第45話 バレる


 レ、レナちゃんのファーストキスを不本意ながら奪ってしまったぁー!

 どうしよー!?


「………………ロリコン」


 インピュアさん! その冷たく蔑むのは止めてくれませんかね!?

 心が、俺の心が砕け散りそうだから!

 俺は最終兵器を投入させる。


「このレナちゃんの可愛さを見てください! 抗えますかっ!? 私は無理でした!」


 レナちゃんをインピュアたちに見せる。

 《パンドラ》の時の俺の一人称は”私”だ。

 結構言いづらいのは秘密。


「あっ! おねえたんたちありがとー!」


 にぱーっと微笑むレナちゃん。

 女性陣の胸がズキューンと貫かれ、はぅっと胸を押さえて崩れ落ちる。

 俺の使い魔を倒すとは流石レナちゃんだ。可愛い。

 俺の腕からレナちゃんの姿が掻き消えた。


「「「きゃー! かわいいー!」」」


 次の瞬間には女性陣に抱きしめられ、頭を撫でられ、頬をぷにぷにされている。

 レナちゃんは嬉しそうだから放っておくか。

 クイクイッと俺の服が引っ張られた。少年が服を掴んで俺を見上げていた。


「兄ちゃんたちは《パンドラ》なのか? あのSランク冒険者パーティの?」

「そうですよ。遅くなって申し訳ありません」

「謝らなくていい。レナを、オレを助けてくれてありがとうございました!」

「「「ありがとうございました!」」」


 孤児院のちびっ子たちが礼儀正しく頭を下げてお礼を言ってくれる。

 皆いい子たちだ。俺は一人一人の頭を撫でてあげる。

 普段の王子の時は、嬉しくねーぞ、みたいな顔をしている少年たちも《パンドラ》の今の姿なら嬉しそうに頭を撫でられている。

 くっ! この違いは何なんだ!? どっちも俺だぞ!

 ちょっと何とも言えない気持ちになったけど、全員なでなでしてあげる。


「それで? 彼らが最近王都に来た行儀の悪い冒険者たちですか?」

「そうだぞ! もしかして、女誑しの王子の兄ちゃんに聞いたのか?」

「ええ。彼が教えてくれました」

「あのなぁ……知り合いは選んだ方が良いぞ。あの兄ちゃんは女誑しだからなぁ…あれっ? そっか。兄ちゃんも女誑しなのか。だから知り合いなんだな?」


 孤児院のちびっ子たちはレナちゃんと戯れる女性陣を見つめて納得した。

 えっ? なんでそんな瞳で見るの? 憐み? 蔑み?


「やれやれ…類は友を呼ぶって奴だぜ」


 あの~? 達観しないでくれません?

 悟ってないでもっと子供らしくしようよ!


「でもお兄ちゃんもすごいよねー! あのレナが懐いてるんだもん!」

「そうだなぁー! それは誇っていいぜ! 女誑し二号!」

「レナが懐くとはなぁ! 流石あの女誑し一号と類友だぜ! よかったな! 女誑し二号!」


 うるさい! 女誑し一号って何だよ! 女誑し二号って何だよ!

 イラッとしたけど何とか我慢し、俺は無言でクッキーの入った袋を取り出す。

 世界の真理を垣間見た少年少女たちは、子供らしく瞳を輝かせて一列に並んだ。

 ありがとー、という子供たちに一人ずつ手渡していく。

 早速袋を開けて食べ始めるちびっ子たち。

 一口食べて、全員が固まった。


「う~ん……どこかで……」

「あぁ~!」

「これって……」

「なるほどねぇ…」


 う~ん、と考え込む少女。目を閉じて唸っている少年。頭をグリグリさせて悩む少年。ポムっと手を打って納得する少女。

 ど、どうした? 一体どうしたんだ? 美味しくなかったか?

 ちびっ子たちが俺を取り囲み、しゃがむように促した。

 俺はしゃがんで子供たちと視線を合わせる。

 少年の一人がコソコソと話しかけてきた。


「なあ兄ちゃん。あんた、女誑し一号………王子の兄ちゃんだろ?」


 な、何故バレたー!? 他の少年少女もみんな頷いている!?

 へ、変装は完璧のはずだ! 今までに誰もバレたことがない! なのになんでちびっ子たちにバレるんだ!?


「お兄ちゃん。このクッキーの味、お兄ちゃんが持ってくるクッキーと同じ味だよ」

「オレ、『ウチの料理人しか作れない美味しいクッキーだぞ!』って兄ちゃんが自慢してたの覚えてる」

「私も覚えてる! 王都中のお菓子の試食を食べ歩いた私たちの舌を舐めないで! ちゃんとわかるんだから!」

「こんなに美味しいクッキーはあの兄ちゃんしか貰えないからな!」

「隠しても無駄だぜ!」


 な、なんだってー! まさかそんなところからバレるなんて……!

 俺もまだまだだな。


「誰にもバラすなよ」


 俺は普段の口調に戻してちびっ子たちに囁く。

 ついでに、ちょこっと魔法をかけて、誰かにバラしても俺の関することが相手に聞き取れないようにした。

 ちびっ子たちは、やっぱり、と頷き、クッキーをポリポリと食べ始める。

 もきゅもきゅと頬を膨らませて食べながら、小さな手を俺に向かって突き出した。


「んっ? この手はなんですか?」

「口止め料。というか、口調がキモいぞ!」

「「「キモー!」」」

「うぐっ!?」


 口止め料だって? 口調がキモいって?

 うるわいわガキンチョども! もうお菓子あげないぞ!


「昨日連れていた二人の姉ちゃんに、あることないこと伝えてもいいか? それとも、二人と住み始めたのに毎日娼館に通っていることをバラそうか?」


 くっ! それは不味い! バレないように屋敷を抜け出しているのに、二人にバレてしまったら大変なことになる!

 少なくとも、何時間もお説教されるだろう。

 それは嫌だ! 正座疲れる! 脚が痺れる!

 子供たちのニヤニヤ顔がとてもうざい!


「……くっ! 王子でありSランク冒険者を脅すとは良い度胸じゃないか!」


 と言いつつも、俺はクッキーを取り出し渡していく。

 ちびっ子たちは更にニヤッと笑った。


「まだまだ足りないなぁー。思わずポロっと口が滑りそうだなぁー」


 悪い子に育ちやがって!

 俺はお菓子が入った籠を取り出してちびっ子たちに渡す。


「兄ちゃんの口止め料ってこれっぽっちか? レナとキスしたことを言いふらそうか?」

「くっ! 今度全員を連れてソノラが働いているお店で奢ってやる。これでどうだ?」

「何回?」

「さ、三回」

「あぁー口がポロッと…」

「五回ならどうだ!」

「ふっ! それで許してやろう」

「ありがとうございます!」


 何故俺はちびっ子たちに頭を下げているのだろうか?

 俺の頭をポンポン叩くな―!

 ドラゴニア王国第三王子でありSランクパーティ《パンドラ》のリーダーの俺は、今日も孤児院のちびっ子たちに恐喝をされるのであった。


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