第81話 夜のお散歩
「いやっふぉ~!」
『ふぅ~~~~!』
『い、いえ~い?』
夜空にテンションMaxの俺の声が響き渡り、頭の中には同じくテンションMaxではしゃぐ声と、いまいちノリノリになりきれていない声が聞こえる。
今日は満天の夜空だ。星がキラキラと輝いている。絶好の夜のお散歩日和だ。だから、屋敷をこそっと抜け出して、夜の散歩に出かけたのだ。
ランタナは明日から出かけるときは必ず報告しろって言ってた。なら、今日のうちに出かける時は報告しなくていいよね!
俺は純白の
錐揉み状に回転したり、背面飛行したり、宙返りしたり、アクロバット走行を続けながら、俺とピュアは歓喜の声を上げる。
「もっとだもっと!」
『はいな! とりゃぁ~!』
「いぇぇえええええええ!」
ピュアが虚空を蹴り、空中を駆け抜ける。
スピードは軽く音速を越えている。魔法で衝撃波とかをかき消しているから全力で走ることができるのだ。周囲の景色がぼやけて次から次へと過ぎ去っていく。
インピュアは少し呆れて俺たちから距離を取った。俺とピュアは気にせずはしゃぎ続ける。
「ほらほらインピュア! もっとテンション上げていこう!」
『そうだそうだー! テンション上げろー!』
『嫌よ。これが限界』
「えっ? でも、ベッドの上ではもっと…」
『うるさい! 黙って!』
「うぎゃっ!」
インピュアが頭を勢いよく振り、漆黒の角が俺を直撃した。ピュアの背中から弾き落とされて地面に落ちていく。
高空を走っていたから、地面に叩きつけられるまで時間がある。
ぐんぐんと迫ってくる地面。ちょっと怖い。
「うぉぉおおおおおお! お? これはこれでスリルがあって楽しいかも」
真っ逆さまに落ちながら、俺は意外と楽しいことに気づいた。いざとなれば魔法を使えばいいし、安心して紐無しバンジージャンプを楽しむ。
地面にぶつかるギリギリのところで俺の身体の下に純白の物体が割り込む。
俺はピュアの背中に掴まった。
危機一髪。地面に激突するのは防がれた。
ちゃんと背中に乗って掴まり、ピュアが急上昇を始めた。
「助かった。ありがとう」
ピュアの純白の首筋を撫でる。触り心地がとてもいい。ピュアも撫でられて気持ちよさそうだ。
『どういたしましてー!』
『ちっ! 落ちればよかったのに』
インピュアが心底残念そうに冷たく舌打ちをした。
俺が傷ついて泣く………演技をする。
「うぅ…インピュアさんが俺を虐めるよぉ…。俺の心が傷ついたよぉ~」
『インピュアさいてー!』
『えっ…ち、違うの! 今のは冗談! 冗談だから! 落ちればいいなんてこれっぽっちも思ってないから!』
あっさりと騙された純真なインピュアがあたふたと慌て始める。
やっぱりインピュアを揶揄うのはとても楽しい。可愛いなぁ。
「インピュアがぁ…」
『そ、そんなつもりなかったもん! 傷つけるつもりなんて全く…』
「滅茶苦茶可愛い!」
『………………………………はぁ?』
感情が抜け落ちたインピュアのちょっと間抜けな声が頭の中に響く。
状況が理解できないって感じだな。絶賛混乱中らしい。
「インピュアはやっぱり可愛いなぁ。実に揶揄い甲斐がある」
『可愛いよねー!』
ピュアも俺の気持ちがわかってくれるか。
おっ? インピュアの身体がプルプルと震え始めた。
ちょっと揶揄いすぎたかなぁ?
