第77話 調査(という名目のデート)開始

 

 ローザの街に到着した俺たちは、部屋でのんびりしていた。

 ジャスミンとリリアーネも使い魔たちと楽しげにお喋りしている。

 穏やかな時間が過ぎていく。

 うーん…旅行らしいと言えば旅行らしいけど、そろそろいいかな?


「ジャスミン! リリアーネ!」

「突然なに?」

「どうかしましたか?」

「調査に出かけよう!」

「はっ?」

「へっ?」


 キョトンとするジャスミンとリリアーネの顔が少し間抜けで可愛い。

 俺は周りにいる使い魔たちに指をスナップして合図をする。


「諸君! 頼んだ!」


 あらかじめ打ち合わせしたとおりに使い魔たちが動き出す。

 ジャスミンとリリアーネを拘束して服を脱がせていく。

 出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる黄金比の身体。二人ともスタイルがいい。

 実にいい光景だ。眼福です。

 抵抗をしていたジャスミンが、俺の視線に気づいた。


「ちょっと! 見るなっ!」

「ふがっ!?」


 弾丸のような勢いで何かが飛んできた。油断していた俺の顔面に直撃する。

 思ったほど威力はなかった。軽いもの。というか、布? なんかいい香りがする。

 飛んできたものを確認すると、純白の布がぴろ~んと広がった。


「こ、これは! ブラジャーだとっ!?」

「きゃっ! なんで持ってるのよ! 見るな! 嗅ぐな!」

「嗅いでない! ジャスミンが投げつけてきたんだろうが!」


 そもそも下着くらい何度も見てるし、ジャスミンの身体の隅から隅まで知ってるぞ! ブラくらいただの布だと思うのだが…。

 あっでも、俺を誘惑するジャスミンの甘い香りと温もりが…。

 使い魔に囲まれたジャスミンが俺の心を読んでキッと睨む。


「このばかぁー! 変態王子!」

「ふぎゃっ!?」


 空気の弾が俺の額を直撃した。

 くぉー! 痛い痛い! ったぁーい! 容赦なく魔法をぶつけたな!

 俺がジャスミンのブラを掴んだまま、額を押さえて床でのたうち回る。

 しばらくの間悶絶し、ようやく痛みが和らいだと思ったら、二人の準備が整っていた。

 お忍び用の洋服に身を包んだ二人。今日は冒険者風だ。変装用の服なのだが、二人の美しさが隠しきれていない。

 明らかに貴族だとわかってしまうが、ここはよく貴族も利用するリゾート地だ。大丈夫だろう。


「俺の可愛い婚約者さんたち? 準備はよろしいですか?」

「準備って……あんたねぇ」

「ふふふ。お忍びデートですね」


 ジャスミンは呆れ顔だが、嬉しそうに口元が緩んでいる。リリアーネはノリノリだ。

 でも、リリアーネさん。お忍びデートとはちょっと違うぞ。


「今から行くのはお忍びデートじゃなくて、ただの調査なんだ。だから、ランタナたちには教えなくていいんだ」

「なるほど! デートじゃなくて調査なんですね!」

「屁理屈ばかり……」

「リリアーネは行く気満々だが、ジャスミンは行きたくないのか?」

「………………行く。でも、隊長に怒られるのはシランだけね」


 それくらい覚悟の上だ。愛しい二人とデート……じゃなくて調査に行けるなら、お説教でも何でも受けてやる。

 嬉しさが隠しきれてないジャスミンがスゥと手を差し出してきた。

 俺は訳がわからずジャスミンの手を握ってみる。


「違うわよ! いや、手を繋ぎたくないとかそういうのじゃないんだけど…返して」

「へっ? 返す?」


 恥ずかしそうにもじもじしていたジャスミンが、顔を赤くしながら潤んだ瞳で睨んでくる。でも、ただ可愛いだけだ。


「反対の手に握ってるもの! 私の下着を返して!」

「お? ……おぉ! ごめんごめん。ということは、今のジャスミンはノーブラ…?」

「ちゃんとつけてるわよ!」


 ちっ! 少し期待したのに!

 ジャスミンが俺に手から純白のブラを奪い取り、俺の使い魔に洗濯をお願いした。

 まあいいや。エロいことは夜にしましょう。今からはデート……じゃなくて調査だ!

 俺は部屋の窓を開け放つ。そして、婚約者二人の手を取った。


「準備はいいか?」

「はい!」

「ええ」

「よしっ! じゃあ、みんな! こっちは任せた!」


 使い魔たちに声をかけると、皆一礼したり手を振ったりして送り出してくれる。

 本当にいい子たちばかりだ。あとでたっぷりとお礼しないとな。

 ジャスミンとリリアーネに魔法をかけて気配を消し、宙に浮かせる。そして、窓の外に飛び出した。

 屋敷の塀を飛び越えるため、少し高く飛ぶ。すると、青と白の綺麗な街並みが見えた。あまりに綺麗だったため、ちょっと一望できるくらい上昇する。

 二人が俺に抱きついたまま、眼下に広がる美しい街並みにうっとりとした声を漏らす。


「………綺麗」

「素敵ですね」

「夜にライトアップされたらもっと綺麗かも…」

「わかります。絶対に綺麗ですよ」


 ジャスミンとリリアーネがねだるようにじっと見つめてきた。

 上目遣いの蒼玉サファイア紫水晶アメジストの潤んだ瞳。

 あまりの美しさと可愛さに見惚れ、心臓がドクンと跳ねてしまった。

 可愛い無言のおねだりですか。俺の好みを的確に突いてくるようになりましたね。

 我が婚約者二人の願いだ。叶えてあげよう。


「夜を楽しみにしてて」


 二人に囁くと、嬉しさと恥じらいを混ぜた可愛らしい顔で小さくコクリと頷いた。

 ぐはっ! 二人は俺をキュン死させるつもりか!

 耐えられなくなる前に、この状況を何とかしなくては!

 地上に降りて、デート…じゃなくて調査に出かけたら二人は俺から離れるだろう。

 我慢できているうちに、一刻も早く降りよう。

 魔法を操り、スゥーッと地面に降下して、ふわりと衝撃が無いように着地する。

 俺に抱きついていたジャスミンとリリアーネが予想通り離れた。


「では、デート……じゃなくて調査に出かけますか」


 ちょっとホッとしながらも、我慢できてえらいと自画自賛していたら、予期せぬ状況が俺を襲った。

 俺の両手が握られたのだ。

 リリアーネははにかみながらナチュラルにそっと握ってきて、ジャスミンはおずおずと触れて、覚悟を決めたようにギュッと握ってくる。

 ジャスミンとリリアーネの性格が表れている握り方で、あまりの可愛さに俺は悶えてしまう。

 二人はどれだけ俺を困らせればいいんだよ!


 こうして、前途多難な調査という名目のデートが開始された。


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