第76話 使い魔集合

 

以前、溶岩牛の使い魔をマグリットと書いていましたが、正確にはマグリコットでした。

訂正しました。

(2020/2/5)

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「じゃあ、俺は少しの間休むから」

「はい。我らは部屋の外で護衛をしております。ゆっくりとお休みください」

「へーい」


 生真面目なランタナが数人の近衛騎士を連れてドアの前に立つ。

 仕事熱心なのはいいのだが、やっぱり肩が凝るというか、真面目過ぎ。いや、これが普通なんだけどさ。

 この王族所有の屋敷には強力な結界を張っているから、部屋の前で護衛する意味がない。近衛騎士たちには言ってないから仕方がないけど。

 荷物搬入の手伝いをして疲れきった体を引きずり、俺が泊まる部屋に入っていく。

 部屋の中にはソラを始めとする使い魔のメイドたちや、婚約者であるジャスミンとリリアーネがいた。

 ジャスミンの近衛騎士としての仕事は終わり。今は幼馴染兼婚約者兼公爵令嬢だ。


「シラン、お疲れ」

「疲れを和らげる紅茶だそうです」

「二人ともありがとう。ソラもサンキューな」


 労ってくれる愛しき婚約者二人と、紅茶を準備してくれたソラに感謝を述べる。

 俺は本当に素晴らしい女性たちに囲まれているな。

 部屋には近衛騎士はいないため、俺の使い魔たちは自由に過ごしている。

 広い部屋の中でお菓子やお茶を持ち合わせて女子会を始めたり、緋彩ヒイロ月蝕狼ハティはソファに横になって寝ている。生真面目で、何だかんだ面倒見のいい日蝕狼スコルが二人に毛布をかけた。

 さてさて。そろそろ王都に残った使い魔たちも呼び寄せますか。


「ハイド。ゲートを開くぞ」

「かしこまりました」


 俺は視点を王都の屋敷へと転移させ、誰もいない場所を見定めて結界を張る。当然、こっちの部屋の中にも結界を張る。これで準備は整った。


「《シャドウ》」


 結界の中を真っ黒な影がせり上がり、扉のような形になる。

 ハイドの力により影と影を繋げ、簡易ゲートが出来上がった。

 俺は屋敷にいる使い魔に念話を繋げる。


『こちらシラン。無事にローザの街に到着しました。俺の部屋にゲートを作ったから、今日来る予定の人はこっち来てねー』

「よっしゃ! 一番乗り!」


 うおっ! びっくりしたぁ。影の中から勢いよく人影が飛び出してきたのだ。

 両手に大量の服を持っている十代後半の少女。髪は赤と黒のメッシュ柄だ。

 服のデザイナーをしているネアだ。俺に気づいて手を振る。


「やっほ、シラン君! 頼まれた品は出来上がりやしたぜ!」

「何だよそのキャラ…。まあいいや。ありがとうネア」

「お礼を楽しみにしてるね! ふぁ~ねむねむ。ちょっと張り切って作り過ぎちゃった。ちょっと寝る。アレには絶対起こして。じゃあ、おやすみ~」


 大きな欠伸をしたネアは、緋彩ヒイロ月蝕狼ハティが寝ているソファに潜り込むと、すぐに寝息を立て始める。

 影のゲートの中から続々と使い魔たちがやってくる。

 ゲートの中から巨大な双丘を持つ美女が二人現れた。煮えたぎる溶岩のような鮮やかなオレンジ色の髪と瞳を持つマグリコットと少し紫がかった濃ゆいピンク色の髪と瞳を持つカラムだ。


「シー君! 逢いたかった!」

「ちゃんとご飯食べてる?」

「うぷっ!? 食べてる! 食べてるから! もごもご…」


 二人に抱きつかれて顔が柔らかいものに覆いつくされる。いい香りがして傍から見れば至福の状況だが、息ができない! 苦しい! 死ぬ! ギブアップ!


「たった数日だけど心配したわ!」

「痩せてない?」

「ふがふが!」

「マグリコット、カラム。ご主人様が死にそうです」

「「あっ!」」

「ぷはっ! じ、じぬがどおもっだ…ソラ、ありがと」


 やっと顔が解放された。気持ちよかったんだけど死ぬかと思いました。

 マグリコットとカラムが俺の身体をペタペタと触って痩せていないか確認してくる。

 そんなに心配しなくてもちゃんと食べてるから! 数日で劇的に痩せたりしません!

 使い魔とのやり取りに慣れたジャスミンが優雅にカップを傾けながら、ふと何かを思い出す。


「そういえば、二人は溶岩牛マグマ・カウ宝石山羊ジュエル・ゴートなんだっけ?」

「そうだぞ。二人は…あれっ? 結構古参だな」

「そういえばそうね。出会ったのはもう十年近く前になるかしら?」

「あの時はマギーが本っ当に迷惑だった」


 あぁ…あれは本当に迷惑と言うか大変だった。

 マグリコットがシュンと小さくなって、大変申し訳ございませんでした、と謝っている。

 ジャスミンとリリアーネは興味津々だ。


「よろしければお聞かせ願えませんか?」

「いいぞー。二人は約十年前に起きたヴォルカノ火山の大噴火を覚えているか?」

「あっ! 私覚えてる! 確か、山のほとんどが吹き飛んで、周囲に甚大な被害が起きた大災害よね」

「私も覚えています」

「丁度誰かさんが行方不明になってて、私、滅茶苦茶心配したんだけど。今思い出してムカついてきた」


 ヤバい。ジャスミンの紫色の瞳に怒りの炎が燃えている。

 その節は、大変ご心配をおかけしました。

 俺は声を裏返しながら説明を続ける。


「そ、その火山の噴火はマギーが引き起こしたんだ」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。火山の中で眠っていたところ、小うるさい火竜が火口に住み着いてしまって、ついつい吹き飛ばしてしまいました」

「危うく近くに住んでいた私も吹き飛ばされるところだった。力加減を考えて」

「ご、ごめんなさい…」


 あれは俺も驚いた。近くにいたら急に山が吹き飛ぶんだもん。溶岩が流れたり土石流が発生したり、爆発の衝撃波が襲ってきたり大変でした。


「ですが、あの災害は奇跡的に死者はいなかったはずでは?」

「そうよね? ………………ってまさか!?」


 ジャスミンとリリアーネの見開かれた瞳が俺に突き刺さる。

 俺は得意げに胸を張ってドヤ顔をする。


「ご想像の通り、頑張りました! ………………俺の使い魔が」


 はぁ、とジャスミンとリリアーネが少し落胆する。

 何故だ! 俺の使い魔は有能なんだぞ!


「シランじゃないのね…」

「当時の俺は十歳にもなってないぞ! 何をしろって言うんだ!」

「それは……そうなんだけど」

「俺の使い魔たちはすごいんだ! ほらマギーも落ち込まなくていいんだぞ」


 反省しているし、故意じゃないから気にするな。

 俺はマグリコットの頭をナデナデして慰める。

 少しずつ癒されて、マグリコットの顔に笑顔が戻る。


「シー君のために美味しいご飯を作るわね! それが私の罪滅ぼしよー!」

「私も。私は身体も使って身も心も癒してあげる」

「それは楽しみだな」


 俺はマグリコットとカラムの二人とイチャイチャする。

 羨ましそうに婚約者二人が見つめてくる。

 そんなに混ざりたいのならカモーン!

 ジャスミンがぼそりと呟いた。


「………だらしない顔ね。巨乳好きの変態」


 うっさい! 男は皆女性の胸が大好きなんだよ!

 でも、俺は声高々に言いたい。


 胸に貴賤はないのだ!

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