第50話 アイデア

 

「ふぅ~む。どうにかできないか?」


 俺は今、盛大に悩んでいた。

 テーブルに置かれていたのは、リンゴくらいの大きさの、見た目はメロンのような果実。

 でも、明らかに普通のものではない。

 神聖な力と生命力と魔力満ち溢れた水晶クリスタルのような綺麗な輝きを放つ果実だ。

『世界樹の果実』。それがこの果物の正体だ。

 俺はこの果実を生み出したドМの雌豚………ではなく、世界樹のケレナの背中に座って深く考え込んでいた。

 四つん這いになって俺の椅子になっているケレナは、顔を朱に染めて陶酔し、瞳を蕩けさせ、肌を火照らせ、はぁはぁと熱い息を荒げ、口からは涎を垂らし、時折身体はピクピクと痙攣させている。

 子供に見せたらいけない変態だ。


「はぁ…はぁ…ごしゅじんしゃまぁ~♡」

「黙れ! 考えの邪魔をするな!」

「あひぃぃぃいいいんんっ♡」


 ペシーンッとお尻を叩くと、痛みと切なさと快楽が入り混じった嬌声が聞こえた気がするが、俺は変態のことを頭から追い出す。

 今考えているのはこの世界樹の果実を液体にできないかってことだ。

 世界樹の果実は解呪に秀でているが、ほとんどの毒に対する解毒効果もある。

 少し前、毒を盛られたリリアーネにこの果実を使おうと思ったが、食べられる時間も様子もなかったため使えなかったのだ。

 液体にしたらすぐに使えたのに…。

 液体なら『世界樹の樹液』というアイテムもあるんだが、俺はその世界樹をじっと見る。


「はぅっ♡ ごしゅじんしゃまが冷たく蔑んだ瞳で見下してくりゅ~♡ あへぇ~♡」


 トロ~ンと恍惚し、気持ちよさで涙と涎が垂れ落ちる。どこからかピチャピチャと水の音も聞こえる。

 この涎などが『世界樹の体液』もとい『世界樹の樹液』なのだ。

 流石にね、これを使うのは不味いでしょ。

 俺はお仕置きとしてケレナのお尻をペシペシと叩き、再び果実に視線をやる。


「ふむ。果実を少しでも傷つけると急速に魔力が抜けていくからなぁ。液体にしたら長期保存には向かないんだよなぁ」

「お届け物よ!」


 おっ? ツンデレのインピュアが手に紙を持ってやってきた。

 俺と果実とドМの変態を見て、ゴミを見る目でドン引きする。


「うわぁ…」

「おっふぅ~♡ こりぇこりぇ~♡ この視線がたまりゃないにょ~♡」

「んっ? インピュアどうかしたのか?」

「ち、近寄らないで変態! 変態が移るわ!」

「俺は変態じゃねぇーわっ! 移らねーよ! それに変態はこの雌豚だけだっ!」


 ズサッと勢いよく俺から距離を取ったインピュアに思わず怒鳴った。

 腹いせに椅子をパシパシと叩く。椅子が何やら嬉しい悲鳴を上げていた気がするが気のせいである。全て気のせいなのだ。

 恐る恐る近づいたインピュアが紙の束を手渡してくる。


「ファナから届いた書類よ」

「ありがとう、インピュア」


 俺はもじもじとしているインピュアの手を取って、自らの脚の上に座らせる。

 そして、ギュッと抱きしめて頭を撫でてあげる。

 二人分の重さが加わって気持ちよくなっている椅子のことは無視する。


「べ、別に頭を撫でられても嬉しくなんかないんだからねっ!」

「じゃあ、撫でなくていいか? ハグもしなくていいのか?」

「………………続けなさい。ばか…」


 インピュアさんは今日もツンデレ。

 必死で顔を逸らしているが、顔が真っ赤になっているし、僅かに見える口元が緩んでいる。

 俺から丸わかりだ。可愛いなぁ。


「それで? 何を悩んでいたの?」

「んっ? 世界樹の果実を液体にできないかなぁって。ジュースみたいに」

「あら。そんなの簡単よ。魔力で覆えばいいじゃない。こんな風に」


 インピュアが世界樹の果実の周りを魔力で覆い、それを搾ってジュースにする。

 コップに注がれた世界樹の果実のしぼりたてジュース。ちゃんとコップも魔力で覆われている。

 ジュースからは魔力が抜けた様子は見えない。神聖さと生命力と魔力を感じる。

 試しに飲んでみるとちゃんと世界樹の果実の効力を感じられた。


「魔力で覆ったまま異空間に収納すれば結構長く持つわよ」


 別に大したことではない、とすまし顔のインピュアに、嬉しくなった俺は思わずキスをしてしまう。


「ありがとうインピュア! 悩みが解決したよ!」

「なぁっ!? い、いいいい今何を!?」

「キス。嫌だったか?」

「………………別に嫌じゃない」


 真っ赤になって恥ずかしそうにしているインピュア。とても可愛い。

 嫌じゃないそうなので、お礼に沢山キスをしちゃいます!

