオルが落ちそうですよー。

 少しの間、リリアーネは抵抗していたが、逃げられないと悟って、シュンと小さくなって大人しくなった。


「うぅ…シラン様が酷いです…意地悪です…」

「そこまで言うか?」

「シラン様は乙女心をわかっていません! 女の子にとって汗の匂いは天敵なのです!」

「俺は好きだけどなぁ。じゃあ、降りて離れるか?」

「………このままがいいです」


 何だこの可愛い生き物は。

 俺をキュン死させるほど可愛い生き物が脚の上に座ったまま、恥ずかしそうにもたれかかってきた。お尻や太ももなど、柔らかな肌の感触が伝わってきて気持ちいい。

 しっとりと濡れた肌をスゥーッと撫でる。リリアーネはビクゥッとしながらも拒絶はしない。首筋に息を吹きかけたら、くすぐったそうに身をよじらせた。


「もう…くすぐったいです…」

「ごめんごめん。リリアーネが可愛すぎてつい」

「可愛いって言ったら何でも許されると思っていませんか? 女の子は感情にも鋭いのですよ」

「可愛いよ」

「ひぅっ!? 耳元で囁くのは反則です! はぅっ…首筋に吸い付かないでくだしゃい…」


 甘い汗でしっとりと濡れたリリアーネの首筋に吸い付いて、カプカプと甘噛みする。

 リリアーネは若干Mっけがある。軽く歯形がつくくらいがいいらしい。ピクピクと軽く痙攣しながら、甘い嬌声と熱い吐息を漏らす。

 リリアーネの反応と甘噛みを楽しんだ俺は、ゆっくりと吸い付いていた肌から口を離す。綺麗な肌に若干歯形の赤い跡がついている。


「はぁ…はぁ…シラン様!」


 潤んだ蒼玉サファイアの瞳で可愛らしくキッと睨まれた。軽く息も荒げている。

 でも、可愛いだけで全然怖くない。


「リリアーネはこれを望んだんじゃないのか?」

「……望みましたけど」


 うむ。正直でよろしい。二人きりだから沢山可愛がってあげよう。

 オマケとしてちょこっと時間を狂わせようっと。たくさんイチャイチャしないとな。

 俺はリリアーネとイチャラブを続ける。


「リリアーネって俺が他の女性と関係を持つのに寛容だけど、偶に怒るよな? その基準って何だ?」


 二人きりだし、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。

 リリアーネは俺が他の女性と喋っている時に、怒る時と怒らない時があるのだ。


「シラン様が責任を取ろうとせずに女性を口説いていた時に怒りますね。女性を口説くならその先の責任まで取ってください。口説くだけ口説いて女性をその気にさせて、何もしないなんて無責任すぎます!」

「ご、ごめんなさい」


 プンプン怒っているリリアーネの迫力に気圧されて、俺は思わず謝ってしまう。

 女性と出会ったら褒めて優しくしろ、と小さい頃から母上に教えられたことを実践しているだけなんだけど。あんまり口説いた覚えはないんだけど。


「シラン様は無意識に口説いてくるからびっくりします。不意打ちは卑怯です」

「リリアーネは婚約者なんだから、沢山口説いてもいいだろう?」

「私やジャスミンさんにはいいですが、シラン様はランタナさんも口説いていましたよね?」


 あぁー。ランタナとは今朝一緒にお風呂に入ったり、瞳を琥珀アンバーって言っちゃったな。湖で出会った女性にも紅榴石ガーネットって言ったなぁ。

 よく考えたら口説いてるな、俺。無意識に口説いてた。


「以後気をつけます」

「はい。気をつけてください」


 振り返っているリリアーネがニッコリと微笑んだ。そして、何故か蒼玉サファイアの瞳を逸らして、それに、と小さく呟いて話を続ける。


「それに…偶に拗ねたほうがシラン様に可愛がってもらえると教えてもらったので」

「誰に!?」

緋彩ヒイロさんです」

「あいつかぁ~!」


 確かにその通りですけど! 俺の好みにクリティカルヒットするし、ご機嫌取りも含めて滅茶苦茶可愛がりますけど!

 ………後で緋彩にご褒美をあげよう。


「というわけで、拗ねます」


 なんかリリアーネが宣言して、可愛らしくムスッと拗ねた。頬もぷくーっと膨らませている。

 ちょっと違う気がするけど、可愛いからこれはこれでありです。

 膨れた頬をツンツンと指で突く。


「今は二人きりだから拗ねる必要はないんじゃないか? 普通に甘えたら?」

「あっ、それもそうですね。じゃあ、甘えます。シラン様、沢山可愛がってくださいね」

「もちろん喜んで」


 リリアーネの唇に優しくキスを施した。綺麗な蒼玉サファイアの瞳がウルウルと潤む。

 俺はリリアーネをたくさん可愛がり、二人きりの空間の中で、心行くまでイチャイチャを続けていた。

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