第47話 美姫の裸
俺は屋敷の中を歩く。ちょっと引きこもっているバカにお仕置きしないといけないのだ。
目的の部屋についた。取り敢えず、ドアをノックする。
「ネア! 俺だ!」
「はーい! どうぞー!」
「えっ!? ちょっ!?」
「あっ! ふぇっ!?」
なんか部屋の中から慌てる声が聞こえたけど、もう遅い。俺はドアを開けてしまった。
たくさんの糸や布、服を着たマネキンが鎮座しているネアの部屋。
血走った瞳で厭らしく笑い、涎を垂れ流しながら、世界的デザイナーのネアが裸の美女を巻き尺で測っている。
丁度スリーサイズを測っていたらしい。
ドラゴニア王国の中でも有数の美女である《
近衛騎士団に所属するジャスミンは細身でしなやか。無駄な脂肪は一切存在しない。ぷりんっと張りのある形の良い胸。くびれた腰回り。男を知らない秘密の花園。艶めかしい太ももが眩しい。
リリアーネ嬢は俺に背を向けて、軽く振り向いた格好で固まっている。ジャスミンよりも胸が大きいらしい。柔らかそうだ。女性らしい丸みを帯びた身体。きめの細かい素肌。シミ一つない背中。形の良いお尻。
女性の裸を見慣れている俺でも、思わず見惚れてしまうほど美しかった。
「やあ、シラン君」
ニヤニヤ笑っているネアの声で我に返った。ジャスミンとリリアーネ嬢の硬直も解ける。
「えっ? えっ!? シ、シラン!?」
「シラン様!?」
「や、やあ! ネア、ジャスミン、リリアーネ嬢。元気?」
俺、何を問いかけているんだろう? 元気って……。
ジャスミンとリリアーネ嬢がハッと我に返って爆発的に真っ赤になった。
屋敷中に絹を裂くような悲鳴が響き渡る。
「「きゃぁぁあああああああああああああああああああ!」」
手で胸や股を隠し、しゃがみ込む。
俺からは二人のプリッとしたお尻が丸見えだ。
「何しに来たのよ! なんで入ってきたの!? 出て行って!」
「いや、二人が生きているかなって。一昨日の夜連れ去られたから。今日ジャスミンは登城しないといけないでしょ。ノックしたらネアが入っていいって言ったし……」
「えっ!? 嘘っ!? もうそんなに時間経ったの!?」
ジャスミンは咄嗟に窓を確認するが、残念ながらここは地下で窓はない。
俺の使い魔の中には時間を操る使い魔がいるから、部屋の中と外の流れる時間の速度が違うことがよくある。
ネアの部屋ももちろん時間が狂っている。
「シラン君どうだった? ボクからのプレゼントは。二人とも綺麗でしょ!」
ニヤニヤと笑っているネア。
俺は二人の全裸姿を思い出したり、今しゃがんでいる二人を眺めて、ネアにサムズアップした。
「最高だった!」
「でしょでしょ! すごいよー! 二人は逸材だよ! もう完璧! ボク、シラン君の使い魔になって良かったよ!」
「それは良かった。でも……」
俺は目にも止まらぬ速さでネアの真後ろに立つ。
そして、首筋を子猫のように持ち上げプラ~ンプラ~ンさせる。
「ネアさん? そろそろご飯食べてお風呂入って寝よっか?」
「うわぁ~ん! 良いところなのにぃ~!」
「だめ! 寝てからにしろ! ジャスミンも今から仕事だから!」
「えぇー!」
ぶーぶー、と仏頂面でネアがブーイングしてくる。
俺はぶら下げているネアにニッコリと微笑む。
「ソラとスコルにお説教されたい?」
「今すぐご飯食べてお風呂入って寝ます!」
ピシッとネアは敬礼して、あっさりと手のひらを返した。
ソラは使い魔の中で最強で最恐、スコルは生真面目。
大抵の使い魔にはこうやって脅せば大人しくなる。
「さてと、二人もご飯食べてお風呂に入ってくれ。準備してある」
「え、ええ。そうね」
「ありがとうございます。まさか一日経っているとは思いませんでした」
「シラン君も一緒に入る?」
「入らない! 俺にはやることがあるの!」
「えぇー!」
ぶら下げたネアをブラブラと揺らす。ネアは楽しそうな声を上げた。
何徹したかわからないけどテンションがぶっ壊れているらしい。
ケラケラと笑っていたネアがハッと何かに気づいて、スルッと俺の手の中から抜け出した。
「ちょっ!? ネアッ!? 逃げるな!」
「逃げないと巻き込まれるもーん!」
「巻き込まれる?」
訳がわからず首をかしげていると、怒気を含んだ冷たい声が聞こえてきた。
「シラン?」
「………………あっ」
しゃがんでいる裸のジャスミンの手のひらの上に轟々と暴風が吹き荒れている。
羞恥と憤怒と殺意のオーラが放たれている。
怒りと恥ずかしさで瞳を潤ませながら、キッと俺を睨んだ。
「あんたいつまでいるのよ!」
「ごめん! その物騒な魔法を止めて!」
「さっさと出てけー!」
片手で両胸を隠し、スッと立ち上がったジャスミンは俺に向かって暴風を放つ。
ジャスミン、下が隠せていない、と刹那の時間で思った俺は、ジャスミンの魔法に吹き飛ばされた。
ハンマーで殴られたような衝撃が襲ってくる。
急激な気圧の変化と爆風で、油断していた俺の意識が飛ぶ。
轟音が鳴り響き、俺が壁に叩きつけられた振動が屋敷を揺さぶった。
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