 恥ずかしそうにしながらも、キスを拒まないインピュアとイチャイチャしていると、ドアを開けて小柄な少女が入ってきた。

 紫色の瞳に白衣の少女というか幼女。ビュティだ。


「………シラン。ちょっと相談が…おぉー? なんかあった?」

「インピュアにご褒美中」

「は、離しなさい! 私を離してーっ!」

「嫌!」


 羞恥で首まで赤いインピュアが、ビュティが室内に入ってきたことで慌てて俺の膝から逃げようとしたので、抱きしめて捕獲する。バタバタと暴れるが気にしない。

 暴れるインピュアを抱きしめながら、眠そうな瞳でボーっと立ち尽くすビュティに問いかける。


「ビュティどうした? 相談って言ってたけど」

「………おぉ? おぉー! そうだったそうだった。美容品をもっと効能を高めたいんだけど、行き詰まっている」

「美容液とかシャンプーとか?」

「………そういうこと。なんかアイデアはない?」


 ふむ。現状で結構性能はいいと思うんだけどなぁ。

 俺の使い魔たちはもちろんのこと、美女のジャスミンとリリアーネ嬢が最近ちょっと綺麗すぎて俺の理性が危ない。


「どんなものを使っているんだ?」

「………ケレナとか緋彩ヒイロ、インピュアにも手伝ってもらっている」

「私は回復向上の付与を」

「おほぉぉおおおおおおおおおっ♡」

「回復解呪系最上位の三人を使ってまだまだ効能を高めたいのか……そして雌豚は黙れ!」


 呆れと感心のため息をつく。

 俺の腕の中で真っ赤になっているインピュアがぼそりと呟く。


「いっそ全部まとめちゃえば? 不死鳥の力と世界樹の力を」


 眠そうに半開きだったビュティの瞼がカァッと見開かれた。


「………盲点だった! 混ぜて使ったことない!」


 今まで別々に使っていたのか。

 普通伝説上のアイテムを混ぜようなんて考えないからなぁ。

 俺からも一つアイデアがある。


「他にも肌や髪に使う美容品じゃなくて、口から飲む美容液みたいなのはないのか? 体内から綺麗に、みたいな。毒素排出デトックスとか生命力の活性化とか」

「………それ採用! なんてこと…薬を作っていながら思いつかないなんて…! 毒素排出デトックスなら不死鳥の緋彩の力がいい。でも、生命力の活性化なら世界樹のケレナ。よしっ! 今すぐ取り掛かる!」


 紫色の瞳を見開いて、珍しくビュティがやる気を出している。


「みんなどうしたのー?」


 ちょうどいいタイミングで赤い髪のメイド少女、緋彩がやってきた。

 ビュティが緋彩を指さし、叫ぶ。


「………かくほー!」

「イエスマム!」


 俺は虚空から縄を取り出し緋彩の身体をグルグル巻きにする。

 縛られた緋彩は床に倒れた。


「えっ? なになにっ!? こんな縄引き千切って……あ、あれっ? 切れない? じゃあ、燃やして……って、燃えないっ!? なんでっ!?」

「ふっふっふ……ソラと一緒に開発した『使い魔用お仕置き緊縛縄』だ!」

「えぇー! 解いてよー! 私が一体何をしたのっ!?」

「緋彩さぁ~ん? 過去を振り返ってごらぁ~ん? ほとんど緋彩に使うために開発したんだぞ!」

「ぴゅ~~♪ ぴゅ~~♪」

「口笛を吹いている時点で心当たりがあるようだな! お仕置きだ! ビュティ! 好きにやっちゃって!」

「………そのつもり。あと、そこのケレナも縛って。連れて行くから」

「りょうかーい!」


 俺は椅子にしていたケレナを緊縛縄でガッチガチに縛る。縄を自由自在に操って、ケレナの豊満な身体に亀甲縛りを施す。

 何故縛り方を知っているのかは秘密だ。決して頻繁に変態を縛っているからではない。決して違う。違うのだ。

 ドМの変態が恍惚として、声も上げられないくらい気持ちよさそうにしていたのは気のせいである。絶対に気のせいなのだ。

 縛った縄をビュティに渡す。

 ビュティは機嫌良さそうに縄を持って、二人を引きずりながら自分の研究室に戻っていく。


「あいたっ! ちょっと引きずらないで! いたっ! あちこちぶつかってるからぁ~! ご主人様助けてぇ~!」

「おほぉぉおおおおおおおおお! 亀甲縛りのまま雑に引きずられる……とてもいいぃぃぃいいいいい♡」

「ビュティ! 結果を楽しみにしてるぞー!」

「………んっ! 任せて!」

「嫌ぁぁああああああああああ!」

「アヘェ~~~~~~~~~~♡」


 緋彩とドМの声がだんだんと小さくなって消えていった。

 しばらく二人は実験台かつ材料となるだろう。どうなることやら。

 俺はプルプルと震えている腕の中のインピュアにキスをする。

 二人きりになったことで、上目遣いでスリスリと甘えてくるインピュア。


「いいアイデアを思いついたインピュアにはご褒美の追加だな」

「………………うん!」


 この後、インピュアと二人きりでイチャイチャをし続けた。

 デレッデレに甘えてくる彼女はとても可愛かったです。


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