俺とピュアをキッと睨み、怒声が上がる。
『二人とも! ぶっ飛べ!』
「うぎゃっ!?」
『うげぇっ!?』
俺はインピュアの角で吹き飛ばされ、ピュアは後ろ足で蹴り飛ばされる。
痛いなぁ。でも、インピュアの照れ隠しだから許せる痛みだ。
音速を越えた速度で身体が飛んでいく。
俺の身体が浮かんでいた小さな雲を突き抜け、吹き飛ばしてしまう。
少し飛んだところで、漆黒の物体が俺を助け出し、空中を駆け始める。
『あぁー! インピュアずるーい!』
『ずるいって何よ! そろそろ私の番でしょ! いい加減に交代しなさい!』
ブーブー、とブーイングするピュアだったが、大人しく俺が乗ったインピュアの隣を並走する。そろそろ交代の時間だったのだ。
インピュアはピュアと違ってアクロバット走行はしない。優雅に空を駆ける。
首筋を優しく撫でると、デレッデレになったインピュアの心が俺の心に直接伝わってくる。
相変わらず可愛い子だなぁ。
『おっ? 良い獲物発見!』
ピュアが空を飛ぶ何かを発見した。よく目を凝らすと、硬い鱗を持ち、ゴツゴツした翼で力強く飛翔する
ちなみに、竜種は知能が無く、荒々しい闘争と殺戮本能しかないでっかいトカゲで、龍種は知能が高くて最強の生物と言われている。意思疎通もでき、ドラゴニア王国には白銀の龍が崇められ、国内にある聖域と呼ばれる場所に住んでいると言われている。
簡単に言うと、竜は倒して良くて、龍はダメだ。
そもそも龍種を倒せる人はほとんどいないだろう。
ピュアが
純白の角から禍々しいコールタールのようにドロッとした黒い物体が発射された。
『 《
黒い塊が
ピュアお得意の呪いだ。《
数秒で呪いが体を蝕み、十数メートルあった
「ピュア、ナイスだ!」
『えへへ~』
ピュアはとても嬉しそう。ピュアも可愛いなぁ。でも、あまり褒めすぎるとあちこちに呪いを放ってしまいそうだから、褒めるのはこれくらいにしておく。
というか、純潔と癒しを司ると言われる
絶対この二人が逆なだけだよなぁ。双子の姉妹っていうのが原因か?
まあ、詳しいことはいいや。二人は可愛くて強くて頼もしい。俺にはそれだけで十分だ。
インピュアに乗って夜空の散歩を楽しむ。
風を切って星が輝く空を優雅に走るインピュアはとてもかっこよく思えた。
隣のピュアは俺たちの周りを華麗にアクロバット走行する。
純白と漆黒の流星が空を駆け抜ける。
そろそろお散歩の時間も終わりだ。無事にローザの街近くに到着する。
『あらっ? あれは
ピュアが山の中を彷徨う数体の
これが冒険者ギルドで目撃報告にあった
周囲にはダンジョンの気配はない。巨大な魔力の塊は感じるけど、これはたぶん地脈が滞留してできたマグマだまりだ。温泉地ではよくあること。
「周囲には人はいない。潰しておくか」
『よっしゃ! それ~!』
『あっ! ずるい!』
我先にと、ピュアが漆黒の砲弾をゾンビに向かって発射する。数体のゾンビが苦しんだり、身体が崩壊したり、パタリと倒れて動かなくなる。
呪いが効かないはずの
んっ? ゾンビの身体が残らない。全て消えていく。
誰かが召喚したのか? それとも呪いのせいか?
『
『一人だけずるいじゃない!』
『ちゃんとインピュアの分も残してあげたよ?』
『少なすぎ! ピュアはさっき
『早い者勝ち~! インピュアが倒さないのなら私が倒すよ~』
『ダメ! 私が倒すの! 《
漆黒のインピュアの身体の周囲が白く輝き始める。二本の角の間に眩しい光が集まり、神聖で静謐で
インピュアの得意技であり、
光に撃ち抜かれたゾンビたちは、一瞬で昇天し、塵一つ残さず消え去った。
インピュアの、どやぁ、という得意げな感情が伝わってくる。
「よくやったぞ!」
俺は乗っているインピュアの身体を撫でまわす。
インピュアはぷいっと顔を逸らす。
『べ、別に褒められたって嬉しくなんかないんだからね!』
でも、超嬉しがっているのが心に伝わってくる。
インピュアは超ツンデレだ。表面上はツンツンしてるけど、心の中では熱烈なラブコールをするくらいデレッデレだ。
『マスター。私も褒めて褒めて―!』
甘えん坊のピュアも顔をすり寄せてきたから優しく撫でてあげる。
ピュアも可愛いなぁ。
俺は二人の気が済むまで空中でナデナデを続け、今度は近衛騎士団にバレないようにひっそりと屋敷へ戻るのであった。
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